「……我々はアイセスブルトにとって許しがたい敵となった訳だが、この国とて無関係と傍観している訳にもいくまい。さりとて捕らえようにも悪名高いザガン人形その他だ。簡単にはいかん、というか」
何故か偉そうに解説するカーラを、私はぼんやりと眺める。
「エマちゃんとお前が、特にやり過ぎるだろ。捕まえようとすれば死者しか出ないだろうさ」
その後を継いだアリスは、失礼な断定までキメてくる有様である。
エマはともかく、私を何だと思っているのか。
「そうだねぇ、私とマリアちゃんで競争するから、他のコは頑張らないと獲物が残らないねぇ」
そしてエマが、要らないことを言って、しかも私まで巻き込んでくる。
「私は意味もなく暴れたりしません」
「特に頑張る予定もないかな……」
私が異を唱え、アリスはどこか嫌そうに口を開く。
「ま、まあ、ともあれ、だ。事実はどうあれ、このクアラス港の港湾維持局ではさすがに手に余る事ではある。しかしまあ、我々は話が通じる訳だ」
和気あいあいと会話を楽しんでいると、カーラがやはり嫌そうに、そしてやはり私を見ながらなにかほざいている。
どうでも良いのだが、当事者が白々しく語るのはどうかと思う。
「話が通じる、ねえ……」
ここまで静かだったので、てっきりカーツとのデートの約束でも話し合っているかと思っていたサラまでもが、胡散臭いものを見る目を私に向けてくる。
どいつもこいつも、私を何だと思っているのか。
「メイドもどきが話を聞いてるフリが上手いのは、なんとなく理解出来たが」
そしてカーツまでもが私をディスってくる。
お前らは楽しくデートなり殺し合いなり、心ゆくまで楽しんでくれば良いではないか。
「……すまん、マリア。頑張ろうかと思ったが、お前のフォローは無理だ」
そしてカーラは、溜息混じりに意味不明な事を言い、そして残念そうな……残念なモノを見るような目を私から逸らすことは無い。
頑張りが足りないのでは? そう思うのだが、口にすれば私の非を認めるような気がしたので、口を閉ざすことしか出来ないのだった。
話が全く進まず、エマ&ニナとその2名を囲む外回り局員たちはほんわかと、全く関与しません感を強く押し出している。
もう本当に、エマまで含めてなんでここに居るのか疑問は募るのだが、こと
だがしかし、残念なことに話は進んでいないだけで、終わってはいないのだ。
「話を戻すが。要は化け物どもは逃げたがっている、取り締まる方も無理して怪我では済まない被害など負いたく無い、こういう構図な訳だ。これはつまり、双方の利益……と言ってよいのか微妙だが、つまるところ平和に事を収めたい、という点において双方の意思は一致している。であるなら、後は我々が……と言うか、私たちは『
「何が解決ですか。私でなくとも、カーラが走っても良いではないですか」
口を尖らせて見せれば、しかし受け止める方は生意気にも半眼である。
「ほう? この港に正規に入ったのはお前だったと記憶しているが? 街を出るだけで、手続き諸々面倒そうだな? そんな最中、例えばあの変態に声を掛けられたら、私は素直にお前を差し出すだろうな?」
ジト目でヒトの嫌がるポイントを的確に突いてくる、イヤな人形である。
「何故逃げる人形が、素直に退出の列に並ぶんですか。強行突破しろとは言いませんが、他にやりようも有るでしょうに」
「港湾維持局の局員の前でお前は何を言ってんだ。困らせるようなことを言ってんじゃないよ」
不満なのは私だ、とばかりに口を開くが、今度はアリスが立ち塞がる。
無駄に連携が取れて、結構なことだ。
一瞬アリスに押し付けようかと思ったが、アリスでは「霊廟」の扉が扱えない。
私は殊更にため息を
混ぜ返しはしたが、状況の把握は出来た。
行動方針も決まっている以上、これ以上グズった所で意味はない。
「まったく。これがそもそも港湾維持局の方も把握している、という時点で大問題ですが、まあ良いでしょう。では、ドワーフの方々に関してはお願いするとして」
諦めて、私はもう一度視線を巡らせる。
エマとニナ、そして外回り組の皆さんがほのぼのしている様子には、やはり場違いな安堵を覚えてしまう。
カーラは腕組みでテイラー氏の隣に並び、少し離れてアリスが呆れ気味の視線を私に向けている。
私の近くでは、サラがカーツと何やら話し込んでいるが、ちらりと聞いてみれば、どこぞの工房の短刀が使いやすいだの打撃用のグローブで剣を使うのにも邪魔になり難いモデルだの、色気とは縁が無さすぎる話に興じている。
私を含め、状況を顧みてもう少し緊張感を持つべきであろう。
「
私は諦めと嘆息を乗せて宣言し、改めて「霊廟」への扉を設置するのだった。
我慢できずに飛び出したクセに、ニナと共に局員の皆さんに手を振りつつも真っ先に「霊廟」へと戻ったエマ。
本当に、何をしに出てきたのだろう。
続いてサラがカーツに軽く手を振り、扉をくぐる。
⋯⋯何なら、本当に
そしてアリスが、最後にカーラが。
「マリア! くれぐれもやりすぎるなよ! 港湾維持局の方々に迷惑を掛けぬようにな!」
テイラー氏に親しげに挨拶したと思えば、私に対してはこの言い草である。
外骨格式の人形――正確にはハイブリット――の分際で、随分な口ぶりではないか。
「失礼極まる昆虫ですね。私を何だと思っているのです」
「いきなりキレる、危ない人形だろ」
「それ以前に、誰が昆虫か」
素直な不満をぶつけてみれば、扉の中に消えた筈のアリスが顔を出し、そしてカーラまでもが何やら言っている。
礼儀とかそういった諸々を解さぬ、不躾な連中である。
何か言い返すのも時間の無駄なので、私は不満の籠もった目で
振り返り視線を巡らせれば、同情と言うには今少しぬるいが、非難というには棘の足らない、つまりは微妙のひと言に尽きる眼差しを私に向けている。
ひとりの例外もなく。
他はともかく、テイラー氏はそれではまずかろうに。
「それでは、私も失礼いたします」
本当はもっと色々と言いたいこともあるのだが、それらを飲み込んで最低限に纏める。
テイラー氏が小さく頷いた事を確認し、そして私は跳んだ。
「おい! せめて外に出る手続きはちゃんと踏めよ!」
遠くカーツの声を背中に、私は庁舎の屋上へと着地を果たし、そのまま返事もせずに走り出すのだった。
ヒトの忠告や意見を聞き入れる子ではありませんね。