迷子のマリア   作:naow

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楽しげなマリアですが、現在の状況を覚えているのか……不安になります。


コスプレメイドの受難

 思う様魔法を撃ち続け、すっきりした私はスキップしたい気分を抑えて、澄まし顔で談話室の扉をノックし、いつものように返事が無いので勝手にドアを開ける。

 

「おー。また修練室か? なんだかんだ言ってお前、負けず嫌いだよな?」

 

 まず出迎えたのは、酔っ払い……もとい、アリスの脳天気な一言だ。

 

 数日前の手合わせで私が負けたので、その対策を練っていたとでも思ったのだろう。

 誰がそんな事に時間を使うか。

 

 そもそも今までは3シリーズのアドバンテージでなんとかなっていただけで、それが互角になった今、冒険者として様々な経験を積んだアリスと薄らぼんやりと自分のスペックだけでどうにかしてきた私とでは土台が違いすぎる。

 

 アリスが私より強くなったのなら安心して前に出すだけで、今更追いつこうとか足掻くわけが無いだろうが。

 

「はあん? 人形だってのに自己鍛錬とか、実に滑稽だねえ。そういう泥臭いの私、大好きだよ」

 

 そんな事を考えていると、最近加入した酔っ払い2号まで絡んできた。

 初めて会った時から思ったのだが、この人形はなんとも距離の詰め方が急過ぎる。

 思い返してみればエマもそうだし、思い起こせばメアリもそうだった。

 

 キャロルは割と普通な感じだったし、クロエは……私はロクに会話もしていないか。

 

 ともあれ、出会ったうちの過半数がこんな有り様とは、マスター・ザガンの人工精霊の傾向にはどうも偏りがあるのでは無いだろうか。

 少なくとも3体には、自分の命令を無視されている有り様であるし……本当に偉大な人形師だったのだろうか。

 

「マリアちゃん! カーラちゃんがマリアちゃんの邪魔をするなって言うから、待ってたんだよぉ! サラちゃんと一緒に、マリアちゃんの服を作ったんだぁ! 着てみて! すぐに!」

 

 さて、酔っ払い2体にどう冷水を掛けてやろうか、そんな呑気な事を考えていた私は、死角からの低空タックルを受けて横倒しになる。

 

 狭い室内で、身体強化を使って他人様(ひとさま)に飛びついてはいけません。

 

「……正直、良いタイミングで戻ってくれて助かったぞ。生きているか? マリア」

 

 エマにマウントを取られている状態からの力比べの様相を呈している私に、なんだかとても疲れた声がどんよりと流れてくる。

 目を向ける余裕は無いが、修練室の秘密を守るために、カーラが奮闘してくれていたのだろう。

 

 他の仲間に知られる訳にも行かず、不自然になってもマズい。

 そんな綱渡りのような状態でカーラがどれほど神経を削っていてくれたか、想像に余りある。

 

 とても有り難いが、それよりも今はエマを引き剥がして欲しい。

 

「エっ、エマ、まずは落ち着いて離れなさい。仮に着替えるとして、談話室(ここ)はマズいでしょう。ドワーフの方々や、ニナも驚いていますよ?」

 

 転がした視線の先では、室内の人数がいつもより多い。

 例の、ここに残りたいとかいうドワーフが、人形共に圧迫面接でも受けていたのだろう。

 

 もうここに残りたいとは思っていないことを期待はするものの、妙なトラウマでも植え付けて社会復帰にも支障が出たら困ってしまう。

 ウチの連中が遣り過ぎていないことを祈るのみである。

 

「ヤダ! 着てくれるって言うまで、どかない!」

 

 いつにないエマの強硬な姿勢に妙な胸騒ぎを感じ、その手元を見てみれば、そこに有るのは……なんだその、ええと……布切れ?

 服と呼ぶにはあまりにも布地が少ないと言うか、それは服なのか疑問しか無い。

 いやいや視線を転がしてみれば、サラが腹を抱えて笑い転げている。

 

 ……しっかり悪影響を受けている!

 

「絶対に! 着ません! と言うか、それは服ですか!? 私は下着で外を出歩くような度胸の持ち合わせは有りませんよ!?」

「ケチ! サラちゃんが、最近はこういうのがお洒落だって、言ってたんだよ!? ほら、早く脱いで!」

 

 うっかり手を離したり気を緩めたら、私の衣服は剥ぎ取られてしまう。

 手を組み合い睨み合う私とエマの姿を存分に眺めてから、その声は溜め息とともに押し出された。

「……そろそろ眠いし、ドワーフたちの話をしたいのだが? 脱ぐなり着るなり、早くしてくれ」

 余裕の無い中で視線を転がせば、偉そうなカーラがどういう心算(つもり)か溜め息を重ねているのだった。

 

 

 

