迷子のマリア   作:naow

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人の不幸が好きそうな人形と、理由はどうあれ暴れたい人形です。


70 混乱の予感

 お目当ての魔法銀(ミスリル)をそこそこの数量入手し、案外ご満悦な私。

 何故かニコニコで、今の所暴れだしそうな気配が見えないエマ。

 

 ご機嫌な2()が上機嫌で小走り(当人比)で目指す先は、冒険者ギルドが有ると思しき方向。

 

 白昼に突然響いた爆発音と立ち上る黒煙に、通りを行き交う人々も足を止めて視線を一方向に集中させている。

 巡回中の衛兵や領兵は慌ただしく何か言い合いながら、数名がその視線の先、私達が向かう方向へと走り出す。

 そんな様子を視界の(はし)に収めながら、私はふと表情を曇らせて、そして小さく呟く。

 

「エマ。厄介事ですよ、良かったですね」

 

 どうやら現場が私の探知圏内に入ったらしい。

 人が多すぎるし、何よりただの事故だったら本当に野次馬の一部になって終わる筈だったのだが、その反応は「黄色」だった。

 

 白い生体反応群の中で、どうやら建物内部から次々と飛び出して来る黄色い反応の群れ。

 大きな建物だし、記憶と照らしても、位置的に冒険者ギルドで間違い無さそうだ。

 

 それなら「黄色」は冒険者なのでは? と思うかもしれないが、それは私の説明が足りていない所為だ。

 探知に於ける反応のうち、白は使用者、つまり私にとっては無害なモノ。

 赤は危険な存在。

 そして、黄色は注意を要するモノ、という訳だ。

 

 レベル70で大ベテラン、80越えは滅多におらず、90もあれば英雄扱い。

 人間種に限らず、生物はレベル100到達が非常に高い壁になっていて、そんなレベルに到達する前に寿命が尽きるのが普通だ。

 壁を超えさえすれば、そこからは比較的容易にレベルが上がるらしいが、それでも普通は寿命には勝てない。

 

 そして、そんな壁を越えられない存在では、私にとって「黄色」で表示されるような存在にはなり得ない。

 

 因みに、青は友好的なモノで有り、私と並走しているエマも今のところは青く反応している。

 現場近くで黄色と交戦しているらしい青は、これはアリスだろうか。

 

 あれが友好的と言うのもすんなり納得出来るものではないが、まあ、敵対したい訳でも無し、放って置いても良いだろう。

 

「厄介事っていうかぁ。アレってただ面倒なだけだよねぇ。つまんないねぇ」

 

 エマも探知なり探索なりを使ったらしく、しかしその台詞はあまり楽しそうではない。

 私とエマのレベル差は80ちょっとなので、もしかしたらエマに見えている反応は私とは違っているかもしれない。

 薄い黄色程度だったら、エマもつまらないと思うだろう。

 

 エマには思い出して欲しいのだが、普通の人間はそもそも色付きの反応にはなりにくいのだ。

 

 現在(いま)ではただの虐殺人形から逸脱してしまったらしいエマだが、その事を少しでも考えて貰えたら、とは思う。

 しかし私は、説得の言葉を見つけられずに口を噤む。

 つまらなくとも、相手が弱かろうとも、そうと決めたらそれなりに虐殺は遂行する。

 それがエマの有り様なのだから。

 

「それにしても、空っぽがあんなに沢山いるなんてぇ。あんまり見ないよねぇ、何が有ったんだろぉ?」

 

 どうでも良いことを考え込んだ私の耳に、エマの小声が滑り込む。

 私から仕掛けたので、会話は小声でした(ほう)が良いと思ってくれたようだ。

「空っぽ? どういう事です?」

 私は安堵を胸に抱きつつ、エマの呟きになにやら不穏なものを感じて問う。

 そこそこの速度で移動している私では、集中力の問題で探索までは使えないのだ。

 

「マリアちゃんは初めて会うのかなぁ? 私達と似たような身体(からだ)だけど、中身が空っぽで、命令通りにしか動けないお人形だよぉ?」

「……」

 

 エマは当然の事のように説明し、そして私は言葉も無く空を見上げる。

 

 なんなんだ?

 マンティコアやらグリフォンやら、そんな有名所とか、もっとファンタジー色の強い敵は出て来ないものか?

