迷子のマリア   作:naow

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情報を軽視すると、必要な話も耳に入らなくなります。


49 ギスギス散歩気分

 気を取られても、歩けば先には進む訳で。

 なんとなく向かった廃墟が「帰らずの都市」なんて呼ばれていたことを知らなかった私は、薄らぼんやりと、聞き流していたベルネでの会話を思い起こす。

 そう言えば、似たような話から興味を持った遺跡だった、かも知れない。

 

 今まさに、適当に記憶を改竄している、そんな気がしなくもない。

 

 気もそぞろな私の耳に、若い男の声が滑り込んでくる。

「聞いてるのか姉ちゃん? お前らはこんなトコで何してるんだって聞いてんだけど?」

 ヘラヘラと耳障りな、高圧的にさえ思える声に、素直に不快感を覚えた私は無表情の不機嫌な視線を向ける。

 

 面倒臭いし、会話をする気がとんと湧いてこない。

 

 隣で同じ様に不機嫌そうに表情を消しているエマだが、彼女が不機嫌な理由は不明だ。

 私が不機嫌な、その理由は。

 

「俺達は聖教国の勇者様とその一行なんだぜ? 素直に質問に答えたほうが身のためだぜ?」

 

 会いたくないし関わりたくない、聖教国の、それも勇者とか祭り上げられて調子に乗っている同朋。

 その痛々しいみっともなさに、私は堪えきれずに溜息を漏らす。

「……この世界はどうなってんだ、勇者と言ってもほとんど誰も有り難がらねえ。俺達はこの世界のために呼ばれたってのに」

 私の嘆息に反応した男が、さも心外であるかのように言葉を放つが、なんでそれ程までに自身の肩書に自信を持てるのやら、とんと理解が及ばない。

 

 それが例えば、同じ聖教国絡みであったとしても、司教サマだとか言われた方が身構えてしまうだろう。

 勇者だなんだと持ち上げられた、その実ただの操り人形だと知ってしまえば、憐憫の情が湧きこそすれ、尊敬しようだとか敬愛しようだとか、そんな気持ちになる筈もない。

 

 私がどう答えてやろうか吟味を始める前に、相方が声を上げた。

 

「勇者ってなぁに? 呼ばれたって誰にぃ? 少なくとも、私達は呼んでないし、お呼びでも無いんですけどぉ?」

 

 酷くつまらなそうに言うエマに、気色ばむかと思いきや、思いの外余裕の表情で自称勇者は肩を竦める。

 若干、顔が引き攣っているのは見逃してやろう。

「ハッ。こんな辺境のど田舎じゃあ、聖教国の威光ってやつも届かないのも無理()ぇか。田舎モンにもわかる様に説明するとだな――」

 わざとらしい動作で首まで振って、ニヤケ笑いの男の態度が素直に癇に障った私が、エマに代わって口を開き、相手の言葉を遮る。

 

「何もない荒野ですが、この近辺はまだ国境では有りませんよ? 辺境という言葉の意味を調べてから口を開いた(ほう)が良いと思いますが、適当におだてられて調子に乗る程度の馬鹿ではその程度の事も理解できないでしょうね」

 

 かつてはあの要塞都市は隣国との国境、隣国の所有物だったが、陥落(おと)して呑み込み、勢いで更に侵攻した影響で、この国は領土を広げた。

 奪われたあちらの王国側にとっては恨み骨髄だったのだろうが、取り返すことも出来ないまま流れた時間は、表面上は互いの衝突を抑え込み、今となってはもう、奪還の機運も無ければ再侵攻の気配も無い。

 

 現代において再侵攻に動いたりしたら、向こうで噂の「双子の魔女」も黙っては居まい。

 この国がどの程度の戦力を抱えているのか知った事ではないが、単体で隕石を落としてくるような化け物が少なくとも2人居るとなると、暗殺でもして双子を始末しない限り、勝ち目は薄いのではないかと他人事ながら思う。

 かの王国の地脈の一部が妙に静かになったのも、どうせその双子が何かやらかしたのだろう。

 