 見兼ねたアリスの仲裁で、なんとか諦めた様子のエマ。

 エマに妙な事を吹き込んだサラには、後ほどたっぷりと説教することにして、まずは私も席に着く。

 気を利かせてくれたニナが私の前にお茶を出してくれるが、その表情は生温い笑顔だ。

 

 先程のエマとのキャットファイトが、余程面白かったのだろうか。

 

「……あー、まずは、先に皆とは話したのだがな。この2名が、私たちと共に旅をしたいと言ってきた者たちだ」

 

 何処か投げ遣りに、カーラは紹介とも言えないそれとともに動かした視線の先には、居心地の悪そうな2人の男性。

 なんともタイミングの悪い彼らには同情する他無い。

 

 想像出来るドワーフ像そのままといった風情の、短躯に長髪に髭まみれの男と、似たような身長に禿頭に髭まみれの男。

 まさかロン毛ヒゲだのヒゲハゲだの呼ぶわけにも行くまいが、はて、自己紹介なりなんなりは無いのだろうか?

「ああ、まずは今回、生命(いのち)を救ってくれた事に感謝する。俺の名はオリバー。武具を打つしか脳のない、つまらないドワーフだ」

 私がなんとなく視線を彷徨わせていると、まずは長髪の方が口を開いた。

 なるほど、ロン毛がオリバー、と。

「同じく、感謝する。生き延びることが出来たのは、あんた達のお陰だ。俺はハンク。オリバーとは長いこと一緒に仕事してた、腐れ縁さ」

 続いて頭を下げたのは、禿頭のドワーフ。

 2人は一緒に働いて居た、そういう事なのだろう。

 

 2人の特徴と名前は把握した。

 しかし、私たちと旅をしたいとは、どういう心境なのだろうか。

 

 この場の雰囲気を見るに、特に重いものも無い。

 私以外は皆、特に反対していないと言う事なのだろうが、果たしてそれで良いのだろうか?

 

 曲がりなりにもこちらは――私はガワだけとは言え――女性の集団なのだが、特に危機感とかそういった物の持ち合わせは無いのだろうか。

「カーラ、皆の意見は纏まっているのでしょう? 今更私の意見が必要とも思えませんが?」

 取り敢えず駄々を捏ねても始まらないし、私としても別段面白い訳でもない。

 素直に全員の意見に従う、そういう姿勢を見せた筈なのだが、何故か皆、信じられないモノを見るような目を向けてきた。

 

「……救助とか、そういう緊急事態はともかく、この『霊廟』に無闇にヒトを入れたがらなかったお前が、どういう風の吹き回しだ?」

 

 まず先陣を切って私に思ったことをぶつけてきたのは、カーラだ。

 まあ、言いたいことは理解(わか)る。

 

 だがしかし、そんな事はもはや今更だ。

 

 そもそもアリスとカーラが同行している時点でイレギュラーだったのに、気付けばカーラは「霊廟」の管理者になってしまっている。

 それ以上に、旅の中で料理人が居れば良いなあ、くらいの軽い気持ちからニナを誘ってしまっている時点で、もはやどうでも良くなっているのだと気付いて欲しい。

 

 ……どうでも良いからと言って、アリスもそうだが、サラの同行を認めたわけでは無いのだが、私以外が当たり前に受け入れてしまっている以上、意地を張る意味もないだろう。

 

「私の希望を聞き入れる気が有るのですか? そうなると、ニナ以外は全員出ていけ、と言うことになりますが。それでも宜しいと?」

 

 意味は無いのだが、一応意思表示だけは試みる。

 

 それに対する反応はと言えば、想像通りのモノでしか無い。

「お前は本当に、ひん曲がってるって言うか……。斜に構えて楽しいか?」

「素直じゃないねえ。私たちが居て楽しいって、ちゃんと言っていいんだぞー?」

「今更出て行けと言われても、私は拒否するぞ。何としてでも居座ってやるからな?」

「マリアちゃん、面白いこと言うよねぇ? ずっと一緒だったのにぃ?」

 どいつもこいつも、可愛げが無い。

 

 ……こいつらが可愛らしく「捨てないで」とか言い出したら、それはそれで鳥肌ものでは有るのだが。

 

「落ち着きなさい。それこそ今更、そんな事を実行したりしません。面倒です。そんな事よりも、オリバーさんとハンクさんでしたか? お二人が、私たちと旅をしたい、そう考えた理由を、私もお聞きしたいのですが」

 

 私は愉快な仲間たちを無視して、ドワーフたちへと向き直る。

 私たちの様子に困惑していた様子の彼らは、少し顔を見合わせるとそれぞれ頷き合い、私へと顔を向け直す。

 

 少し視線を下げた私の目には、ニナの淹れてくれたお茶がのんびりと立てた湯気が映っていた。




自業自得という言葉が、これほど似合う人形も居ません。
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