迷子のマリア   作:naow

54 / 265
やはり、先制で動くのはエマの様です。


51 聖なる物の影

 金属同士がぶつかる甲高い音に続いて、耳障りな擦過音が耳を通して神経に障る。

 相手の到着を待つ、そんなお行儀の良い様子を見せていたエマだったが、それを押し通せるほど我慢強くは無かったらしい。

 それでも、まあ、多少の「待て」が出来た事は褒めるべきなのかも知れない。

 

 それより驚嘆すべきは、そのエマの一撃を、咄嗟とは言え剣で受け止めようとした男の方だろう。

 

 剣の刃で受けるのは失策だとは思うが、反応出来た事、防御出来た事には素直に驚いた。

 確かに、先程までの自称勇者達と比べてもレベルが高いとは言え、だ。

 

「うおっ!?」

 

 私がそれなりの驚きに目を奪われている最中、攻撃を受けた男も驚愕の声を上げた。

 一瞬とは言え、目の前に居た(エマ)を見失った事、そして、防御出来たというのに、そのまま跳ね飛ばされた事。

 2つも重なれば、驚きも声になって漏れようというものだろう。

 

「あららぁ。良く防げたねぇ、エラいエラぁい」

 

 楽しげで陽気な口調とは些か不似合いに、双眸が鋭く輝く。

 こうして、相方としてエマの戦闘の様子を観察して気付いたというか、思った事なのだが。

 

 エマなりに、相手を見て対応を決めているのかもしれない。

 

 先程の冒険……勇者サマ御一行に対しては、曲りなりにも会話らしきを交わしてから、攻撃に移っていた。

 対して、私や眼の前の男に対しては、問答無用の先制攻撃。

 それに反応出来るかどうか、それを見ているのだろうか。

 

 いや、多分偶然というか、気まぐれだろう。

 よくよく思い返せば私の時には不意打ち先制だったし、そもそもが気分屋にしか見えないのだし、深く考えても仕方が無さそうだ。

 

「見た目と違いすぎだろ、何だこのクソ重い攻撃は……! 俺はこれでも、レベル204だぞ?」

 

 体制を整え直した男がエマに対して構え直し、仲間の女の方は油断なく私に対して長剣の切っ先を向ける。

 レベル204、そう言った男は、その数値で私達にプレッシャーを掛けようとしているのかも知れない。

 

 だが、知っている事実を改めて告げられても、驚きも無ければ動揺の仕様もない。

 

「ええ、その様ですね。そして、お嬢さん、貴女(あなた)はレベル183ですね?」

 私が涼し気に言ってのけると、却って相手が動揺したようだ。

 男は私に顔を向け、目を見開いて。

 女もまた、似たような表情を私に晒していた。

「で? それがどうしたというのです?」

 自覚できるほど冷ややかな声が、私の唇から滑り出される。

 私もエマも、相手のレベルは「探査」を使って確認している。

 レベルのみならず、パラメータ……ステータスの類から装備の詳細、パーティ名に至るまで。

 

 エマはいざ知らず、私は臆病で小心なのだ。

 

「それがどうした、って、おい」

 男は相変わらず名乗ることも忘れたまま、間抜けにも見える表情を私に向けたままで。

「なんで、私のレベルまで判った?」

 女は、余裕のない険しい眼光を私に突き立てて。

 それぞれがそれぞれに、不審と疑念とを綯い交ぜに、相手の――私の出方を伺っている。

 

 悠長な事だ。

 

「なんでも何も、ただの詳細探査ですよ。その程度の魔法は、貴女(あなた)達も使えるのでしょう?」

 普通の「探査」魔法では相手のステータスまで確認することは出来ない。

 その事を知っていて、その上で当然の様に言ってみる。

 

 詳細探査の重ね掛けなど、裏技も良い所だ。

 そんな使い方、知っている方がどうかしている。

 

「探査……詳細探査? そんな、探査は相手のレベルまでは確認出来無い筈……」

 

 女が、信じられないと言う様子で、言葉を漏らす。

 剣の切っ先はブレず、しっかりと私を捉えたままだ。

「出来無いと思い込んでいるから出来無いのですよ。やり方を教える程、私は優しく有りませんが。そんな事より」

 私は溜息を落とし、親切心から、すい、と、視線を動かして見せる。

 

 驚くのも理解(わか)るし、色々と疑問が湧いているであろう事も想像出来る。

 だが、少なくとも男の方は、そんな事に気を取られる余裕など無い筈なのだ。

 

 私の視線を一瞬追った男は、ハッとして飛び退き、剣を右手方向へと向ける。

 一瞬遅れて、またも金属の衝突音。

 

「マリアちゃん、やっさしぃ。そぉんなバレバレの目線、私の居場所に気付かれちゃうよぉ」

 

 内容とは裏腹に、声を弾ませるエマ。

 振り抜いた左の短刀が、陽光を煌めかせる。

「良く言いますよ。私が注意を促すまで待っているとは、貴女(あなた)も充分優しいと思いますが?」

 応える私の声は、呆れの色を含む。

 エマなりに、相手と正面から遊びたいのかも知れないのだが、(はた)から見ればジワジワ追い詰めたいだけの、なかなかの良い趣味に見える。

「お兄さんはねぇ、私と遊ぶんだよぉ? 余計な事に気を取られると、危ないと思うよぉ」

 台詞にも、嗜虐性が感じられる。

 ただただ厄介で面倒臭い、そんな相手に絡まれたあの男には憐れみを覚える。

 

 同情はしないが。

 

「まあ、あちらはあちらで踊って頂きましょう。貴女(あなた)には、幾つか訊きたい事が有るのですが、宜しいですか?」

 エマと違い、荷物を背負っては居るが、武器を持っていない私が、その荷物を地面に下ろしながら問い掛ける。

 相手は勿論、油断なく剣を構える女だ。

「奇遇ね。私も、アンタに訊きたい事が出来たわ。まず、アンタ達は何者なの?」

 長剣を両手で構え、盾の類は無し。

 浅い前傾姿勢で、踏み込んでくるよりも私の出方に対応する、そんな構えだ。

 自称勇者組と違い、この2人は揃いの防具を身に着けている。

「聖教国の犬が、そんな事を知ってどうしたいのですか?」

 私が応えると、女の表情は一層険しくなる。

 装備や何やらからの推測が当たったらしい、と言えればそれなりに格好も付けられるのだが、実際は探査で知った情報なので、大した事はない。

 

 因みに、探査結果に「聖教国の犬」などと出た訳では無い。

 聖教国執行官、とやらだそうだ。

 果たして、何を執行するのやら。

「……言ってくれるじゃない。私達が、どんな思いで」

貴女(あなた)個人の事情など、知った事では御座いません。此処(ここ)からは、私の質問にのみお答え下さい。私とて、無闇に暴力を振るう趣味は無いのです」

 相手の言い掛けた言葉を遮って、私は武器庫からメイスを取り出し、右手で構える。

 突然右手にメイスが現れた様に見えたのだろう、女は一瞬目を見開き、すぐに表情を戻す。

 

 それなりに揺れてくれるが、なかなかに頑固な相手、か。

 

 素直に質問に答えてくれそうには見えないその様子に、私はげんなりとした内心を表情に出さないよう努めるのだった。




人任せの時間は終わりの様です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。