面倒事を嫌ったのか、カーツは物凄く素直に私の願いを聞き届けてくれた。
まあ、本当に面倒事の匂いを嗅ぎ取った彼は、さっさと私の用を済ませて追い払ってしまいたいのだろう。
……お陰様で治安維持部門の責任者(らしい)テイラー氏に早々に再会出来たのだから、文句は無い。
「今回は、難民を保護されたと聞きましたが……?」
そのテイラー氏も何やら胡散臭げな、そんな視線を隠しもしない。
前回は、沈んだ客船から出来る範囲で生存者を救助してきた。
今回は、周辺に戦火を振りまく迷惑国から難民ドワーフたちを保護してきた。
まあ、普通に考えて……非常に怪しかろう。
「ええ、まあ、有り体に言えば」
改めて自身を振り返ってみれば、私であろうとも口籠ろうと言うものである。
「……詳しい経緯を、お聞きしても?」
前回と同じ、清潔感の有る室内で、やはり背後にカーツ氏他の気配を感じながら、私は溜め息を漏らす。
事が事だけに詳しい経緯の説明は当然なのだが、それをするという事は……私が何故、そこに居たのかを詳しく説明する事になる。
想定していなかった訳では無い。
しかし実際問題、いざこうして街の治安を守る為に尽力している方々に、私がこれから行うのは犯行の自供である。
当然、誘拐や拉致などではなく、他国、それも敵国とは言え軍事拠点への破壊活動と民間人虐殺だ。
良い反応など得られる筈は無い。
決まっていた筈の覚悟をもう一度持ち上げ抱え直して、私は口を開くのだった。
私が経緯の説明を終えて口を閉ざしても、暫くは誰も口を開かなかった。
テイラー氏でさえ、すぐに私への確認の言葉を向ける事が出来ない様子で、机に肘を突いて両手の指を組み合わせ、それで表情を隠しつつ何か考えている。
「……あー、ええと、良いか? マリア、お前さんの話を聞く限り、だけどよ。お前さん、大量殺人と無差別破壊をやらかしてきた、って風に聞こえたんだけど、間違ってるか?」
そんな気不味い静寂を破り、背後から私に声を掛けてくる者が現れた。
港湾維持局外回り組の一隊を預かる、カーツだ。
「いいえ、間違っておりません。先程も申し上げました通り、私が行ったのは軍事拠点数カ所の破壊、民間人を含む街や村をやはり数か所壊滅、それに伴う虐殺行為。そして、穀倉地帯や採掘施設への破壊工作です」
私は肩越しに振り返ってカーツの目を見上げ、淀み無く答える。
港湾維持局の局員として、犯罪者に対しては相応に対応しなければならないのだろう。
そして私は、どう控えめに言っても立派な重犯罪者である。
このクアラスで暴れた訳では無いとは言え、呑気に無罪放免で放り出す訳にも行くまい。
「マリアさんの処遇に関しては、慎重に決めさせて頂くとして……難民の保護というのは、どの様な経緯だったのかお聞きしても宜しいでしょうか?」
硬い声に視線を向け直して、私は自身の間抜けさに呆れの溜め息が漏れそうになる。
事の最初から話す
本題を忘れてどうするのか。
「保護したのは、ドワーフが22名。……アイセスブルトの軍部に故郷を奪われ、拉致された挙げ句に武具の製造を強要されていた彼らは、どうやら私たちが起こした騒ぎに乗じて蜂起したらしいのです」
先程までと同じく、私は静かに言葉を紡ぐ。
「しかし、いかに屈強なドワーフとは言え、訓練された兵士たちに対抗出来る筈も無く。すぐに劣勢に追い込まれた彼らは必死の逃亡を行いますが……生き残ったのは、22名のみだった、と言う事です」
出来る限り簡素に努め、私は彼らの身の上に起こった事を、淡々と並べていく。
「生き残りが、それだけ……? 他のドワーフ達は、本当に死んだのか?」
私の言葉が途切れると、カーツが言葉を差し込んでくる。
必死で逃げ出した彼らに、生き残りは居ないと断言出来た根拠が何なのか、気になったのだろう。
