金属同士がぶつかる甲高い音に続いて、耳障りな擦過音が耳を通して神経に障る。
相手の到着を待つ、そんなお行儀の良い様子を見せていたエマだったが、それを押し通せるほど我慢強くは無かったらしい。
それでも、まあ、多少の「待て」が出来た事は褒めるべきなのかも知れない。
それより驚嘆すべきは、そのエマの一撃を、咄嗟とは言え剣で受け止めようとした男の方だろう。
剣の刃で受けるのは失策だとは思うが、反応出来た事、防御出来た事には素直に驚いた。
確かに、先程までの自称勇者達と比べてもレベルが高いとは言え、だ。
「うおっ!?」
私がそれなりの驚きに目を奪われている最中、攻撃を受けた男も驚愕の声を上げた。
一瞬とは言え、目の前に居た
2つも重なれば、驚きも声になって漏れようというものだろう。
「あららぁ。良く防げたねぇ、エラいエラぁい」
楽しげで陽気な口調とは些か不似合いに、双眸が鋭く輝く。
こうして、相方としてエマの戦闘の様子を観察して気付いたというか、思った事なのだが。
エマなりに、相手を見て対応を決めているのかもしれない。
先程の冒険……勇者サマ御一行に対しては、曲りなりにも会話らしきを交わしてから、攻撃に移っていた。
対して、私や眼の前の男に対しては、問答無用の先制攻撃。
それに反応出来るかどうか、それを見ているのだろうか。
いや、多分偶然というか、気まぐれだろう。
よくよく思い返せば私の時には不意打ち先制だったし、そもそもが気分屋にしか見えないのだし、深く考えても仕方が無さそうだ。
「見た目と違いすぎだろ、何だこのクソ重い攻撃は……! 俺はこれでも、レベル204だぞ?」
体制を整え直した男がエマに対して構え直し、仲間の女の方は油断なく私に対して長剣の切っ先を向ける。
レベル204、そう言った男は、その数値で私達にプレッシャーを掛けようとしているのかも知れない。
だが、知っている事実を改めて告げられても、驚きも無ければ動揺の仕様もない。
「ええ、その様ですね。そして、お嬢さん、
私が涼し気に言ってのけると、却って相手が動揺したようだ。
男は私に顔を向け、目を見開いて。
女もまた、似たような表情を私に晒していた。
「で? それがどうしたというのです?」
自覚できるほど冷ややかな声が、私の唇から滑り出される。
私もエマも、相手のレベルは「探査」を使って確認している。
レベルのみならず、パラメータ……ステータスの類から装備の詳細、パーティ名に至るまで。
エマはいざ知らず、私は臆病で小心なのだ。
「それがどうした、って、おい」
男は相変わらず名乗ることも忘れたまま、間抜けにも見える表情を私に向けたままで。
「なんで、私のレベルまで判った?」
女は、余裕のない険しい眼光を私に突き立てて。
それぞれがそれぞれに、不審と疑念とを綯い交ぜに、相手の――私の出方を伺っている。
悠長な事だ。
「なんでも何も、ただの詳細探査ですよ。その程度の魔法は、
普通の「探査」魔法では相手のステータスまで確認することは出来ない。
その事を知っていて、その上で当然の様に言ってみる。
詳細探査の重ね掛けなど、裏技も良い所だ。
そんな使い方、知っている方がどうかしている。
「探査……詳細探査? そんな、探査は相手のレベルまでは確認出来無い筈……」
女が、信じられないと言う様子で、言葉を漏らす。
剣の切っ先はブレず、しっかりと私を捉えたままだ。
「出来無いと思い込んでいるから出来無いのですよ。やり方を教える程、私は優しく有りませんが。そんな事より」
私は溜息を落とし、親切心から、すい、と、視線を動かして見せる。
驚くのも
だが、少なくとも男の方は、そんな事に気を取られる余裕など無い筈なのだ。
私の視線を一瞬追った男は、ハッとして飛び退き、剣を右手方向へと向ける。
一瞬遅れて、またも金属の衝突音。
「マリアちゃん、やっさしぃ。そぉんなバレバレの目線、私の居場所に気付かれちゃうよぉ」
内容とは裏腹に、声を弾ませるエマ。
振り抜いた左の短刀が、陽光を煌めかせる。
「良く言いますよ。私が注意を促すまで待っているとは、
応える私の声は、呆れの色を含む。
エマなりに、相手と正面から遊びたいのかも知れないのだが、
「お兄さんはねぇ、私と遊ぶんだよぉ? 余計な事に気を取られると、危ないと思うよぉ」
台詞にも、嗜虐性が感じられる。
ただただ厄介で面倒臭い、そんな相手に絡まれたあの男には憐れみを覚える。
同情はしないが。
「まあ、あちらはあちらで踊って頂きましょう。
エマと違い、荷物を背負っては居るが、武器を持っていない私が、その荷物を地面に下ろしながら問い掛ける。
相手は勿論、油断なく剣を構える女だ。
「奇遇ね。私も、アンタに訊きたい事が出来たわ。まず、アンタ達は何者なの?」
長剣を両手で構え、盾の類は無し。
浅い前傾姿勢で、踏み込んでくるよりも私の出方に対応する、そんな構えだ。
自称勇者組と違い、この2人は揃いの防具を身に着けている。
「聖教国の犬が、そんな事を知ってどうしたいのですか?」
私が応えると、女の表情は一層険しくなる。
装備や何やらからの推測が当たったらしい、と言えればそれなりに格好も付けられるのだが、実際は探査で知った情報なので、大した事はない。
因みに、探査結果に「聖教国の犬」などと出た訳では無い。
聖教国執行官、とやらだそうだ。
果たして、何を執行するのやら。
「……言ってくれるじゃない。私達が、どんな思いで」
「
相手の言い掛けた言葉を遮って、私は武器庫からメイスを取り出し、右手で構える。
突然右手にメイスが現れた様に見えたのだろう、女は一瞬目を見開き、すぐに表情を戻す。
それなりに揺れてくれるが、なかなかに頑固な相手、か。
素直に質問に答えてくれそうには見えないその様子に、私はげんなりとした内心を表情に出さないよう努めるのだった。
人任せの時間は終わりの様です。