私も、初対面の人間に対して取る態度ではなかったと、反省しなくもない。
そもそも、厄介事と
とは言え、緊急度が高かったのは間違いないと思うのだが、私はそんなに悪い事をしただろうか?
「あ、
無闇に獣とかの危険物を引き連れて走り回るんじゃない、とか。
考え無しに攻撃をするんじゃない、とか。
そもそも、狩りをするならするで、慣れてる所に行けとか、慣れてない所に行くなら出来る限りの下調べをするとか、そう言う準備を怠るんじゃない、とか。
「
私はそのベルネから来たんだよ。
目指してる方角から稚拙に逆算しても、南から北に向かってることくらい判るだろう。
カンタとか言う、どこか懐かしさを覚える響きの名の男は、私の嫌そうな様子などお構いなしにペラペラと喋り続け、ついには私が何処から来たかとか、哲学的な質問なのか? と思える事を話していた。
興味がミリグラム単位ですら湧かないので、その話を記憶する様な無駄なことはしなかったが。
「カンタ、あんた好い加減にしなよ。お姉さんが困ってるでしょうが。あ、お姉さん、お名前聞いても良いかな?」
そのカンタの相方、ケイトと名乗った女は相方を窘める振りをして、当たり前のように私に名を問うてくる。
聞かれなかったら黙っていようと思っていたのに。
「……マリアと申します。ただの旅人です」
溜息を押し殺してどうにか、と言う態度で答え、
基本、名乗るのが嫌なんてことは無いのだが、状況や場合にも依る。
例えば、迷惑千万な状況を作っておいて、その事に気が付いていない様子の人間相手の場合、とか。
「マリア
カンタのなんとも言えない眼差しと呟きに、素直な気持ち悪さを感じながら、私は当然の様に無視する。
男に言い寄られて喜べる様な、倒錯した趣味は持って居ないが、その理由を説明しつつ跳ね除けるのも面倒臭い。
恐らく私とは別の意味で引き気味のケイトが、カンタとは別の種類のなんとも言えない眼差しを私に向ける。
恐らく、この子は色々と苦労が絶えないのだろう。
「私の名前とか、そんな事はどうでも良いのです。本当に
半眼で睨んでやるが、ケイトは
ひと目で分かる、何故説教されているのか理解していない
こういう時は、焼きごてと爪の間に刃物、どっちの方が反省を促せるだろうか?
「本当にすみません、この馬鹿には、後でみっちり、
ケイトが申し訳無さそうに目を伏せ、頭を下げてくる。
まあ、私が冒険者ギルドに正直に報告してしまうと、ケイトも当然の様に何らかの処罰の対象になってしまうだろう。
私とて、わざわざ報告など面倒であるし、本人が反省しているなら事を荒立てる
彼ら――彼が反省をすること無く、今後同じ事を繰り返して取り返しのつかないことになったとしても、私には関わりも無い。
「それで、あの……。マリアさんは、冒険者ランクはお幾つなんですか?」
不意な質問が、私の耳に滑り込む。
考え事の空白から顔を上げれば、ケイトが申し訳無さの中に好奇心を隠して、心持ち上目遣いで私を見ている。
またしても漏れそうな溜息を、私はぐっと飲み込む。
なんでこう、旅人という私の自己申告は信用を得られないのだろうか?
冒険者と言うには軽装な筈なのだが、今では遠くなりつつ有るあの街で出会った少女も、その上司に収まった小憎らしい顎髭男も、私がただの旅人だとはすんなりと信じなかった。
「……何度でも言いますが、私はただの旅人です。冒険者になったことは御座いません」
なので、何度目かのこの自己申告に、目の前の冒険者2人が顔を見合わせたのも不思議に思わなくなっているし、次に向けてくる視線が猜疑に
「なるほど、
そう諦めて軽く目を閉じたりなんかしていたので、そんなカンタのセリフには素直に驚かされた。
驚きついでに目を開けば、何やら得意げな顔のカンタが、訳知りな様子で頷いたりなんかしている。
「つまり、
はあ?
意味不明なことを自信有りげに言われると、こんなにも
ケイトの方に視線を向けると、
普段からこの有様なのなら、ケイトの日頃の苦労も想像に難くない。
先程までは、纏めて「
ケイトは巻き込まれてしまっただけなのだろう。
腐れ縁なのか、それとも他の込み入った事情なのか、そこに興味は無いが。
その境遇にだけは、同情を禁じ得ない。
私はケイトの気苦労の絶えないであろう日常に。
ケイトは、カンタに絡まれてしまった私に対する同情であろう。
顔を見合わせたまま、互いに漏れる溜息を、
厄介事と言うか、ただただ面倒臭い事になりそうです。