或いは、本当は生き残りが居て欲しい、そんな思いも有るのだろうか。
彼がそんな願いを抱えているのなら、私は気が重い。
それは叶わぬものなのだと、伝えなければならないからだ。
「前提として、アイセスブルト皇国内には、彼らドワーフを集めて管理し、武具を作らせる街が数か所存在していると言う話です。つまり、あの国のドワーフが全て殺された、と言う意味では無いという事は、お伝えしておきます」
振り返り、再びカーツの目を見上げながら、私は唇を開く。
「ですが、少なくとも……。彼らが居た街のドワーフは、ひとり残らず殺されておりました。生き残りが居れば保護したかったのですが、私たちが訪れた時にはもう……。広場に集められた彼らの遺体は、酷い有様でした」
逃げ延びたドワーフ達の悲観的な予想ではなく、私たちが実際に目にした現実。
それをやや柔らかな言葉に替えたが、カーツには、彼に率いられる隊員たちには、充分なものであったらしい。
「民間人への攻撃……
テイラーの声が、重く響く。
顔を正面へと向け直せば、姿勢は変わらず、しかし先程までとは違う表情で彼は私を見据えていた。
此処はその言葉に乗り、全てはドワーフたちの無念を晴らす為だ、と言うべきなのだろうか。
私は小さく首を振った。
「確かに、タイミングとしてはその通りですし、彼らの境遇が私たちの行動をエスカレートさせたのは否定しません。ですが、私たちがあの国に攻撃を加えることは、最初から決めていた事なのです」
懺悔ではない。
そんな繊細な感情の産物ではない。
ドワーフたちの保護は、確固たる決意で行われた事の、その合間に起こったイレギュラーでしか無かったのだ。
「私の友人が、心優しい料理人が、この国の北の村で、家族とともに平和に暮らす為に。国境を越えて侵入してくるアイセスブルトの工作兵をいちいち潰していたのでは埒が明かないと思ったのです」
あくまでも静かな私の言葉を、テイラーは黙って受け止める。
「いっそアイセスブルト本国にダメージを与えれば、工作兵を送ってくるような余裕も無くなるかと思った、それだけの事でした。ドワーフを保護したのはついでと言えば彼らには失礼でしょうが、彼らと出会い境遇を知る事が無かったとしても……規模は多少おとなしくなったかも知れませんが、攻撃自体は行ったでしょう」
語る私の目を、テイラーはまっすぐに見据える。
「……たった一人の友人の為に、
「私は所詮はザガン師に作られた、ただの人形に過ぎませんから。国同士の政治的な駆け引きとか、そう言った迂遠な事に関わる事は出来ませんし、関わる気も有りません。私に有るのは、ヒトの手には余る暴力だけ。それを友には知られないよう、しかし私の持つありったけを、叩きつけて差し上げようと思っただけです」
私もまた視線を逸らすこと無く、ただ静かに見返しながら、素直な言葉を紡ぐ。
ただひたすらに、私は友を、エリスの平穏を願ったのだ。
ドワーフたちと触れ合った事で怒りの炎は大きくなったし、結果行動はより過激になったと思うが、根底に有ったものと言えば、ただそれだけなのだ。
「……事情は理解しました。
テイラーは私の話を聞き、その上で現状で最も重要であろう事を、難民の保護を優先すると決めたらしい。
普通に考えたなら、私たちはこの国の法で裁かれるか、災禍の元凶としてアイセスブルトへ送り付けられるのだろう。
どちらであっても素直に従う訳には行かない。
促されるままに席を立ち、広めの空間を見繕っていつものドアを取り出しながら、私はいざという時の逃走経路の確認の為に、あちこちに視線を走らせるのだった。
此処では無闇に大暴れをしたくは無いのでしょうが、果たして上手く切り抜ける事は出来るのでしょうか?