見兼ねて回収したドワーフたちの中の2名。
私は名を問うても居ないので当然知らないのだが、彼らの希望は
彼らの事については仲間たちに一任しようと、なんとなく思った。
各自部屋へと戻るドワーフたちと、私たちと行動を共にしたいという奇特な2名、そしてそれを談話室へと連行し詳しく話したいという仲間たちを見送り、私とエマ、そしてサラはニナを手伝い食事の後片付けを行っている。
仲間の大半が食堂とキッチンに居るのだが、私は特に気にしていない。
面接とかそういった事は、出来る者に任せれば良いのだ。
比較的常識派なアリスと、この「霊廟」の管理者かつ慎重派なカーラであれば、余程の事がなければ判断を誤ることも有るまい。
一方で私たちは、と言えば。
エマはドワーフたちの心情を汲むとかそういう事には全く興味が無い。
サラは護衛対象程度には認識するだろうが、基本的にはザガン人形である。
何をしでかすものやら、とても安心は出来ない。
ニナは……彼女に料理以外の面倒事を背負わせるのは、流石に酷だろう。
私? ……基本感情任せの私だ。
適当に了承するか、旅の人数が増えるのを嫌がって断るかの単純な二択しか無い私では、場を荒らすだけで良い事もないだろう。
こうして並べてみると、ニナはともかく、ザガン人形組は全滅である。
至極当然の結論を笑ってみようと思ったが、何故か溜め息ばかりが溢れるのだった。
食後の作業も終わり、談話室へ行ってみると言うニナと、ニナを送ったら服飾室へと向かうと言うエマとサラを見送り、私は表情を引き締め直す。
「さて……」
ニナはアリスたちにお茶でも出す
エマは……まあ、私の服への被害が激減したので、放置して良い、と思う。
問題はサラで、エマの服作りに興味を持ったらしいのだが……エマに妙な影響を与えないことを祈るしか無い。
現時点でさえ、エマの服のセンスは少しばかりアレなのだ。
この上布地面積が減ったりしたら、街道を歩くのも憚られる。
街に入ろうものなら、捕縛される恐れさえあるだろう。
監督責任者として、私たちが。
それを考えるだけでも頭が痛いのに、走り去るエマが口にした「ニナの服を作る」と言う台詞には追いかけて止めようかと本気で思った程だ。
「やめろと言ってやめるなら、苦労も無いのですが……」
善良な料理人を巻き込むんじゃない。
僅かばかりの悩みと葛藤を抱えた私だが、頭を振って、その辺りの説教やら何やらもアリスとカーラに任せようと決め、すぐに頭の中から追い払った。
いつもの様にひとり、修練室へと足を向ける。
「今日は実地で
修練室へと足を踏み入れる前に、振り返った私は目視のみならず探知魔法を使い、あまつさえ「霊廟」の監視機能を使って仲間たちや客人たちが私を目視できる距離には居ないことを確認する。
他はともかくカーラは私の行動に気付いている、何なら私と同じく監視機能で私を視ている恐れも有るが、それなら逆に気にする必要もない。
彼女は、修練室の秘密を知っているのだから。
室内の一角、模擬戦等に使用する武器類を置いてあるスペースの奥の壁に、私はそっと手のひらを押し当てる。
それだけで壁は音も無く崩れ、そこには通路状の空間と、下りの階段が姿を現す。
どうでも良い修練やエマとの遊びでは決して開かない、もうひとつの修練室。
ほぼ1階フロアと同等とまでは思わないが、見渡すほどの広大な空間は、上の修練室と同等の強度を誇る壁に覆われていて、室内には同じ強度の頑健な柱が一定間隔で並んでいる。
「……いつ来ても、無愛想で面白みに欠ける空間ですね」
見上げてなお先にある高い天井を支える円柱群は、見様によっては神殿をも思い起こさせる。
それ以外には何も、設備らしきは照明のみと言うただただ広いだけの部屋。
ここでなら、私の魔法の修練も本気で行える、と言うものだ。
比較となる対象が無いので威力を正確に把握出来る訳では無いが、少なくとも周囲を気にせずブッ放せるのは有り難い。
冗談抜きで、エマの本気魔法……
何故言い切れるかと言えば、カーラに計算させたからだ。
そんな訳で、この部屋の心配は無い。
有りうる事故として私の魔法が暴発し骨格標本状態になったとしても、メンテナンスルームは上の修練室の向かいだ。
何から何まで安心安全である。
こんな場所がエマに知られたらどうなるか。
私たちはエマの全力近接戦に付き合わされ、カーラは人形と涙が幾ら有っても足りないだろう。
場合によってはエマの爆破魔法まで解禁されかねない。
故に私はカーラにだけはここの存在を知らせ、そして私たちは決死の思いでここの存在を隠蔽すると誓い合ったのだ。
そんな場所に訪れたのには、当然理由が有る。
別段面白おかしいモノでもなく、単純に魔法の修練の為だ。
敢えて言うのなら秘密にしたいのではなく、単純に広い場所が欲しかったからで、そうでなければ……例えば身体強化の練度を上げるとか、そういう事なら上で事足りる、と言う程度の事でしか無い。
