迷子のマリア   作:naow

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ドワーフの同行を打診されているマリア。彼女はどう受けるのでしょうか。


大興奮

 平和に暮らしていた所を襲撃され、故郷を破壊され、拉致された挙げ句に監視の厳しい街に押し込められ、やりたくもない武具制作を強要されていたドワーフたち。

 

 その境遇には同情する他無いし、彼らが安心して暮らせる場所まで送り届けたい、その気持ちは理解出来る。

 だが、その中から私たちと行動を共にしたい、そう思う者が出てくる事は想定の外だ。

 

 私の中に湧いた疑問は、程度の差はあれこちらサイドの全員が持ったもので、それは彼らも承知の事だった。

「俺は、あの街で生まれた訳じゃ無いが……まだ世界ってモンを知らんガキの頃、連れてこられたからな」

 ロン毛のオリバーが私と目を合わせながら、しかし遠くを見る様子で口を開いた。

 静かな語り口に、私を初めとして、誰も口を挟む事は無い。

「知っている世界は、陰気な仲間たちが面白くも無さそうに鎚を振ってる様子と、居丈高に俺達を監視して、時々憂さ晴らしみたいに暴力を振るう兵士たち。そして俺達を遠巻きに見て、助けようともしない街の人間たち。そんな狭い、箱と変わらん世界だ」

 予め話を聞いていたであろう仲間たちだが、誰も何も口を挟むことは無い。

 エマまでもが、先程までの騒がしさを何処に忘れたのか、難しい顔で黙り込んでいる。

 

 造られて(うみだされて)すぐに放り出された人形と、物心つく頃には陰気な箱庭に押し込められたドワーフ。

 知りたいとも考える前に世界の広さを体感させられた者と、知りたくても世界を知る術を持てなかった者。

 

「俺は世界ってモンを見てみたい。あんた等が旅の途中だって聞いて、羨ましくなったんだ」

 

 淋しげな晴れやかさで、オリバーは言葉を締めた。

 なるほど、彼の理由は良く理解(わか)った。

 

「次は俺だな? 俺は見ての通りの中年だ。頭の見てくれは、先にジジイになっちまったが」

 

 続いて、ハンクが言いながら、つるりと頭を撫でる。

 本人がその態度では否定も肯定もしづらいし、笑って良いものかも判断に迷う。

「俺は元々、あちこち旅して気楽に打つ様な根無し草だった。気分で打つ、気が乗らなきゃ良いモンが打てる筈もないからな」

 オリバーもそうだが、ハンクの顔は半分が髭で覆われているので、見た目で年齢を計ることは出来ない。

 話を聞く限り、オリバーは若年で、ハンクは中年と言う自己申告通りなのだろう。

「ああ、オリバーは70歳になったか? 俺はもうじき120か。とっ捕まって60年、面倒見てたガキがいつの間にやら相棒だ。時間の流れってのは早いモンだ」

 思ったよりもご高齢だった。

 ドワーフは人間種よりも寿命が長いとは聞くが、では彼らは人間換算でどれくらいなのだろうか?

 私の顔には、素直な疑問が浮かんでしまったようだ。

 

「はっはっはっ、冷静そうに見えて、案外素直な娘さんだな? オリバーはヒトで言うなら20そこそこ、俺は40くらいだろう。思ったより若いだろう?」

 

 快活に笑い、ハンクはまた自分の頭を撫でる。

 40でそこまで立派な輝きとは……ストレスの末なのか、遺伝なのか。

 いずれにせよ、軽々しく触れて良い話題でも無いだろう。

「まあ、俺の歳とかはどうでも良い事か。ともかく、俺は昔のように、気楽に旅してあちこち見て回りたいだけだ。この国はもう、駄目だ。出来るなら他所の国にでも行ってみたい」

 私の気まずさを感じ取った訳でも無いだろうが、ハンクも自分の思いを纏める。

 

「なるほど……お二人のお気持ちは判りました。しかし、それが私たちと共にと言うのは何故なのか、それがまだ理解出来ません。先に申し上げた通り、拒否する心算(つもり)は御座いませんが、その辺りも聞いてみたいのですが?」

 

