危険かもしれない場面に、何故かニナが居る。
彼女を護るのは皆それなりの強さの人形たちなのだが、彼女自身はただの人間である。
何が有るか
好奇心旺盛な年頃ではあろうが、それでも数年間、客船等で見習いとして料理人をしていた、それなりに社会というものを見てきた娘だ。
そんな彼女が、亡命希望のドワーフたちの処遇が決まるそんな場面に、興味本位で顔を出してくるとは考え難い。
とすれば、恐らくはエマ辺りが無理矢理引っ張り出したのであろう。
問い質すとすれば、ヒマ……私の質問に答える余裕のある者、となれば。
目の前のサラかちょっと離れているエマ、どちらにすべきか、と言う話なのだが。
「サラ、恋が芽生えそうな場面で申し訳ありません。少々お尋ねしたいのですが」
「はあん? 誰が恋に恋してるって?」
迷わずサラに声を掛けたのは、もの凄く近かったからだ。
それ以上の理由は無いし、かけた言葉にも特に意味は無い。
「ニナがこの場に居るのですが……」
「いや誤魔化すなよ」
だと言うのに、サラは私のどうでも良いひと言が気になって仕方がないらしい。
布面積と寛容さの足らぬ姉である。
「マリア! ちょっと来てくれ!」
そして、私は割と重要であろう疑問を解消する間もなく、呼ばれた声に顔を向ければ、テイラー氏を中心に、カーラとアリス、揃って私に顔を向けている。
身内
諦めの溜め息と共に、私は足を動かすのだった。
テイラー氏と、カーラとアリス。
一見して
ドワーフたちに関しては特に大きな問題は無い、そういう事なのだろう。
が、私たちは別である。
控えめに言って、問題しか抱えていない。
のんびりと構えていられる状況ではないと思うのが。
「ひとまず、ドワーフたちに関してですが」
だと言うのに、テイラー氏までもが
まさか、アイセスブルグ相手の犯罪だからこの国には関係ないとか、そんな愉快な事を言い出すような御仁でもあるまいに。
「この街でのドワーフの受け入れに関しては、多少の手回しは必要でしょうが、問題は無いでしょう」
にっこりと微笑んで見せてくれるが、考えてみればそれもそのまま受け取るのは難しい。
問題を解消するための手回しとは、どれ程の事が必要なのか。
政治絡みの事柄は縁遠い私だが、それが決して簡単ではない事はよく
それを涼し気に語るような御仁だ。
それに加え、カーラもアリスも、政治的な駆け引きはともかく、地頭は良い。
少なくとも、私よりは。
そんな連中が先程までは小難しい顔で何やら話し込んでいたのだと思えば、その穏やかな表情には安心出来る要素がひとつとして無い。
「目下、問題となるのは……」
ほら来た。
少なくとも問題について語り合おうとする雰囲気ではないのだから、気を緩める
「
内心身構える私に、テイラー氏は穏やかな口調のままに言う。
うん、これは
「要はアレだ。他国とは言え、やらかした事が事だからな。そんな危険物、おいそれと放置は出来んだろうさ」
そんな私にお構いなしに、カーラが肩を竦めて両手を広げて見せる。
これもまた、言っている事は
「ま、そういう事だよな。この港の治安を預かる
引き継ぐように、アリスもまた
私は口を挟むことをせず、本来それらの
「と、言うのがまあ建前なのですが。しかし問題もあります」
まあ、裏は有るだろうと思っていたので、こんな言い草にも驚くことは無い。
彼が言う「問題」にだって、もの凄く心当たりがある。
「まあ、アレだな。俺らがお前らをとっ捕まえる、それが出来るかどうか、だな」
目の前の人物に注意を向け過ぎていたため、真後ろに立ったらしい外回り組の隊長には気が付かなかった。
ゆるりと視線を巡らせると、
「実は前回、お前らと何度か話してる中でな? ウチのに、鑑定の魔道具を使わせてたんだが」
顎を
それを追ってみれば、なるほど見覚えのある、だがあまり目立たない彼の部下の姿がある。
食事処や酒場で馬鹿騒ぎしていた中で、そんな事をしていたのか。
なるほど、やけに食事時に行き合うと思っていたが、あれは偶然ではなかった訳だ。
「結果は不明、だ。『壁』を越えた様なバケモン相手でも、レベルで言えば200までは測れるって触れ込みの代物でな」
視線を戻せば、カーツもまた私を見ていた。
なるほど、中々高性能な魔道具を持っているようだが、確かにその程度では……。
「まあ、200程度では無理でしょう。最低でも1000は無ければ私はともかく、エマは測れないでしょうね」
あけすけに、私は口を開く。
今までは特に問われる機会もほぼ無かったし、
だが公的機関の職員が危険を感じ測定を行おうとした、その事実の告白は最早直接訊かれているに等しい。
そう受け取った私は特に隠すこともなく、エマの情報を売る形で自分に関しては微妙に秘匿しつつも答えてみせたのだ。
この国には、「壁」越えのレベルを鑑定出来るような魔道具が存在するというのは、多少とは言え驚かされた。
とは言え、それでも私たちは勿論あの化け物ども――アルバレインの双子魔女と不死姫は測れないのだが、そこまでは言っても意味は無いだろう。
まさか海の向こうのあの国に、戦争を仕掛けたい訳でも無いだろうし。
私の心情を他所に、ただその発言に心持ち青褪めたカーツが言葉もなく私を見つめている。
「まあ、そのような事情でして。職務としては我々は
そんな私たちを、テイラー氏は穏やかな……考えようによっては諦めても居るような、そんな面持ちで眺めている。
私はテイラー氏やカーラたちが妙に和やかなその理由に思い当たるものもなく、ただただその言葉を待つのだった。
なるほど。マリアは思った以上に鈍い子だったのですね。