 トロルでも良いし、ギガースでも、そんな巨大な相手と言うのも悪くはないだろう。

 勝てるならば。

 

 だというのに、私は旅してこの方、魔獣化した野生動物は()(かく)、それ以外に相手したのは人間種と人形だけだ。

 

 魔法も有るようなこの世界だと言うのに、ファンタジー的なモンスターと言うのは、殆ど居ないのだろうか。

「中身が空っぽとは、どういう事です? 言葉のままでは、そもそも動けませんよね? それとも、呪術的なモノですか?」

 気を取り直して、私は更に問いを重ねる。

 私が言うかと思われるかも知れないが、中身がない人形が動くというのは、何とも薄ら寒い物がある。

 そんな(ふう)に想像を逞しくする私に、エマは当たり前のように答えを投げて寄越す。

「違うよぉ? そういうお人形も有るけど、アレはそうじゃ無いねぇ。中身って言うのは、人工精霊の事だよぉ」

 エマのくれた答えに、なるほどと頷く。

 人工精霊が入っていないから、空っぽ、か。

 

 納得はしたものの、しかしすぐに疑問は湧く。

 

「……それはつまり、判断し、制御するモノが無い、と言う事ですよね? 何故動いてるんです? それもあんなに大量に?」

 

 自分の中に沸いた疑問に、漠然とだが思い当たることが有り、私はそれから目を背けるように、極めて間抜けな質問を発してしまう。

 人工精霊(なかみ)の無い、多数の人形。

 どれほど精巧に作られていても、命令を受けて状況を判断し、その身体(からだ)を制御するモノが無ければ動かない筈のモノ達。

 

「そんなの、人形遣いがいるからでしょぉ?」

 

 エマは、あっさりと私の逃げ道を塞ぐ。

 そんな事だろうとは思った。

 だが、そうだとしたら人形遣いを探すのは面倒そうだったので、そうで無ければ良いな、そんな(ふう)に呑気に祈っていたのだ。

 

 呪術人形では、解呪される恐れや呪詛返しでエラい目に遭う恐れも有るし、そうでなくとも強力な代わりにリスクを伴うのが呪術だ。

 そんなリスクを承知の上で、あんな数を動かしているとしたら、下手したら術師は既に死んでいる可能性すら有る。

 

 ただのガワだけの人形を何らかの魔法で動かしているとしたら、その人形は使い手の魔力を超える強さを手にすることは出来ない。

 つまり、ただの人間が魔法で操っているだけなら、そもそも「黄色」で出てくることが無い。

 

 空っぽの自律人形もどきなら、動かせるのならそれは強力な武器になる。

 骨格や人工筋繊維を持ち、強さは完成度に依存する。

 問題は動かす方法なのだが、それさえクリア出来れば理想的な操り人形になるだろう。

 そして、それを操る人形師に極端な実力は要らない。

 最低限、動かす為の何らかの方法、それさえ有れば良いのだ。

 

 ……だからと言って、実行するだろうか?

 それも、あんな数を同時に?

 動き回るので数えるのも面倒だが、20体は居る。

 

 案外少ないと思うかも知れないが、私から見て警戒色が出ていると言うことは、レベルで言えば200から300程度は有るだろう。

 エマでさえ「面倒」と言っていたのだから、レベル300前後の可能性が非常に高い。

 

 普通の冒険者にとって、1体でも絶望的な化け物が20体も湧いて出た訳だ。

 ゲームなら、文句でも言いながら電源を落とせばそれ以上見なくて済むが、残念ながらこの世界では実際に起こっている事だ。

 混乱から立ち直れない者、素直に逃げ遅れた者達は、文句を言った所で状況は少しも良くならない。

 

 私は小走りを続けながら、溜息を漏らす。

 

 既に生命(いのち)を散らした者はどうしようも無いが、なんとか生き延びている者は、きっと。

 颯爽と化け物を打ち倒せば、感謝と賛辞を惜しまないだろう。

 

 アリスが健闘して居るし、時間さえ掛けて良いなら彼女1人で片は付くだろうが、その時間の中で、どれほどの冒険者が、兵士が、一般人が死んでいくだろうか。

 

 私はどれだけ力が有ろうとも、小心者で目立ちたくない、ただの無責任な野次馬だ。

 彼らを助ける心算(つもり)など無いし、火の粉が降り掛かるまでは傍観者で居ようと思っている。

 

 ちらりと視線を横に向ける。

 

 そこには、傍観者で居る心算(つもり)など全く無い、しかし英雄願望とは無縁の、ただ暴れたいだけの。

 つまらないとか面倒とか、そんな類の事を口にしていた筈のエマが。

 その顔を、実に楽しそうな、酷薄で慈悲のない笑みで飾っていた。




ろくでなし人形はともかく、火薬増量癇癪玉人形がヤる気の様です。
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