Za202、ザガン人形2シリーズ2体目、「死覚」リズ。
珍しい名では無いだろうし、同じ名だからと言って警戒しすぎるのもどうかとは思う。
私の偏見で言えば、リズと言う名は愛称の場合が多い。
エマでさえ、似たような思いが有るのだろう。
一方で、私とエマの表情が冴えないのは、執行官の女が語った噂によるものだ。
聖女様は就任以来60年、その外見は変わらず若く、美しいのだ、と。
以前私も考えたのだが、エルフやその他、一定年齢以上の経年に依る外見の変化が無い、或いは乏しい種族というものは存在する。
しかし少なくとも、聖女様の外見上の特徴は、人間そのものだという。
魔法による外見操作かも知れない。
しかし、別の見解も、
私達自律人形も、外見は人間種のそれだ。
初めからそう造られているのだから、経年による変化は無い。
だが、それでも、聖女リズが「死覚」リズである可能性は低いだろう。
そもそも両者を結びつける根拠が名前と年齢不詳という噂だけ、と言うのが大きいが、何よりも。
「人間種を殺せと命令されている人形が、人間種至上主義の国で聖女などに祭り上げられている。如何にも不自然ですね」
「そうだねぇ。それでリズちゃんだったとしてぇ、人形狩りって言うのも訳判んないよぉ? まるでリズちゃんが、人間の味方してるみたいだねぇ? 有るかなあ、そんなコトぉ」
私が腕組みして呟くと、エマは大きく頷いて同意し、言葉を寄越す。
私達が推論を重ねても、出てくるのは否定の可能性ばかりだ。
なのにどうしても、私もエマも、表情は気難しげに曇ったままだ。
恐らく、エマもそうなのだろう。
打ち消してみても、頭の片隅から悪い予感が拭えない。
そもそも、人形狩りの指示を聖女様が出したとは限らない。
組織というものは、一枚岩とはなかなか行かない。
派閥が違えば渦巻く思惑も方向を変える。
もっと言えば、人形狩りと言うのが、殲滅を目的としたものか、活動状態を維持したままでの確保目的だったのか、そこが不明だ。
命令を受けた当の女は、目標の生き死には問わない、と言われた様だが、人形が本当に存在していると確信を持っての派遣では無かったと言う話だった。
もしも、人間を殺すために人間を利用していると仮定しても、人形を狩る意味と理由は何か。
聖女様が人間だったなら、下手に暴れられたら困るとか、邪魔だとか、そう言った辺りか。
では、人形が人形を狩る理由は何か?
用意無しの遭遇は、即壊し合いになるから。
こう言い切ってしまうと、私までエマの同類と思われてしまいそうだが、実際問題、自分が自律的に動いているように、相手も自分の意志で動いている。
そうなると基本は不意の遭遇で、相手が何者かなんて、確認しなければ判らない。
そして、私達の確認法は、少しだけ過激だったりする。
エマのように、いきなり襲い掛かってこられたら、探査も鑑定も、掛ける暇など無いのだ。
どこかで見かけた噂などが有った所で、相手がいつまでも其処に居座るとも限らないのだし、むしろ人形同士なら、相手の居場所が判れば近づかないだろう。
考えたくは無いが、危険大好き危機上等なエマと同レベルの戦闘好きだったりした場合、自分からホイホイ寄っていく事も考えられるが、人形だって性格はバラバラだ。
私のように面倒事に関わりたくない者も、他に居るかもしれない。
……むしろエマだけが狂ってる、という可能性に賭けたいが、望み薄だろうな。
「でもぉ、確認してみなきゃ判んないコトだしぃ? いっそ、その聖教国とか行ってみるぅ?」
私が全く関係ない事に思考が逸れた所で、エマの質問が耳に滑り込んでくる。
「……ねぇ、びっくりするぐらい嫌そうな顔してるけどぉ、大丈夫ぅ?」
エマに顔を向けて何と答えようか考える間に、エマの
しみじみと言われる程、酷い表情だったのだろう。
「それはもう、嫌な顔のひとつやふたつ、浮かぼうというものですよ」
エマに答えてから、私は気が付いた。
私は先代と中身が変わったという話はしているが、その原因などは話していない。
私がじっと見詰めると、エマは不思議そうな顔で見返してくる。
「……エマ。私の少しだけ昔の話と、先代から伺った事をお伝えします」
急に畏まった様子の私に向けて小首を傾げたエマは、しかし黙って言葉の続きを待つ。
何やら騒ぎ出すかと身構えていた私は些か拍子抜けし、軽く咳払いして気持ちを整え直してから、改めてエマの目を真っ直ぐに見据えるのだった。
私が事故に巻き込まれて死んで、漂う魂であった私を先代が拾って、先代に色々教わりながらこの世界の事を知り、その中で実はその事故は聖教国の召喚魔法(怒)が原因で有ることを知った。
その様な事をなるべく
私の話に、それ程興味を引くポイントが有っただろうか。
そもそも私が聖教国を嫌う理由に繋がる話をしていた筈なのだが、ちゃんと聞いていたのか色々と不安になる。
「すごいねぇ! 先代のマリアちゃんって、今のマリアちゃんより強かったのかなぁ!?」
案の定、エマは私の話の、私が重点を置いていない部分に食いついた。
いや、それ以前に。
私は先代の強さについての話はしていなかった筈なのだが、何故そう思ったのか。
「……先代はこの
一応律儀に答えて、その上で浮かんだ疑問をぶつけてみる。
エマははたと動作を止めると、またしても小首を傾げる。
「うん、なんとなーく、マリアちゃんが聖教国を嫌ってるんだなぁ、とは思ったよぉ?」
私の情感たっぷりの回想を聞いた感想がこれで、興味を持ったのは先代の強さについて。
私の語りを一気にダイジェストに纏めた判断は間違っていなかったと安心したが、良く考えるとそれ以前の問題だ。
彼女に対するに謝罪キャンペーン継続中ではあるが、そろそろ一回くらいは説教しても良いかも知れない。
「でさぁ、マリアちゃん?」
そんな私の様子の何処を見ているのか、エマは不思議そうに声を上げる。
「何ですか。端的に言って聖教国は大嫌いなので、リズが気になるとは言え、見に行ったりはしませんよ?」
長々説明した所で無駄なのだと思い知らされた私は、内心の苛つきを抑えつつ失敗させて応じる。
しかし、エマは私の言葉に首を振る。
今度は何だ。何なんだ。
「そろそろ右手、直したほうが良いと思うよぉ?」
言われて視線を落とした私は、疑似筋繊維と疑似脂肪が焼けてこびりついた、ワイヤー状の人工筋繊維と
色々とどうでも良い気分になった私が見上げた空は、エマによく似た能天気な、雲ひとつ無い快晴だった。
身嗜みを整えるのは、とても大事です。