迷子のマリア   作:naow

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普通に考えて大罪人。マリアはまともな扱いを受けられるのでしょうか。


邂逅に向けて

 私の報告……というか、相談? お願い?

 いや、彼らの視点で言えば単なる自首か。

 

 海を渡ってやってきた異国人が国ひとつ隔てた他国で大罪を犯したのだと言われても、彼らにしてみれば困惑するばかりであろう。

 良い迷惑というものの体現者となった私だが、好きでなった訳では無い。

 

 つまりは、私は悪くない、そういうことだ。

 

 ともあれ、そんな私の話を聞き終え、その上でなにやら顔を突き合わせてゴニョゴニョと言い合っているかと思っていたら、私は彼ら外回り組に囲まれて移動させられている。

 なんでも保護したドワーフたちの再保護――ややこしいことだ――の為に場所を移すのだとか。

 

 別にあの会議室で良いと思うのだが、まあ、私が口を挟む事でもなかろう。

 

「お前さん、なーんか自分に都合の良いこと考えてないか?」

 

 私の隣を歩く港湾維持局外回り組のまとめ役であるカーツが、なんだか不満気な声を向けてくる。

「おやおや。なんの僻みか存じませんが、言い掛かりはやめて頂きたいものです」

「僻んじゃいねえし、言い掛かりじゃなくて真っ当な疑問の筈なんだがな?」

 涼しい顔を向けてみれば、小憎らしい言い草を返される。

 

 どうも私は、口の減らない男に縁が有るようだ。

 

 私とカーツ氏がほのぼのと会話をしている間、他の外回り局員やテイラー氏は無駄に口を開くこともなく、何処か緊張感を纒って居るようにも見える。

 私は何処へ連れ出されるというのか。

 

 聞いた所で特に詳しくもない建物内、なんのヒントにもならないだろう。

 流石にいきなり抹殺に動くようなことは無いだろうが、じゃあどういう意図なのかはまるで読めない。

 なんとなくウロウロさせる視線にそんな想いを乗せては見るものの、当然誰もそんなものを汲んでくれたりはしないのだった。

 

 

 

 建物の陰に隠れて陽射しが遮られ、港町の熱気も随分と和らいでいる。

 のは良いのだが、案内に任せてついて来てみればまさかの屋外である。

 

 思い返せば奇妙なものだ。

 私の話を聞き終え、何やら考え込んでいる様子のテイラー氏だったのだが。

「少しお待ち下さい」

 いつも通り扉を取り出そうとした私を止め、尚もあの何処かで見たような、テーブルに肘を突き、組んだ指に口元を隠すポーズで何やら思案を巡らせていた。

 

 そんなことをされてはただ待つしかなく、魔法鞄(マジックバッグ)にアクセスしようとしていた右手を虚しく宙に彷徨(さまよ)わせて、私は視線をテイラー氏に固定させる。

 

貴女(あなた)の口振りでは、大きな怪我や病気を患っている者は居ない様子。そういうことであれば、ここは場所を移しましょう」

 そうしてやや間をおいて私へと顔を向け直した彼は、当たり前の調子で場所の移動を提案してきたのだ。

 そういう事とはどういう事か。

 言葉遊びにもなっていない事を思う私だが、真っ直ぐ向けられたテイラー氏の瞳には、軽口を叩くのも気が引ける。

 

 そうして素直に従った私とエスコートの(いか)つい男どもの行き着いた先がここ、聞けば港湾維持局庁舎の裏側に位置する此処(ここ)は当然人通りとは無縁で、主におじさん職員の憩の場となって居るのだとか。

 私たちが来たときも数人、陽射しを避けてお休みの様子だったのだが、カーツの部下によって散らされている。

 せっかくの休憩を無情に奪われる彼ら彼女らには、同情を禁じ得ない。

 

「そう言えば、貴女(あなた)のお仲間は、例の魔法空間ですか?」

 

 悲哀の背中を見送る私に、テイラー氏が疑問を投げ掛けてくる。

 いや、普通に考えて単なる確認だと思うのだが、如何(いかん)せんカーツに無職かと疑われた忌々しい記憶が疑心を突付(つつ)いてくるのだ。

 他の仲間に見捨てられたのかと思われているかと邪推してしまうのは、私の所為(せい)ではないだろう。

 

 どう考えても、カーツが悪い。

 

「はい。彼女たちは何時(いつ)も通り……ああ、そう言えば」

 

 そんな疑念やら邪念やらをおくびにも出さず、澄まして応えようとした私だったが、ふと思い出した。

貴方(あなた)がたの言う英雄、『剣舞(けんぶ)』サラとも合流しました。恐らく出て来ると思いますが……」

 言いながら視線を巡らせれば、私が何を言い出したのか、イマイチ理解出来ていない顔が並ぶ。

 まあ、非武装民間人の大虐殺をしただの、ドワーフたちが武装蜂起した挙句に少数を残して壊滅した、なんて話の最中(さなか)に意識しても居ないことを聞かされても、咄嗟の反応など難しいだろう。

 恐らく最も早く理解に届くであろうテイラー氏でさえ、ほんの一瞬、その表情を漂白されていた。

「……実際に会ってみれば、案外ガッカリするかもしれません。あまり期待しないで下さい」

 私が言葉を結ぶと、(ようや)く空気がざわめきだす。

 

 幾ら私でも、このざわめきは私の言葉全てに対するモノとは思っていない。

 何なら結びの注意喚起は、誰の耳にも届いていない可能性すらある。

 

 まあ、混乱していようが何だろうが、本来の目的はドワーフたちの保護要請なのだ。

 余計な発言で混乱が巻き起こっただとか、誰の所為(せい)で場が混沌としているのかとか、そんな事は知ったことではない。

 

「いやいや待て待て! 『剣舞(けんぶ)』だと?」

 

 周囲を無視していつもの扉を取り出す私に、混乱のままにカーツが詰め寄ってくる。

 気持ちは理解(わか)らなくもないが、扉を開けると1番に飛び出して来るのはきっとエマだ。

 危ないと思うのだが、まあ、どうでも良いか。

 

「カーツ、落ち着きなさい。マリアさん、詳しく聞きたいのは私も同じですが、まずは(くだん)のドワーフたちをお願い出来ますか?」

 

 そんな私たちに、やはり誰より早く理解に到達したテイラー氏が冷静な目を向けている。

 カーツはたじろいだように退き、私は目を合わせて頷いてみせる。

「かしこまりました。特に重篤な怪我に関しては私どもがケアしましたが、念の為に健康チェックをお願いします」

 応える私に頷きを返すその向こうに、此処(ここ)までの移動の間に走らせた外回り局員の数名が呼んできた、内勤らしき者たちの姿が見えた。

 

 その確認も出来たので、視線を身体(からだ)ごと向け直し、私は見慣れた扉のノブを押し下げるのだった。




サラだけが問題であるように言っていますが、エマもそうですし、マリア自身も大概です。
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