迷子のマリア   作:naow

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罪の告白は、どんな状況を呼び寄せるのでしょう。


解放の序曲は意外と軽快

 ドアノブを押し下げただけで、扉は内側から勢い良く開かれる。

 ……扉が傷むから丁寧に扱ってくれと毎回言っている心算(つもり)だったのだが、見た目よりも遥かに短気な相棒は、いつになっても聞き入れてくれない。

 

「マリアちゃん! 遅いよぉ! 待つの飽きちゃったよぉ!」

 

 そしてその口から飛び出す言葉は、私の頭痛と溜め息を誘発する。

 おかしな話だ、人形(わたし)にはそもそも痛覚など無い筈なのだが。

「何度も言っていますが、ドアは静かに開けなさい。大体何故、カーラより先に貴女(あなた)が出て来るのですか」

 額を押さえる私の様子に小首を(かし)げ、エマは不思議そうに私を眺める。

 何に納得いかないのか不明だが、その態度は本来私が取るべきもの、或いはそれに近い筈だ。

 

「カーラちゃんなら、お客さまたちと一緒にそこにいるよぉ?」

 

 不思議そうなエマが不思議そうに扉の中を指差すが、不可解なのはお前(エマ)である。

 私が訊きたいのはそういう事ではないし、そもそもそんな事は予想出来ている。

「……わかりました、取り敢えず此方(こちら)方々(かたがた)にご迷惑を掛けないように、ちょっとだけ大人しくしていて下さい。カーラ()、聞こえていますね? さっさとお客さまのご案内をお願いします」

 しかし、エマに言っても仕方がない――聞き入れてくれない――ので、私は溜め息と苦虫を噛み潰し、扉が切り開いた魔法空間の中へと声を投げ入れた。

 港湾維持局の皆さまを見て思い出した「様」付けだが、ほんの数秒前にはうっかり呼び捨てている。

 まあ、オトコなんてものは単純なので、澄まし顔でもしていれば騙されてくれるだろう。

 

「呼び捨ててみたり敬うフリしてみたり、随分な忠心だな相変わらず。メイドらしい格好すらしてねえってのに」

 

 ……ちっ。

「妙な所で細かい男ですね。尊敬してるかはともかく、それなりに尊重しているのですよ、これでも……たぶん」

「多分かよ」

 思ったよりも素早かったツッコミに、私は隠しもしない舌打ちと共に、本来は地の文に隠しておきたかった建前と本心を同時に吐露してしまう。

 そんなうっかり連打という、(似非(エセ))メイドらしからぬ可愛らしいお茶目なミスに、しかし、オーガの大男は特に興味も無さそうなぞんざいなツッコミで応える。

 

 面倒だったら黙って流せば良かろうに。

 

「マリアちゃん、メイドだったの?」

 

 そしてエマが、どうでも良い角度から些か懐かしい茶々を入れてくる。

貴女(あなた)も似たような格好をしているのですから、真似事くらいはしてみたらどうですか。それ以前に、まずはスカートを何とかなさい」

 そんな不届きな相棒には目を向けることもせず、言葉を選ぶ手間も惜しんで適当に投げつけておく。

 どうせ聞いても居ないだろうし、真面目な説教などはするだけ無駄である。

 

「……あー、何だか楽しそうだな? そろそろ案内しても良いか?」

 

 そんな私の視界の中、屋外にぽつんと開け放たれた扉から何故か疲れた顔を覗かせ、長身女が呆れ加減の声を上げる。私に向けて。

 単なる人見知りで私しか見れなかったのか、それとも何か言いたいことでも有るのか。

「ええ、お願いします」

 問い質したい気持ちをぐっと押さえつけて、私は簡単な台詞(セリフ)でただ頷くに留める。

 

 今は、と言う話なのだが。

 

 

 

 一瞬だけ、どういう訳か(なご)やか……いや、単に緩んだだけの空気だったが、それもカーラに率いられたドワーフたちが姿を現すまでだった。

 こういう言い方をすると何故か妙な強者感が漂うが、単に事実を述べただけである。

 

 とはいえドワーフたちは今となっては皆元気で有り、何ならアリスの手持ちの酒を大分(だいぶ)呑んで過ごしたりしていたので、見た目に多少の悲壮感を帯びては居るものの、逃亡者と言われて想像するような焦燥感はほぼ無い。

 内心にどれ程の思いを抱えていても、寡黙な職人は表情に出したりはしない。

 素直に、そういう姿勢には憧れる。

 

 自分に無いものというのは、眩しく見えるものだ。

 

 そんな事を考えている間に、カーラとアリスがテイラー氏と何やら話し込んでいる。

 気になってそちらに向かおうかと思った所で、もっと気になる光景がすぐ近くで発生していた。

 

「あ……アンタはその、見慣れない格好……もとい顔だが、まさかアンタが英雄……なのか?」

 

 外回り局員の隊長が、露出系痴女に尋問を試みようとしていたのだ。

 見上げた職務精神だがその痴女は素直に危ないので、もうちょっと距離を取った方がいいと思う。

 

「はあん? 私は好きに暴れてただけで、英雄なんて名乗った覚えは無いんだけどねえ?」

 

 名乗った覚えは無くとも、呼ばれた記憶は真新しいのか、その表情は複雑だ。

 ニナにも呼ばれていたし、ドワーフたちもサラには一定以上の敬意を払っていたように思う。

 

 見た目は痴女なのに。

 

「英雄かどうか、その資質は兎も角として。その痴女は、貴方(あなた)たちの言うお伽噺のソレですよ。『剣舞』サラ、歴とした私の姉です」

 

 痴女ですが、と言う最後のひと言は省略する。

 出来た妹は、余計な事は言わないのだ。

「誰が痴女だって?」

「お前……全方向に喧嘩売るのな?」

 そんな私に対して、何やら不満気な姉と心無い暴言を投げつけてくる大男。

 私がグレたらお前らの所為(せい)だぞ。

「そんな格好で堂々と歩いている時点で異議は認めませんし、私は事実を述べているだけです」

 とりあえず適切な反論を手短に返し、双方からの半眼を受け止める。

 そうして数秒見つめ合う……というより睨み合いに近い私たちだったのだが、何故か馬鹿馬しげに大仰なため息を()き、痴女と大男は再び視線を合わせる。

 何か言いたいことでもあるのか?

 

 痴女はともかく、大男と言うと今この周囲にいる大半はオーガで、つまりテイラー氏以外は該当してしまうのだが、まあ、どうでも良いだろう。

 

 少し離れて話し合うテイラー氏とカーラとアリス、目の前で何やら無言で見つめ合うカーツとサラ。

 ふと気付けば、数人のオーガ職員と談笑している風のエマとニナ。

 

 ほんの一瞬でぼっちになった私だが、そんな事よりもエマの周辺の男たちが危険なのでは、のんびりと考えて数秒、私は驚愕に思わず2度見していた。

 

 え? ニナが居る? 危ないかも知れないのに、何で出てきたの?

 何で誰も、アリスすら止めなかったの?

 

 ドワーフたちの処遇を他所(よそ)に、私は咄嗟に飛び出る言葉もなく、口を開けたまま呆ける以外にないのだった。




マリアにはもう少し、こう……言っても無駄でしょうか。
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