迷子のマリア   作:naow

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賢者様の話も、本題に指が掛かりそうです。


94 触れる一端

 開示された賢者のレベルとか色々に圧倒されたり、すぐに緊張感を失ってみたり。

 自分の情緒というものについてよく考える必要を感じるが、面倒なので後に回そうと思う。

 

 賢者様との質疑応答……と言うか、こちらからの一方的な質問タイムは、簡単に言えばレベルとかステータス類についてのものだった。

 それ以外の何を聞けというのか。

 

 なんで賢者と呼ばれているのかとか、此処に住んでいる理由だとか、そんな事に興味なんて無いのだ。

 

 途中から質問タイムに参加したアリスは、そういった事が気になる様子であったが、案の定適当にはぐらかされていた。

 質問を受け付けるとは言っても、全てに誠実に答えるとは言っていないのだ。

 

 私が気になったのは、「世界を渡るもの(キャラクター)」という称号だ。

 その字面や響きもそうだが、他の質問――レベルやらステータス、魔法やスキルについては実に気持ちよく答えてくれたのに、それについては実に曖昧な回答だった。

「さあ? なんだろうね?」

 はぐらかす、という事はつまり、聞くな、という事だろう。

 いつもの私なら噛みつくし食いつくし、アリスだってはぐらかされて素直に引くほど素直でもあるまい。

 だが、私もアリスも、はぐらかされたことに関してはそれ以上踏み込めなかった。

 

 軽く威圧感を放ってくるのはズルいと思う。

 

 まあ、そんなこんなで、賢者様が私たちを招き寄せた、その事に関する説明の前準備はひとまず終了となったのだった。

 

 

 

 窓の外は少し陽が陰ったような気がするが、まあ、結構な時間話していたのだから当然と言えば当然である。

 ぼちぼち冬なのだが、この辺りは雪が降るのだろうか。

 

 ベルネはほぼ平地であったので、降ることは降るがそれほど深くはない、そんな記憶だ。

 

「あー、マリアさん。説明中に現実逃避するのは()めてくれるかな?」

 

 ちっ。

 逃避していると理解(わか)っているなら、そのまま放っておいてくれれば良いものを。

「申し訳御座いません、理解が追いつきませんでしたので。お手数ですが、もう一度お願いできますか?」

 嫌味と反感が籠もった言葉を並べてみせると、フシキ氏は困ったように眉根を寄せ、顎先に手を添える。

 私は難解な質問などしていない筈だが、何に困惑しているのやら。

「うーん。地脈を通じて、君たちの動向を把握していた、と言う部分は問題ないよね?」

「大問題です。地脈はまだ判らなくもないですが、それを通じて? 私たちの動きを把握していた? 何をどうすればそんな事が出来るのですか?」

 地脈と言うのは、文字通り大地を走るエネルギーの奔流だ。

 霊脈と呼ぶ者たちも居るが、まあ、同じものである。

 私だってそれは理解できるし、その気配を探る事でその方角が自分にとって好ましいか否か、判断する基準には出来る。

 

 しかし、私のそれは結局は勘だ。

 

 東に伸びる地脈に冷たい気配を感じるのは、その先に聖教国が有るという思い込みだろう。

 西……ここからは南だが、そこの地脈がざわついたり静まったりと感じたのも、結局は私の感覚でしか無い。

 その地脈を「通じて」私たちの動向を把握していた、ともすればストーカーとも取れるそんな発言を、うかうかと信じられる訳がない。

 先代の魔法の授業にも、地脈を利用する魔法なんて無かったし、ベルネの図書館やら衛兵隊の資料室やら、魔法協会(ソサエティ)の連中の与太話にも出てこなかった。

 私が知らないからそんなものは無い、なんて事を言いたいのではない。

 

 説明無しに専門用語を並べて煙に巻くような真似をするな、と言いたいのだ。

 

「そもそも、地脈を利用と言われても、あれの本質はエネルギーの奔流でしょう? それを利用すると言われても、せいぜいが自身の魔力強化が出来るかどうか、でしょう?」

 

 それも、取り込んだは良いが止めることも出来ず自爆するとか、そういった系列の。

 人の手には些か余ると思うのだ、あれは。

「いいや? アレが有するエネルギーは、アレがこの惑星(ほし)を巡っていることで得られた副次的なものだよ。本質は、そこじゃない」

 そんな私の考えを、賢者は言葉柔らかく受け止めてへし折った。

 質問タイムが終了し、賢者の説明タイムからは静かになったアリスや他の仲間達は、私とフシキ氏が何を話しているのか、理解(わか)っていないか気にしていない。

 

「そもそもの始まりは弱いエネルギーのせせらぎだったのかも知れないけどね。今現在、この惑星(ほし)を巡る地脈は、この惑星(ほし)に生まれては消えていった生命達の記憶さ」

 

 話について来れていない仲間たちの阿呆顔(あほづら)に負けず劣らず、私も間の抜けた顔を晒しているのだろうと思う。

 と言うか、話が宗教じみていて、訳もなく嫌悪に似た感情が頭を擡げてくるが、まあ、入信を強要されない限りは此方も大人しくしておくべきだろう。

 

 信じるか否かは、人それぞれなのだから。

 

