迷子のマリア   作:naow

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目的を新たに、手段を間違えた予感のようです。


幕間・ちょっとした整理

 食事を終えた途端、実に良い笑顔を向けて、エマは宣言した。

「それじゃあ、回復のための休息するよぉ! 私の腕と脚! 返してぇ!」

 キラキラと目を輝かせて、右手を伸ばしてくるその様子に、軽めの頭痛を覚えながら、私は嘆息する。

 

 妙な話だ、今の私には痛覚など無い筈なのだが。

 

「ただ返した所で、回復出来る訳が無いでしょう。取り敢えず簡単に接ぎますから、横になってじっとしてなさい」

 

 最初からその心算(つもり)だったとは言え、それで本当に正しいのか、急速に自信は失われていく。

「はぁい! それじゃあヨロシクねぇ!」

 素直な返事は好ましいが、この小娘人形がこの先、返事ほどに素直に私の言うことを聞くとも思えない。

 遠慮なくコキ使えると言えれば気楽とも思えるが、それもこれも素直に動いてくれることが前提だ。

 

 人工筋繊維等を素人手付きで適当に切り分け、魔力で起動するトーチなどの道具を駆使して折れ砕けた内部骨格(フレーム)をやはり適当に接ぎ、ざっくりと人工皮膚を縫合して、すごく軽い礼を受け取った私はどうとも言えない表情で客間を後にする。

 

 せめて他の人形だったなら、そう思う私だが、じゃあどの人形なら良かったかと問われれば返答に窮する。

 なにせ、私は他の人形の為人を――妙な言い回しだが――知らないのだ。

 接点もなければ、会話を交わした事も無い。

 

 知っているのは、型番、名前、そして存在していると言う事。

 知識は先代から継いだが、記憶まで継いだ訳では無いのだから、姿など、想像する他無い。

 

 私は先代から聞いた事をぼんやりと思い起こしながら、修練室へと足を向けるのだった。

 

 

 

 マスターこと、サイモン・ネイト・ザガン。

 サイモンと言う名前はこの世界では割りとありがちな名前なのだろうか。

 ベルネで割りと顔を合わせた人間のひとりもサイモンという名だったので、なんとなくそんな事を考えてしまう。

 そちらは家名など持たない身分だったので、血縁という訳では無い。

 

 もとい。

 

 そんな平凡と思われる名前のマスターは、錬金魔法の頂きとも言える地点に立った男だったのだという。

 世に撒かれる文献や噂によると、その出発点は自身の境遇に対する憎悪。

 先代から聞いた話では、ささやかな復讐心からの出発だったらしい。

 まあ、結局は「人間種」を心底嫌っていたと言うことで、世間の噂などは間違っては居ない。

 

 ……私も中身はその人間種なのだが、先代はその点を問題視しなかったのだろうか。

 

 そんなマスター・ザガン――せめて敬意を払い、ファーストネーム呼びは避けよう――は生涯を人形制作に捧げ、作り上げたその数は100体を越えたという。

 造ってもまともに動かなかったり、思うような性能を発揮できなかったりと、失敗、挫折を繰り返し、それでも気付けば「完成」したのがその数だったのだと言うから、尋常ではない。

 見上げた根性だが、私の感性から言えば、まず人形が「自律的に動く」という時点で色々と引っ掛かりが有る。

 だがその事実は、世界が違うのだからと流して良い問題なのか、判断出来ない。

 人間種を殺すための人形と聞いても、引きはしても特に嫌悪はしない辺り、私自身も大概おかしいのだろうとは思うが。

 

 ともあれ、そんな狂気のマスター作の人形は、文献で知られるだけで6体現存している、という事になっている。

 私がこの話を出す度に、何故いちいち含みを持たせるのか、ということだが、勿論理由が有る。

 

 ――その6体には、私は含まれていないのだ。

 

 残っている、とされている人形を列記すると、

 

 Za202、「死覚」リズ

 Za204、「剣舞」サラ

 Za205、「骸裂」キャロル

 Za206、「爆殺」エマ

 Za211、「影追」クロエ

 Za213、「鉄姫」メアリ

 

 なんとも仰々しい文字が並ぶ。

 因みに、きちんと先代にも確認を取っているのだが、便宜上「2シリーズ」と呼称する彼女達の最終モデルはZa213なのだそうだ。

 

 一方で、先代、及び私の型番はZa302a。

 何か小っ恥ずかしい二つ名と言うか、用途名は「墓守」。

 

 私達が「3シリーズ」なら、2番めに制作された事になる、筈だ。

 特に引っ張る理由もないので結論から言えば、私の直前に作られた人形は存在して居る。

 

 Za301、「堅守」ゼダ、と言う名で。

 

 つまりは、マスター・ザガンの人形は少なくとも7体、ゼダも健在だとすれば、最大8体現存している事になるのだ。

 如何に研究資料が残されているとは言っても、複雑怪奇な基礎魔法陣と、特に2シリーズ以降は希少な素材をふんだんに要求される。

 そんな面倒で厄介なモノを真似て、或いは研究して再現出来るような狂気の人がそうそう居るとも思えない。

 そんな訳で、私以降は正当な後継は無い筈だ。

 多分、そこらの木とか鉄とかを使って作られる自動人形なら、マスターの造った1シリーズにも及ぶまい。

 

 私にとってさえ、それは脅威足り得ない。

 

 遂行する1シリーズ、学習する2シリーズとも教わったことが有るが、それが本当なら、マスター・ザガンはなるほど優秀な技師だったのだろうと思う。

 モノ作りにさして造詣の深くない私でさえ、学習して成長すると言う事の難しさは理解(わか)心算(つもり)だ。

 

 いやうん、学習するんだから、成長するんだよね?

 

 これからの旅で、どこかで、いずれかのザガン人形に出会ってしまうとも限らない。

 出会う訳がないと高を括った結果が、エマとの七面倒臭い戦闘だった事を考えると、私ひとりで対応するよりも、手駒が有ったほうが楽なのは間違い無い。

 

 エマと旅をするということは、どこかでエマが大量殺戮する場面を私が黙認ないし傍観する必要が有りそうだが、まあ、その時はその時だ。

 私と縁のある街でなければ構わないし、私と縁のある街などひとつしかない。

 

 

 

 修練室の扉を開ける私は、自分の思考が既に普通の人間のそれから逸脱しつつ有ることに、気付いていないのだった。




立派な人形になりつつ有るようです。
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