迷子のマリア   作:naow

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悩みながらも走ります。


2 強襲

 悲鳴を耳にして、食事を中断して走り出したお人好しの私だが、ふと考える。

 

 この悲鳴が、私の知らない動物、或いは魔獣のもので無かった場合、それは人間ないし()()を含む「人類種」と言うことになるのだろうか。

 仮に人類種だった場合、助けるとして、だ。

 

 前々から思っていたのだが、私の戦い(かた)、というか戦闘後の姿は、ちょっと刺激が強すぎるかも知れない。

 

 高威力な魔法を撃つのは良いのだが、いちいち外装を吹っ飛ばして骨格と人工筋繊維を露出させて、更にそんなものを周目に晒したりしたら、私の評判が()たない。

 下手すると人形どころか、不死者(アンデット)扱いされかねない。

 

 そもそもの原因が、私が好んで使う魔法が熱線とか爆発とかいう、所謂光系とか炎熱系なのも問題では有るのかも知れない。

 

 多少手の平から離れて放たれるとは言え、私の使う魔法の熱量は半端では無いらしく、ほんの数秒の放射でも服やら外装……皮膚やら見せかけの筋肉やらが焼けて溶ける。そして焦げる。

 本気で、かつ、ちょっと放射、或いは発現時間を伸ばせば、全身骨格が露出してしまう恐れも有る。

 しかも、その状態で動くし、なんなら走る。

 

 想像するだけでも、(かる)めのホラーと言うか、完全な朽骨兵(スケルトン)だ。

 

 他に得意な魔法となると、風系統と氷系統等が有るのだが、どういう訳か咄嗟に放たれるのは光ないし炎系統だ。

 お陰で自分が迷惑を(こうむ)る上に、うっかりすると山火事を発生させてしまう。

 

 これは、自分の意識改革も含めて、戦闘スタイルは見直すべきだろうか。

 

 そんな事をのんびりと考えながら、木立の間を高速で――時には木の幹を蹴って跳んだりしながら――悲鳴の発生源へと向かうのだった。

 

 

 

 故郷を飛び出したのは、生き(にく)かったから。

 

 冒険者だった両親はその冒険を終えた筈なのに、戦って命を落とした。

 良くある話だ。

 

 自分が冒険者になりたい、と思った事は無かったが、貧しい村では近所の助けを受けるにも肩身が狭く、余裕のない周囲からは冷たく当たられがちだった。

 行商に訪れるゴブリンの商人から同情される程に。

 

 村には冒険者ギルドも無い為、両親がこの村に腰を据えたのは、冒険者を引退した事を機に、父の故郷に戻った以上の意味は無かった。

 そんな父も母も、魔獣化したフォレストベアの討伐の為、村を護るために文字通りに命を賭して戦い、最終的には刺し違えて散った。

 

 村としてはそんな恩人の子、保護したい思いは有れども、貧しさ故に各々の家庭を守る事で精一杯で。

 それは理解(わか)るから村の人々を恨む気持ちは無いが、現実としてはどうしても風当たりは辛くなりがちだった。

 それでも生きるため、弓の扱いを覚え、近くの森に入って狩りをした。

 狩った獲物は近隣に分けたが、それも僅かな量でしか無く、何も変わることは無かった。

 

 成人を迎える前に簡単な荷物を纏め、父の形見の剣を手に、村を飛び出した。

 

 自分に自信が有る訳でもなく、旅路は安全を考慮して街道を選んでいた。

 それでも野盗(やとう)や山賊などの危険は有るのだが、幸いにもここまでの旅路は順調だった。

 

 だが、路銀を稼ぐにも獣に出会うことも殆ど無く、売り物にする為の素材類はおろか、食用に出来る肉類も手に入らず、僅かだった備蓄も底をついた。

 素直に街道を()けば、目的の街に着く前に野垂れ死ぬ。

 多少なり余力のある間に、目的地までの旅程の短縮も兼ねて、ついでに野鳥か獣でも狩ろうと目論んで森へと踏み入った。

 

 旅慣れない身。準備も不足であり、見識も足りていなかった。

 森を歩く術は知っていて、狩りは出来ても、魔獣の恐ろしさは知らなかったのだ。

 

 ――最初の一撃を躱すことが出来たのは、運が良かっただけだ。

 

 獣を避けて休むために樹上(じゅじょう)、張り出した太い枝の上で身体(からだ)を休めていたその時、何となく身じろぎしたその頭上に、大きな何かが覆い被さってきた。

 たまたま、木の幹に身体(からだ)を括り付けていたロープが緩んでいたため枝から滑り落ち、しっかりとリュックを抱えていたため荷物を手放すこと無く、打ち付けた背中の痛みを感じながらも急いで逃げることが出来た。

 

 ――それだけだった。

 

 森の中に慣れているとは言え、しかし見知らぬ土地。

 相手はただの狼でも厄介だと言うのに、肩越しに盗み見た巨大な――異形の姿は魔獣のそれ。

 

 逃げ切れない。

 

 脳裏を過るのは、絶望の言葉。

 

 ついに背を突き飛ばされ、転がるその身を獣の両前足が押さえつける。

 恐怖に動けなくなったその目は、大きく開かれたその口を映した。

 

 

 

 走りながら、ほんの数秒だけ熟考した「結果」を小脇に構え、私は跳ぶ。

 飛び出した私の気配にフォレストウルフ、その魔獣化した成れの果ては驚いたように頭を向け、それから飛び退こうと四肢に力を矯める。

 

 なるほど、私は少しばかり、自身というものを知らなさ過ぎたようだ。

 

 敵を屠るのなら魔法のほうが早いし確実だと思いこんでいたが、私の身体(からだ)はこんなにも速く動くのか。

 実践とトレーニングはやはり違うものだ。

 魔獣が地を離れるその前にしっかりと間合いを詰めた私は、手にした無骨なメイスを無造作に振り払う。

 要救助者も居るのだからと、軽めに、払いのけるイメージだった筈のそれは、逃げようとしていたその胴体を容易く捉え。

 その身は、爆散するように弾けて飛び散った。

 

 舞い散る血、そして肉片をぼんやりと眺めながら、私は呑気に考える。

 

 なるほど、私は。

 自身の膂力というものについて、随分と思い違いをしていたようだ。




自分の身体能力を、正しく把握していなかったようです。
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