「て、手前(テメェ)、誰に口聞いてると……!」

 

 私の態度と台詞に余裕を失くしたらしい、自称勇者が声を荒らげ掛けたが、それを今度はエマが遮る。

 

「ねえねえマリアちゃん。こいつら弱っちいしぃ、びっくりするくらい興味持てないんだけどぉ? さっさと片付けちゃう?」

 

 不機嫌な声色のままのエマに、私は目を向けることをしない。

 しかし、その気持は良く分かる。

 

 私は、眼の前の()()()()()()()()()()()を視界に収めたままで、しかし、向こうがエマの言葉に反応するより早く、投げ遣りに口を開く。

 

「そうですね。こんなのを相手に余計な手札を切る必要は有りませんね。()()()に居る2人の(ほう)がまだ遊べるでしょう。エマ、任せますよ」

 

 私の挑発めいた侮蔑と、エマのやる気の無い提案に激昂し掛けた3人組は、しかし、続く私の言葉に顔色を変えた。

 私は探知で、エマはピンポイント探査で。

 それぞれ、向かってくる相手の動向を確認していたのだ。

 

 私達との距離が500メートルを切った辺りで、向こうが少し止まり、そして二手に別れた事まで、しっかりと確認している。

 

 ついでに言えば、後続の、速度を更に落とした方は、彼我の距離が400メートルを切った事で私の探査魔法も届き、エマが不機嫌になって詳細を伏せたその内容を確認出来た。

 探査魔法と言う物は便利だ。

 魔力も使うし知りたいことは都度探査を重ねなければならないが、相手よりも実力が上回るか互角程度までなら、知りたい事は概ね知ることが出来るのだから。

 

 意外な所で言えば、例えばパーティ名、だとか。

 

「おいおいおい、巫山戯た態度もムカつくけど、そもそもなんでそんな事知ってんだ? ったく、あいつらには様子を見ろとか言われてたけど、これは殺したほうが面倒がなさそうだな」

 

 勇者くんの後ろに控えていた、軽装の男が腰の剣を抜き放つ。

 それを合図にしたのか、やや狼狽(うろた)え気味だった自称勇気ある者と、残った僧服っぽい衣装の女がそれぞれ、剣と杖を構える。

 

 僧侶だったらメイスの方がロールプレイとしては正しいと思うが、まあ、あの細腕では重いメイスはまともに振り回せないだろう。

 

 私が自分の趣味全開かつ個人的嗜好に偏った、どうでも良い事を考えている間に、私の相方が何の衒いもなく前へと進み出る。

「マリアちゃん、ホントに私が()っても良いのぉ? もう、取り消しは聞かないよぉ?」

 その両手には、それぞれ、見覚えのある短刀が握られている。

 

 嫌な記憶が刺激されるが、あの時と違ってエマは不慣れな「隠身」は使っていないし、当然無駄に魔力を消費していない。

 ……まあ、魔力消費が有っても無くても、目の前の連中程度なら何も変わりはしないだろうが。

 

「だから! なんでお前らは、そんな余裕(ヅラ)なんだよ! 俺は勇者で、お前らの勝てる相手じゃ――!」

 

 剣を構えたままで、怒りに任せて声を荒げる自称勇者。

 芝居がかった余裕は何処に行ったのやら。

 しかし、彼は言いたかったであろう言葉を途中で失った。

 

 永遠に。

 

 首が、手が、腕が、腿が、足が。

 そして、胴が。

臓物(モツ)は破っちゃうと臭いからぁ。名誉のために勘弁してあげるよぉ」

 それぞれが地面に転がり、それらが撒いた血を浴びた軽戦士と僧侶は、怒りの相から色を失い、呆然と視線を下に落とし、少し間を置いて、驚愕に目を見開く。

 

 全てが遅い。

 

 本来であれば、堪らず絶叫を放つ場面か。

 或いは、更なる怒りに雄叫びでも上げて斬り掛かってくるのか。

 

 そのどちらも果たせず、刻まれ死体は数を増やし、生きた人間は居なくなった。




そもそも人の話を聞く態度を取っていない場合は、論外です。
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