迷子のマリア   作:naow

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突拍子もない行動に磨きが掛かるマリア。彼女の師として、振り回される周囲に申し訳無さが募ります。


人形、皮算用に溺れる

 特に賛成な訳でも無かったが、さりとて反対する理由も乏しく、と言うか寧ろ興味も無かったドワーフ2名の同行話。

 

 しかし少し考えてみれば、彼らは武具職人。

 見た事もない珍妙な品を作るのは勝手が違うだろうが、金属類の扱いは手慣れたものだ。

 

 それならば、私が求めてやまないあの武器も、作れてしまうのではないだろうか?

 

 私の中で期待は高まる。

 とは言え、作業場所の問題が残っているか。

 こればかりは、客室をひとつ潰して急造で、と言う訳にも行くまい。

 

 ん? 作業場所? なんだか身近に、そんな設備を見たような気が……?

 

「……浮かれ顔してみたり考え込んでみたり、忙しい事だな? 何を考えているのか透けて見える辺りは、まあ可愛いものだと思うがな」

 

 思考の間隙に、カーラの声が差し込まれる。

 バッと顔を向けた私は、開こうとしたその口をカーラに片手で塞がれる。

 珍しく先手を打って来たカーラに驚きつつ視線を周囲に走らせると、カーラの奇行に驚いた顔が並ぶばかりだ。

 

『マリア。お前が何を口走ろうとしているのか理解(わか)るが、まずは落ち着いて状況を整理しろ』

 

 いったい何がカーラにこんな行動を取らせているのか、心当たりの無い私は却って冷静になってしまう。

 そんな私に、カーラはいつもの小声で語り掛けてきた。

『落ち着けと言われましても、もうこれ以上無い程に引いてしまっていますが……。どうしたというのですか?』

 正直、状況の整理と言われても、である。

 

 まず、私たちはドワーフの集団を保護し、なんやかや有って、明日からはクアラス港を目指して移動を開始する事になっている。

 で、その集団の中から2名、オリバーとハンクが私たちと旅を共にしたいと言い出した。

 オリバーは世界を見たい、ハンクは恩返しに武具を造りたい、と言う理由からだ。

 で、私たちは特に拒む理由も思い当たらない。

 

 うむうむ、私は冷静に顧みる事が出来ているぞ。

 

『……お前、鍛冶工房の事を言おうとしたな?』

 

 そんな出来る私を、カーラは半眼で睨む。

『え? はい。彼らにはうってつけの環境ではないですか。それが何か?』

 カーラの態度言動、その全てが理解出来ない。

 武具を作りたいと言うものが居て、鍛冶工房が有るのに、なんでその両者を引き合わせてはならない、とでも言いたげな態度を取られなければならないのか。

『私は鍛冶の何たるかは知らん。だが、人形師としてはある程度の知識はある。その私から見て、「霊廟(ここ)」の錬金工房は相当なレベルだと断言出来る』

 全く腑に落ちない私の肩を掴み、カーラは言葉を続ける。

 言いたい事は理解(わか)るが、だから何だというのか。

 

 これでは、買い言葉を投げ返そうにも言葉が足りないだろうが。

 

『……鍛冶仕事に誇りを持つドワーフにあの工房を見せて、気分が高揚せずに居られると思うか?』

 

 私がどうやって言葉を返そうか悩んでいると、カーラは構わずに言葉を重ねてくる。

『それはそうでしょうね。良いではないですか、職人が喜ぶ事の何処に問題が有るのです?』

 喜んで貰えるなら良いことではないのだろうか?

 少なくとも、逆よりはよほど良いだろうに。

 未だにカーラの言いたい事が掴めず、私の中には疑問符が積み重なるばかりだ。

『あの2人にとっては、良い事だろうさ。だが、あの2人が鍛冶工房を見て興奮して……他の仲間にうっかり話したとしたら、どうなると思う?』

 私の能天気でお花畑な回答に、カーラはちらりと視線を外すとドワーフ2名の方へと視線を走らせる。

 私もそれを目で追い、そして気付いた。

 

 鍛冶が生き甲斐のドワーフに、良い鍛冶場が有ると紹介するまでは確かに良いだろう。

 だが、それを見たあの2人が、他の仲間に黙っているだろうか?

 では口を閉ざす様に頼んだとして、彼らがその現場を見た興奮を隠し通せるだろうか?

 

 ……ほんの短い時間、少ない言葉を交わしただけで断言するのは横暴に過ぎるが、楽観もまた気が早いだろう。

 

『……では、彼らを鍛冶工房(しごとば)に案内するのは……』

『時期尚早、と言う事だな。クアラスで他のドワーフを預けることが出来たら、問題は無かろうよ』

 

 カーラの言葉に動揺し彷徨(さまよ)う視線の中では、アリスが渋い表情で頷いている。

 それはつまり、今すぐ武具職人と私の武器案を語り合うことは出来ない、と言う事か?

 私の膝から、力が抜ける。

 

「そんな……せっかく……私の……」

 

 あまりに酷い。

 上がったテンションが、そのまま地べたに叩きつけられた気分だ。

 ショック過ぎて、私の言葉は普通の音声となって唇から溢れる。

 

 せっかく、私の考えた魔法銃の構想を、細部まで詰めることが出来ると思ったのに。

 

『いや、まああれだ。設計について話を詰めておくのは良いのではないか? それをするだけでも、作業に移る際には違うだろう?』

 

 カーラの小声の慰めが、打ちひしがれた私の心に優しく染み込む。

 顔を上げれば、なんともバツが悪そうに目を逸らすカーラが頬を掻いている。

『……何故目を逸らしているかはともかく、言う通りですね。彼らとなら、良い設計が出来そうです』

 私の心に、再び希望の火が灯る。

 

 最善の手を打てないのならば、次善の手を。

 先人は、良い言葉を遺してくれたものだ。

 

『……なあ、もう茶番は良いか? そのはしゃぎっぷりからして、結局この2人、受け入れるって事で良いんだよな?』

 

 浪漫も私の心情も知らないアリスが、冷めた目で水を差してくる。

 

 顔を向ければ、困惑のドワーフ2名とニナ、何故か楽しそうなエマ、そしてドン引きのアリスとサラが、私とカーラを眺めているのだった。




アリスの気持ちはとても良く理解出来ますが、今回のカーラは巻き込まれただけです。
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