 下手に跳ね除けるような態度を取ってしまえば、仲間たちがやいやい煩いだろう。

 慎重に言葉を選び、私の中に残る疑問を口にしてみる。

 そんな私に対して、オリバーとハンクは互いに顔を見合わせて頷き合う。

「俺は旅出来るほど、世界を知らん。鍛冶の腕は自信有るが、ひとり旅なんぞ野垂れ死に以外の終末が見えん」

「俺はまあ、恩返しで何ぞ武器でも打てないモンかとな? ひとり旅なぞ、恩を返してからでも遅く無いからな」

 そして私に向けられたその口からは、それぞれ明快な理由が返ってきた。

 

 なるほど理解(わか)りやすい。

 

 私は静かに頷くと、ニナの淹れてくれた、すっかりと冷めてしまったお茶を口に運ぶのだった。

 

 

 

 ドワーフ2人の話を強引に総合すれば、まあ、期間限定の同行者、と言うことなのだろう。

 オリバーは少し同行が長くなるかも知れないが、ハンクは私たちに武器を打ったらさようなら、と言う事の様だし。

「まあ、そう言う訳だ。この2人なら、お前の望む武器が作れるのではないか?」

 カーラの声らしきものが、私の鼓膜の上を滑って流れ去る。

 しかし私には、欲しい武器など無い筈だ。

 仲間たちには需要が有るだろうが、私にとってはどうなのだろうか。

「えー? マリアちゃん、武器とか欲しいのぉ?」

 一瞬エマかと思ったが、これはエマを真似たサラの声だ。

 何を言っているかは知らないが、悪巫山戯などしてエマに解体されても知らないぞ。

「なんでサラちゃんが私の真似するのかなぁ? あ、私は刃物が欲しい!」

 エマなら、多分刀剣の類……いや、短刀とかも有り得るか。

 アリスはどうせ、新しい剣とかその辺りだろう。

「武器かあ。まあ、今んトコ防具は間に合ってるし、そうだなあ、今持ってる『人形斬り』よりも短い剣が欲しいかな。狭いトコで振り回せそうなやつ」

 カーラなら、なんだろうか?

 カーラならば、操り人形に持たせる武器群か。

 カーラの注文がいちばん時間と資材を喰いそうだ。

 或いは、カーラの魔法知識を活かした、面白おかしな何か、だろうか?

 

「マリア? マリア! ……駄目だ聞こえていないな。何を考え込んでいるのやら、どうせロクな事では無いだろうが」

「あん? ……あー、こりゃダメだ、すっげー遠くを見てる。まあ、珍しく反対って騒がないし、放っといて良いんじゃないか?」

「マリアちゃん、時々こうなるよねぇ? お腹空いてるのかなぁ?」

「はあん? 生肉でも口に詰めときゃ良いんじゃないの?」

 

 遠くの声がなんだか喧しい。

 何を考えていたんだったか?

 カーラなら、面白おかしい……面白い……?

 

「カーラ!」

 

 急激に意識の焦点が合った私が顔を向けると、カーラは驚きかつドン引きの表情で、若干腰が引けている。

 他の仲間やドワーフたちも静かで、声を発するものは居ない。

 

 やはり先程までの騒がしい声は、幻聴か何かだったのだろう。

 

「……な、何だ? 何事だ、お前の奇行は心臓に悪いのだ、手加減してくれ」

 何やら喚いているカーラに、私は瞬間的に席を立ち、間合いを詰めて掴み掛かる。

 

「だから! そういうのを止めろと言っているんだ!」

「カーラ!」

 

 カーラの望む武器を考えた瞬間に、私の脳裏に閃いたモノ。

 カーラと相談し、時に激論を繰り広げた、私の求める武器。

 

「カーラ! 彼らなら! 私の、あの武器を作れるかも知れません!」

「だからさっきからそう言っている! だからこそこの2人の逗留、と言うか同行を認めようかという話だろうが!」

 

 私とカーラは別々の意味で興奮し、怒鳴り合う。

 

 お互いの意思の疎通が出来ていないと気付くまで、私はカーラをガクガクと揺らし、とめどない構想を声高に語り続けるのだった。




……ここまでヒトの話を聞かない子でしたか……? いえ、そうだったかも知れません。
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