コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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二度とやるなよ

今日、仕事の最中に電話が入った。もちろんコトノコーヒーでは、中華料理屋さんみたいな出前なんてシステムはない。というかウチのスマホに直接きたものだ。何かと画面を見てみれば、毎度お馴染みアホッタレからの着信である。まあ最中って言ってもお客さんが2、3人だけやったんで、ちょっとの間だけ葵に任せて奥に引っ込んで対応することにした。悪ふざけはしょっちゅうやけど、大した用事もなく仕事中に電話かけてくるタイプの常識のなさじゃない。何かあったんかと出てみれば、ただ一言「サンドウイッチ」とだけ聞こえて、それで通話が切れた。

 

聞いた直後はもちろんわけがわからない。気持ち悪いぐらい完璧な発音やったけど、それはそれとして理解はできない。その場で認識できた事実は、ウチは今アホのくだらん行動に巻き込まれたっぽいということと、カウンターの方を葵に任せたままだということだ。それだけ考えれば、とりあえず店の方に戻るのを選ぶのが自然なわけで、頭の中のはてなマークを端っこに押しのけてさっさと仕事に戻った。戻ってみれば、会計済ませたお客さんもおらず新しくお客さんが来たわけでもない感じで安心した。

 

けど結局仕事に戻ってもまあ、そこまでやることがあるわけやない。あの電話はなんやったんやろかと考えながらテーブルを拭いたりしてた。ブログに発音がどうのこうの書いたのは覚えてたんで、あいつがそれを知ってるってことはとりあえず分かる話である。分からんのは何を思って仕事中に電話なんかしてきやがったのかという部分だ。考え無しのアホならわざわざんなことせずに直接店に来て言いそうなものだ。ウチがブログに変なこと書いたんやろかと、またまた葵に任せて奥に引っ込んでブログを確認した。いやほら、普段も葵に任せて奥で作業することもある時間帯なんで。あの子も最近接客に慣れてきたって喜んでるんで。それのお助けも兼ねてるようなものであって、任せてサボりっきりなわけやないんで。後で葵に「仕事中に何度も席を外されると心配になる」と叱られたとしても。

 

話を戻しまして。ブログを確認してみりゃ、なるほど電話でもいいから教えてくれと書いてあった。最近書いたはずなのにまるで記憶に残ってなかったのは問題やけど、とりあえずこれで疑問の1つはクリアである。けど結局、仕事中にかけてきた理由がわからない。店の方に戻りながら、もしかしてあいつは、今店が比較的忙しくないことを知った上で電話をかけてきたんじゃないかと思い当たった。いやー、今日のウチは我ながら冴えてたなあ。まさか監視カメラが仕掛けてあるわけでもなし。もしこの時間帯が基本暇と知ってたとしても、所詮基本。その程度の推測で仕事の妨害できるような人間じゃないはずた。

 

さて、ウチならどうするだろう。ちょっとしたイタズラをしかけてやりたいが、あんま迷惑もかけたくない。推測はアテにしたくないけど、カメラで店内が見れるわけでもない。ならば、直接見てやればいいだけのことだ。再びカウンターへ戻ったウチは、まず客にあいつが紛れてないことを確認して、窓の外を見た。すると、手を叩いて笑いながらドアの方に近づいてくるアホが目に映ったというわけである。店に入ってからも変わらず笑ってた。静かな店の空間をぶち壊して賑やかにしてくれやがった友人への感謝にと、無料でウチが淹れたコーヒーを提供してやった。焙煎に失敗しちゃった豆で淹れた苦味酸味たっぷりのレア物である。顔くっしゃくしゃにして泣いて喜んでた。


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