迷子のマリア   作:naow

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一晩明ければ、日常です。


35 夜明けと皮算用

 人形の朝はそれほど早くない。

 

 昨夜、きちんとした食事とマジックポーション、そして金属数種のインゴットを摂取し、深めの睡眠を取っているので、身体(からだ)の修復は完了している。

 因みにだが、身体(からだ)の修復の為に休息は有れば有るだけ良いのだが、別に睡眠は必要としない。

 睡眠については、もはや私の趣味だ。

 

 身体(からだ)の修復が済んでいるので、朝食を軽く取ってから、一応買っておいた布類等を使って衣服を修繕する。

 

 やはり、メイド服は英国式に限る。

 無論、フレンチスタイルも良いものとは思うのだが、私の中ではどうしても英国式に軍配が上がる。

 

 そも、服飾に造詣が深い訳でもない私にとって、自身が身に纏う衣装が本当に英国式なのかは不明なのだが。

 そもそもメイド服と言う呼び名が、正式な呼称かどうかも理解(わか)っては居ない。

 

 布を使い、型紙代わりの私のイメージに沿って、服の修繕を完了させる。

 錬金魔術というものは、便利なものだ。

 この機会に戦闘を意識したスカートでも、と考えてみたのだが、私のイメージでは単にスリットの深い、大きなお兄さん向けのフィギュアのような衣装になりそうなので、今回は見送ることにした。

 

 さて。

 

 自分の用事も済んだことだし、厄介ごとの後始末を、そろそろ付けねばなるまい。

 

 

 

「こぉんな料理なんかじゃなくってぇ! 生肉とインゴットが欲しいのぉ!」

 一晩で右腕の骨だけは修復した、というか強引に()いだらしい、小生意気な人形は私の手料理に文句を言いながら齧り付くという失礼極まる態度で、当然のように食事の手を止める事は無かった。

 手間を掛けて料理するのも癪だったので、私が運んだ料理は厚切りの猪肉に良く火を通しただけの、これをステーキと言ったら料理人に逆さに吊るされそうな代物。

 片腕では食べにくかろうと切り分けているが、こんな態度を取られてしまっては徒労を感じてしまう。

 

 ……私は悪くない筈だ。

 

「せっかく作って来たというのに、可愛げの欠片もないチンチクリンですね。インゴットもマジックポーションも用意してますから、食事くらいおとなしく楽しみなさい」

 よほど納屋にでも放り込んでやろうかと思ったのだが、生憎とこの魔法住居(コテージ)内には私がイメージするような貧相な小部屋は存在しない。

 すこぶる業腹では有るが、玄関ホールに転がしておいてもいちいち目について腹立たしいので、客間に放り込んで居た。

 そんな客間の、クイーンサイズのベッドに上体を起こして、そこに渡したテーブルの上に並ぶ食事に齧り付くその脇に、私はマジックバッグから金属のインゴット数種とポーションを取り出して並べてやる。

「おいしい! けど足りなぁい! あ、ポーションありがとぉ!」

 礼と礼の合間に文句を挟み、カチャカチャと食器を鳴らしながら食事を貪り、マジックポーションを注いだグラスを飲み干す。

 言うだろうとは思ったが、思った以上にストレートな物言いに思わず溜息が漏れる。

 私は空いた皿を下げ、おかわりとして切り分けたステーキもどきを差し出す。

 私自身も食欲が凄まじく、いっそ生肉でも良いと思っていた程だったので、その気持は良く判る。

 判るのだが、物には言いようというものが有るだろう。

 そのくせ咀嚼音を振りまくような下品な真似をしない辺り、少し見直してしまった。

 

 逆に言えば、彼女の食事態度には、褒められる点はそれしか無いのだが。

 

「いいから黙ってお食事なさい、みっともない。まったく、他所のマスター作の人形だったら分解(バラ)してスクラップに(たたきつぶ)して埋めてきたものを……」

 

 あまりの憎々しさに思わず本音も漏れてしまうが、片腕を失った痛々しい姿の彼女は、しかし私の言葉を一顧だにせず、インゴットに齧りつき、おかわりと注いだマジックポーションのグラスを口に運ぶ。

 自分でもやったことではあるが、客観的な視点で金属のインゴットを噛み砕く様子を(はた)から眺めるのは、なんとも言えない気分だ。

 本当に、ベルネでこんな姿を晒すことにならずに済んで良かった。

 

 ……なんで私は、そんな事で安心を得ているのか。

 

「ミスリルのインゴットなんてぇ、良いもの持ってるねぇ」

 

 どうでも良い事に思いを馳せている私に、私の程良い嫌味を聞き流した彼女が脳天気な顔を向けてきた。

 

 Za206、マスター・ザガンの造った人形の――文献上では――現存する6体の、その内1体。

「爆殺」人形、その割に好きな武器は短刀。

 人形らしく整った、可愛らしい作りの顔で、身長は私より結構低い。

 150センチくらいではなかろうか。

「私用に、給金から少なくない資金を使ったものですよ。いずれ返してもらいますからね」

 当然のように高価なミスリルインゴットを咀嚼するエマに、私は恐らく履行は困難であろうことを突きつけながら、自身の行いに情けない気分で肩を落としそうになる。

「任せてよぉ! この先何処かで人間見つけたらぁ、殺してお金ぶん取っちゃえば良いんだからぁ!」

 とても殺伐としていて、この上なく物騒なことを無邪気に言うエマは、どうやら私と行動を共にすることに疑問を抱いていない様子である。

 

 私としては手を組みたいとか組みたくないとか、そう言うこと以前に、そもそも制御できない同行者などそれだけで面倒事でしか無い。

 なのだが、少しばかり思うところが有って魔法住居(コテージ)にまで連れ込み、彼女の回復の補助を行っている。

 

 同じマスター作、と言うことで多少の情けが湧かなくもない、という事情も耳掻き一杯分程度は有るが、それよりも打算的な部分が強い。

 

 すっかり忘れそうになっているが、聖教国の危ない連中とか、彼奴らの召喚した異世界――私にとっては同朋――の輩とか、これから先敵は何処に転がっているか判らない。

 その上、身内とも言える同じマスター作の人形でさえ、問答無用で襲いかかってくる有様だ。

 

 ……エマだって、今はおとなしいが、これから上手いこと丸め込めるか自信はないというのに。

 

 私ひとりで対処するのが面倒で、道連れを作ろうと思っただけだったのだが、果たして私の判断は正解だったのだろうか。

 食事にがっつく可愛らしい人形を見下ろしながら、やはり今からスクラップにして私のパーツの予備にしてやろうか、そんな事を考えてしまうのだった。




仲間が欲しかったなら、もっと早い段階で色々出来たと思います。
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