「……信じていないね? まあ、知らなければ無理もないか。でも、君達はその旅の途上で、それを体感することになる。それも、具体的な形でね。とは言え」

 

 フシキ氏も自説を曲げる気はない様子だが、だからといって無理に押し付ける気も無いらしい。

 それらしいことを言って煙に巻いているだけにも思えるが、レベル5000超えの魔導師の言う事となると、一概に否定も出来ない気がする。

 

「それは今回の事には関係ないね。ただ、それが記憶という情報を(たた)えていると、なんとなく知ってくれればそれで良いよ。重要なのは、それを利用すれば、この惑星(ほし)の事なら大体理解(わか)る、と言うことでね」

 

 ざっくりと、私なりに纏めると。

 地脈に触れると、今までの生きてきた生物たちの記憶に触れることが出来ますよ、と。

 それを進めて考えると、雑多な情報の中から、恣意的に欲しい情報を拾えますよ、と。

「うんうん、そう言うことだね」

 そんな気楽な。インターネットでもあるまいに。

 

 自嘲して口の端が上がりそうになるのを抑える。

 下手に嘲笑などして、それが賢者様に向けたものだと捉えられては堪らない。

「君は妙な所で気を使うねえ、マリアさん。でも確かに、インターネットと言うのは、理解する上では近いものかもね」

 今度はそう来たか。

 仕組みや成り立ち、そもそもの有り様を含めて考えても全く違うものだと思うのだが、まあ、表面だけをなぞれば或いは……。

 

 私はそこで考えを止め、急いで顔を上げる。

 

 考え込んでいた事で、少し俯いていたのは気付いていた。

 それで相手の話を聞き逃した心算(つもり)は無い。

 私は首を巡らせると、まっすぐにアリスの目を見る。

 

「アリス。私は今、口を開いていましたか?」

 

 突然言葉を向けられたアリスはぎょっとしたように身を引くと、少し考え込むように口を開く。

「なんだよ急に……。うーん? いや、途中までは2人で会話してたけど、なんかお前が考え込んで、そこからは賢者サマが独り言というか、説明を……」

 私は単に状況を確認したかっただけだが、アリスも私に答えながら気付いたようだ。

 2人分の視線が、賢者を捉える。

 

「いや? 僕は、考えを読めるとか人の頭の中を覗けるとか、そういう能力は無いよ?」

「読めてるじゃないですか!」

「……マジか」

 コントのお手本のような賢者様のお言葉に、私の憤りとアリスのドン引きが重なるのだった。

 

 

 

 仕組みは判らないし、ツッコミどころしか見いだせないのだが、まあ、地脈を使えば色々出来るし、賢者様は人の思考が読める。

 そう理解しておくしか有るまい。

 まるで初心者のパソコンに対する認識だが、少なくともパソコンで人の思考を直接読むなんて真似は出来ないのだから、余計に性質(たち)が悪い気がする。

「ホントに人の心なんて覗けないのになあ……」

 言い訳じみた独り言が、私の思考に沿った返答である時点で説得力が無い。

 無いのだが、これに関しては勝手に読むなと釘を刺す以外に手の打ちようも無いので、気分は悪いが気にせず話を進める。

「覗けないとかは良いです、覗かないで下さい。それで、そんな気色の悪い真似までして、私たちの事を探って、方法は理解(わか)りませんが此処へ呼び寄せた。その理由はなんですか?」

 いつも以上に口調の制御に苦労を感じながら、話を先に進める。

 恐らく制御出来ていないと思うが、これも気にしない。

「ああ、うん。そうだったそうだった。いや、すごく単純な用で申し訳ないけれど、どうしても必要でね」

 人がどうにか言葉を選んでいると言うのに、賢者様は呑気に手を叩く。

 対する私は猛烈に嫌な予感に襲われる。

 

 賢者がどうしても必要なモノのために、人形4体が連れ立って歩いているのを呼び寄せた。

 

 なにやら面倒臭い採集やらなにやら、申し付けられそうな気配である。

 そこらの貴族や王族に言われたのであれば、鼻で笑ってお断りすればそれで良いのだが、相手が化物とあってはそれも難しい。

 いや、私たちなど問題にもならない化物なのだから自分でやれば良いと思うのだが、面倒だから代わりに行けと言われたらそれまでだ。

 する気のない譲歩を引き出すのは、とても難しい。

 

 それが上位者ともなれば、絶望的と言って良い。

 

 私とアリスの溜息が重なったのは、アリスも似たようなことを考えていたのだろう。

「いや、難しいことじゃないと思うんだけど……。単に、マリアさん、君の持っているメンテナンスポッド、それを使わせて欲しいんだ」

 どんな難題を言われるかと肩を落とす私に降ってきたのは、びっくりするほど簡単な、どうでも良い頼み事。

「勿論、僕が使うんじゃないよ? キャロルにね」

 私とアリスは、顔を見合わせる。

 

 そんな事で良いのか? という私と。

 そんな物、有るのか? というアリスと。

 

 揃ってキャロルへと顔を向ければ、居心地悪そうにもじもじする人形が、私たちから視線を逸していた。




びっくりするほど簡単な用ですが、それだけでしょうか。
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