迷子のマリア   作:naow

270 / 270
カーラ他、周囲の視線とその理由をよくよく考えて下さい。


空、そして自由へ

「……我々はアイセスブルトにとって許しがたい敵となった訳だが、この国とて無関係と傍観している訳にもいくまい。さりとて捕らえようにも悪名高いザガン人形その他だ。簡単にはいかん、というか」

 

 何故か偉そうに解説するカーラを、私はぼんやりと眺める。

 

「エマちゃんとお前が、特にやり過ぎるだろ。捕まえようとすれば死者しか出ないだろうさ」

 

 その後を継いだアリスは、失礼な断定までキメてくる有様である。

 エマはともかく、私を何だと思っているのか。

 

「そうだねぇ、私とマリアちゃんで競争するから、他のコは頑張らないと獲物が残らないねぇ」

 そしてエマが、要らないことを言って、しかも私まで巻き込んでくる。

「私は意味もなく暴れたりしません」

「特に頑張る予定もないかな……」

 

 私が異を唱え、アリスはどこか嫌そうに口を開く。

 

「ま、まあ、ともあれ、だ。事実はどうあれ、このクアラス港の港湾維持局ではさすがに手に余る事ではある。しかしまあ、我々は話が通じる訳だ」

 

 和気あいあいと会話を楽しんでいると、カーラがやはり嫌そうに、そしてやはり私を見ながらなにかほざいている。

 どうでも良いのだが、当事者が白々しく語るのはどうかと思う。

 

「話が通じる、ねえ……」

 

 ここまで静かだったので、てっきりカーツとのデートの約束でも話し合っているかと思っていたサラまでもが、胡散臭いものを見る目を私に向けてくる。

 

 どいつもこいつも、私を何だと思っているのか。

 

「メイドもどきが話を聞いてるフリが上手いのは、なんとなく理解出来たが」

 

 そしてカーツまでもが私をディスってくる。

 

 お前らは楽しくデートなり殺し合いなり、心ゆくまで楽しんでくれば良いではないか。

 

「……すまん、マリア。頑張ろうかと思ったが、お前のフォローは無理だ」

 

 そしてカーラは、溜息混じりに意味不明な事を言い、そして残念そうな……残念なモノを見るような目を私から逸らすことは無い。

 頑張りが足りないのでは? そう思うのだが、口にすれば私の非を認めるような気がしたので、口を閉ざすことしか出来ないのだった。

 

 

 

 話が全く進まず、エマ&ニナとその2名を囲む外回り局員たちはほんわかと、全く関与しません感を強く押し出している。

 

 もう本当に、エマまで含めてなんでここに居るのか疑問は募るのだが、こと此処(ここ)に至ってみれば、私もあっちに混ざってほのぼのしていたい。

 だがしかし、残念なことに話は進んでいないだけで、終わってはいないのだ。

 

「話を戻すが。要は化け物どもは逃げたがっている、取り締まる方も無理して怪我では済まない被害など負いたく無い、こういう構図な訳だ。これはつまり、双方の利益……と言ってよいのか微妙だが、つまるところ平和に事を収めたい、という点において双方の意思は一致している。であるなら、後は我々が……と言うか、私たちは『工房(ラボ)』に戻るから、マリアが単身逃げ出せば万事解決だな」

「何が解決ですか。私でなくとも、カーラが走っても良いではないですか」

 

 口を尖らせて見せれば、しかし受け止める方は生意気にも半眼である。

 

「ほう? この港に正規に入ったのはお前だったと記憶しているが? 街を出るだけで、手続き諸々面倒そうだな? そんな最中、例えばあの変態に声を掛けられたら、私は素直にお前を差し出すだろうな?」

 

 ジト目でヒトの嫌がるポイントを的確に突いてくる、イヤな人形である。

 

「何故逃げる人形が、素直に退出の列に並ぶんですか。強行突破しろとは言いませんが、他にやりようも有るでしょうに」

「港湾維持局の局員の前でお前は何を言ってんだ。困らせるようなことを言ってんじゃないよ」

 

 不満なのは私だ、とばかりに口を開くが、今度はアリスが立ち塞がる。

 無駄に連携が取れて、結構なことだ。

 

 一瞬アリスに押し付けようかと思ったが、アリスでは「霊廟」の扉が扱えない。

 

 私は殊更にため息を吐(つ)く。

 混ぜ返しはしたが、状況の把握は出来た。

 行動方針も決まっている以上、これ以上グズった所で意味はない。

 

「まったく。これがそもそも港湾維持局の方も把握している、という時点で大問題ですが、まあ良いでしょう。では、ドワーフの方々に関してはお願いするとして」

 

 諦めて、私はもう一度視線を巡らせる。

 エマとニナ、そして外回り組の皆さんがほのぼのしている様子には、やはり場違いな安堵を覚えてしまう。

 カーラは腕組みでテイラー氏の隣に並び、少し離れてアリスが呆れ気味の視線を私に向けている。

 

 私の近くでは、サラがカーツと何やら話し込んでいるが、ちらりと聞いてみれば、どこぞの工房の短刀が使いやすいだの打撃用のグローブで剣を使うのにも邪魔になり難いモデルだの、色気とは縁が無さすぎる話に興じている。

 

 私を含め、状況を顧みてもう少し緊張感を持つべきであろう。

 

「理解(わか)りました。此処(ここ)に残る者以外は、『霊廟』に戻って下さい。テイラーさま、ドワーフの皆様の処遇はお任せいたします」

 

 私は諦めと嘆息を乗せて宣言し、改めて「霊廟」への扉を設置するのだった。

 

 

 

 我慢できずに飛び出したクセに、ニナと共に局員の皆さんに手を振りつつも真っ先に「霊廟」へと戻ったエマ。

 本当に、何をしに出てきたのだろう。

 

 続いてサラがカーツに軽く手を振り、扉をくぐる。

 ⋯⋯何なら、本当に此処(ここ)に残ってもらっても構わないのだが⋯⋯。

 

 そしてアリスが、最後にカーラが。

「マリア! くれぐれもやりすぎるなよ! 港湾維持局の方々に迷惑を掛けぬようにな!」

 テイラー氏に親しげに挨拶したと思えば、私に対してはこの言い草である。

 

 外骨格式の人形――正確にはハイブリット――の分際で、随分な口ぶりではないか。

 

「失礼極まる昆虫ですね。私を何だと思っているのです」

「いきなりキレる、危ない人形だろ」

「それ以前に、誰が昆虫か」

 

 素直な不満をぶつけてみれば、扉の中に消えた筈のアリスが顔を出し、そしてカーラまでもが何やら言っている。

 礼儀とかそういった諸々を解さぬ、不躾な連中である。

 

 何か言い返すのも時間の無駄なので、私は不満の籠もった目で2体(ふたり)を見送り、閉じた扉を魔法鞄(マジックバッグ)へと放り込む。

 

 振り返り視線を巡らせれば、同情と言うには今少しぬるいが、非難というには棘の足らない、つまりは微妙のひと言に尽きる眼差しを私に向けている。

 ひとりの例外もなく。

 

 他はともかく、テイラー氏はそれではまずかろうに。

 

「それでは、私も失礼いたします」

 

 本当はもっと色々と言いたいこともあるのだが、それらを飲み込んで最低限に纏める。

 テイラー氏が小さく頷いた事を確認し、そして私は跳んだ。

 

「おい! せめて外に出る手続きはちゃんと踏めよ!」

 

 遠くカーツの声を背中に、私は庁舎の屋上へと着地を果たし、そのまま返事もせずに走り出すのだった。




ヒトの忠告や意見を聞き入れる子ではありませんね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。