私は深く息を吐くと、なるべく意識を集中させる。
私の周囲に浮かび上がるのは、16紋のパッケージ化された魔法式たち。
今日の襲撃で初めて試した、攻撃魔法の多面展開のおさらいである。
構想自体は少し前から有ったし、カーラに相談したりとかしていたもので、魔法式の展開までは何度か試したことは有った。
そもそもそんな事が出来たのかと問われれば、魔法の種類が違うとはいえ、今までも多面展開は何度か披露した事が有る。
魔法障壁によるあれこれだ。
複数枚周囲展開に始まり、それの貼り直し、複数枚を組み合わせて変形させて乗り物にもしたし、つい最近には銃器の真似事のようなものも造ってみせた筈だ。
その魔法式を障壁ではなく攻撃魔法に置き換えただけで、手順そのものはそれ程違いは無い。
しかし
実践してみて
まず、任意放射系の魔法は、予め放射時間を設定する必要が有りそうだ、と言う事。
これは集中を途切れさせてはすぐに切れてしまったり、逆に集中しすぎると。
「魔力が幾ら有っても足りませんね。あれでは魔力の垂れ流しと言っても差し支え無いです。……少なくとも、1対1では使えないでしょう」
それを防ぎつつ使い勝手を考慮するなら、いっそ放射時間を予め設定してしまうのが良いだろう。
そうすれば、あとはそれぞれを何処に向けるかとか、全部を収束させてみるとか、余計なことに意識を向けることも容易になる……と、思う。
それによる魔力消費に関しては、放射系魔法は魔力を喰う、と割り切るしか有るまい。
逆に単発系の魔法なら、発射タイミングと射撃目標に集中すれば良いだけなので、使いやすいだろうと思った。
この攻撃魔法多面展開のモデルとした某英霊も、基本的に単発攻撃を連射していた事を思えば、私の判断もそう間違ったものではないだろう。
モデルに会ったことが有るのか、と?
そんなものは無いし、単なる前世? の楽しい記憶だ。
ともあれ、試しに展開した火矢の魔法の同時発射は問題無いし、おおよその目標とした空間にきちんと収束していった。
火矢なら消費魔力も少なくて済むし、軽いだけあって展開も早い。
「扱いやすさも申し分ないですし、魔力消費も軽いのは良いのですが……」
しかし連射、という程素早く次を用意出来ないのは、欠点と言えば欠点だろうか?
これを克服するには現行の魔法式に、火矢を次々に撃ち出す新たな式を書き加えなければならない。
それで連射問題は解決するが、それでは結局放射式と同じ問題が出てくるだけだ。
弾数を制限するのは当然だが、それでも魔力コストは嵩んでしまう。
魔力コストを気にするのなら、最初から
「……化け物があちこち
私は溜め息を
これこそが、私が魔法発射装置を求める理由に他ならない。
魔法制御やら魔力コストやら気にすること無く、爽快にブッ放す。
攻撃系統の魔法を使うと自壊するので、それを避けようとすると面倒くさい。
魔力紋で自身の防御力が上がったとは言え、それを信じて頼り切れるほど、私は私を信用していないのだ。
なにせ、この世界には思わぬ化け物が潜んでいるのだろうから。
とは言え、それもカーラとの意見の食い違いから頓挫している。
完成が遠く見えない現状では、自力でなんとかするしか無い。
「配られたカードで勝負しろ、ですか。いつ思い返してみても、慰めにはならない言葉ですね」
攻撃魔法の多面展開に活路を見出した私は再び魔法式を展開する。
今度は、威力はそこそこで弾速もそれほど速いとは言えないが誘導性能の高い火矢では無く、1発当たりの魔力コストはあまり変わらないものの魔力を収束しているので威力も高く弾速も速い、しかし中~近距離の誘導性は絶望的な火弾を選択して。
16紋を越え、20、30……と増やしてみる。
そうして増やし続けると、今の私の魔力量では最大で300程度までは展開出来る事が判明した。
もっと増やせそうな余裕を感じなくもないが、実際に撃ってみれば結構な魔力を持っていかれる。
それに、無理に展開しているが、この空間ではこれ以上は流石に無理だ。
この数ともなれば発動で生じる衝撃も結構なものになるだろうし、室内ではこれでも厳しい。
何よりも、流石に展開に時間が掛かる。
一瞬と言える時間で用意出来る範囲なら20紋前後、100紋程度の展開は頑張って急いでも2秒程度。
実戦で障壁を併用しながら展開するなら、50紋前後、1秒程度が割ける限界だろう。
脳内に戦闘時の状況を描いてみるが、芳しくない結果に溜め息が漏れる。
「……アレの相手をしながら1秒もの時間を捻出するのも、なかなか骨が折れますが……ね」
明らかに対エマを想定したシミュレーションだが、正直な所、それでも勝てるイメージは持てない。
そもそも当てられる気がしない。
エマに対する苦手意識が根強いことにもう一度嘆息を漏らしてから、私は気持ちを切り替え、当初の目的である「魔法を爽快にブッ放す」事についての考えを巡らせるのだった。
ちょっとだけ、楽しそうなことをしていますね。