迷子のマリア   作:naow

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目的が決まっても、行動しなければ何も始まりません。


それぞれの時間の使い方

 早朝、私は人気(ひとけ)のない山林を走っている。

 

 ドワーフの武具職人が束の間旅に同行することになり、すなわち私の魔法銃の作成が現実味を帯びた事で俄然やる気が出た訳だが、現実は非情である。

 カーラは長距離の移動には向いていない、エマは何処に向かうか判らない、サラはクアラス港の大まかな方向しか判らない。

 必然、表の移動は私かアリスが担当することになる、と思ったのだが。

 

 そもそも「霊廟」に出入りするための扉は、私かカーラしか扱えない。

 

 試しにアリスに持たせようと思ったのだが扉は私自身に紐付いているため、彼女の魔法鞄(マジックバッグ)に仕舞うことは出来なかった。

「扉を背負って走れば良いではないですか」

「ふざけんな。目立つし風の抵抗が凄そうだし、何より持ち歩くには邪魔だろうが」

 無茶を言ってみたが当然のように拒否された為、結局移動は私が担当する以外に無くなってしまった。

 

「……移動用の車を作るので、誰か同乗を……」

「断る」

「嫌だ」

「私もパスだなー」

「私は良いよぉ?」

 

 せめて全員道連れに、と思ったが、エマ以外には却下されてしまった。

 エマと2体(ふたり)旅も悪くはないのだが、途中で飽きたとごねられたら面倒だ。

 そんな訳で、私は不貞腐れて山林を走り、時たま見掛けるアイセスブルトの工作兵集団を憂さ晴らしで蹂躙している次第である。

 

 ――こいつらも、懲りない事だ。

 

 適当に掘った穴に手足を毟った死体を放り込み、魔法で焼却しながら私は考える。

 ――この工作兵は、どうやって都合しているのだろうか?

 

 アイセスブルトという国は、それ程に人員が豊富なのだろうか。

 私は先日の大暴れの際の記憶を引っ張り出すが、所詮は外周の数カ所を廃墟にしたのみである。

 あれであの国の人口を測るのは難しいが、思えばやたらと高い壁を張り巡らせたり、威圧的な門を造ったり、生半な国力で出来る事ではあるまい。

 もう少し暴れたほうが良かったか、いや、今見掛けるのはあの大暴れの前に派遣された者たちだろうし、この後は暫く工作兵を派遣する余裕など無い筈だ。

 

 少なくともエリスの住む街に影響が無ければ良い訳で、あの街の防衛のための人員も日々増加していた。

 私に出来る事はもう無いだろう。

 それに、私たちはアイセスブルトの明確な敵になったので、表立ってあの街に立ち寄るのは今後暫くは難しい。

 ほとぼりが冷めるまではどちらからも距離を置き、周辺国がアイセスブルトを実力で黙らせるのを待つ他無い。

 

 エマとニナには申し訳ないが、エリスの安全の為にも我慢して貰おう

 

 移動を開始してすぐにまた探知に反応が有る。

 探査を飛ばして、私は溜め息を落とした。

 さっさと移動したいのだが、見掛けた以上無視も出来ない。

 

 私は進行方向から少し外れているその反応に向けて、全力での移動を開始するのだった。

 

 

 

 昼までの移動でかなりの距離を稼ぎ、具体的にはハイペリオを抜けてクアラス港を擁するノヴァックへと侵入を果たしていた。

 ハイペリオでは、都合6集団120名程度を葬った。

 都度洗浄の魔法を使っているが、もうそろそろ、風呂に浸かりたい気分である。

 

「お? もう昼かあ。お疲れさん」

 

 談話室に戻った私をまず労ったのは、アリスだった。

 と言うか、アリスしか居ない。

「ニナちゃんは昼の用意してるよ。カーラはドワーフたちと食堂で何やら話し込んでる。エマちゃんとサラは、修練室で遊んでるよ」

 私が不思議そうな顔をしているのに気付いたのか、アリスはティーカップを置きながら説明してくれた。

 あの中身は、恐らくブランデーであろう。

貴女(あなた)は、ここで何を?」

「私? ……ドワーフの前で出せないから、ここで飲んでるんだよ。ブランデーだって、好い加減減って来てるってのに」

 特に興味もないが試しに聞いてみれば、案の定であった。

 在庫が無ければ友情を育む余裕も無い、と言う事だろう。

 

「……流石に、カーラは工房へ行くこと自体を控えているのですね。確か、彼女の操り人形もまだ補修出来ていない筈ですが」

「そりゃまあ、ね。工房エリアに連れ込んで、全員ここに居着くとか言い出したら面倒だし。そんなだから、エマちゃんに誘われた時にはそりゃもう凄い形相で断ってたよ」

 

 私が記憶を手繰ると、アリスがそれに被せて現状を教えてくれた。

 エマが誘うと言えば、修練という名の地獄の遊びか、服飾室での裁縫作業か。

 現状ではどちらも却下であろうが、そこまで必死に拒否したということは、遊びの方であろう。

「で、サラがエマの遊び相手を務めている、と。始めてからどれくらい経ちました?」

 私の口から出た素朴な疑問に、今度は即座の返答は無い。

 

「……やばいな。もう2時間は過ぎてるかも?」

 

 ティーカップ片手に、しかし心持ち青い顔でアリスは私を見る。

 正直、「霊廟(なか)」の事など私には把握出来ている筈もないのだから、そんな顔を向けられても困るのだが。

「お昼ですし、迎えに行きますか。サラがまだ生きていると良いですね?」

「縁起でも無いこと言うんじゃ無いよ……」

 ブランデーを飲み終えたアリスと肩を竦め合い、私は入ったばかりの談話室を後にするのだった。

 

 

 

 私たちが修練室で見たものは、床に大の字に転がるサラと、木人もどき相手に木剣を叩きつけ続けるエマの姿だった。

 

「あー! マリアちゃんだ! ねえねえ、一緒に遊ぼうよぉ!」

 

 サラに同情の視線を向ける私に気付いたエマがすっ飛んでくるが、絶対に御免である。

「午後からも移動で出なければいけませんので、ご遠慮させて下さい。そんな事より、もうお昼ですよ?」

「そんな事て……」

 澄まし顔でエマを押し退ける私と床に転がるサラを交互に眺めて、アリスは何とも言えない表情だ。

 下手に口出しして自分がターゲットになるのは御免なのだろうが、サラの有り様に無言でいる事も出来なかったのだろう。

 

「私はそんな事で終わるのか……? 私の墓も、ここに作ってくれ」

 

 床の上から私に顔を向けるサラは、思ったよりも元気そうである。

「馬鹿な事を言ってないで、お昼ですよ。ニナも待ってるでしょう。……アリス、サラをメンテナンスルームに運んで貰えますか?」

 とは言え、すぐに自力で起き上がれそうには無い。

 放っておくのも面白……可哀想なので、世話をアリスに押し付ける。

 

「おー、任せろ。……サラ、生きてるかー?」

「死んでる、めっちゃ死んでるー。化けて出てやるー」

 

 肩を竦めたアリスは声を掛けながらサラに近付き、サラは余裕の有りそうな返事をしている。

 あの様子なら、メンテナンスにもそれ程時間は掛からないだろう。

「もうお昼なのかぁ。うん、それじゃあ食堂に行こう! 今日のお昼は、何かなぁ?」

 誰も遊んでくれないと気付いたらしい、エマは気持ちを切り替えてくれた様だ。

 私の身の安全のた為にも良いことである。

 

「さて、何でしょうね? でも、きっと美味しいモノです。楽しみですね」

 

 その食堂ではカーラがドワーフたちとあれこれ話しているらしいが、いったい何を話しているのやら。

 話が盛り上がりすぎて工房に案内、なんて事にならなければ良いのだが、果たしてカーラの良識に何処まで期待出来るのか。

 

 テンションの高いエマに手を引かれながら、私は行く手の食堂を見やる。

 さて、今日の昼食はなんだろうか。

 

 自分でも理解(わか)る逃避を行いながら、エマと並んで歩くのだった。




色々と目を背けたいのは理解(わか)りますが、まずはクアラス港までの距離という現実を見て下さい。
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