ウチはよく、休みの昼間に見逃したドラマをボケーっと眺めることが多い。番組にもよるけどあんまりじっくり視聴するってことはなくて、家事しながらスマホいじりながらテレビで流してる感じだ。もちろん重要なシーンを見逃しちゃってるときもあるわけで、またもう一回見返すことになったりする無駄だらけの見方なんでおすすめはできやんのやけど。まあそんなドラマの中で、喫茶店はわりとよく出てくる。いや、昔は葵の影響、今は喫茶店側の人間だからそう思うだけなのかもしれないけど、ドラマに出てくるオシャレっぽい飲食店といえば、カフェかバーの二択だろう。
こういうのって「本職から見たら違和感だらけ」みたいなのが多いイメージがあるけど、少なくともウチと葵にそういうのはない。まずウチは言わんでもわかることやろうけど、他の喫茶店をよく知らない。うちにある道具とかが見当たらないと「どうするん?」とは思うけど、「別で代わりになるものがあるんです」と言われりゃそれまでである。それどころか私は、普段働いてるときですら「ドラマとかで見た喫茶店」っぽいことをしようとするような人間だ。違和感なんて感じるはずもない。
んで葵の方なんやけど、あの子はコーヒーの味にしかほとんど興味がないみたい。おいしく飲むためのお店作りって部分ならともかく、その他は特に他のお店のあれこれを見てきたわけじゃないらしくって、多少の違和感も「まあフィクションならこんなものだよね」で流せちゃう程度だ。むしろコーヒー淹れてるシーンのときの方がよっぽど渋い顔をしている。皆さんに見せられないのが残念なぐらい、むすっとした面白い顔をします。それでも表情に出すだけで言葉にはしないのはあの子が良い子だからなのか、もうウチは散々聞いたことやし今さら文句たれても仕方ないと思ってるのか、多分後者寄りの両方である。
ただそれはそれとして、ドラマ見ててちょっと気になったことがありまして。これもよくあるものなんやけど、お客さんが店主さんを「マスター」って呼ぶ、あれである。そりゃ、ウチにそんな大層な呼ばれ方されるような貫禄みたいなもんはないし、それ以前に接客担当の店員だ。呼ばれるにしたって葵の方である。今まで一回もそんな言葉はコトノコーヒーで出たことないんやけど。
それによくよく考えてみれば、私はマスターって呼ばれるより呼びたい側の人間だった。行きつけの喫茶店で馴染みの店主さんをそう呼んでみたいっていう。どうしよ、今度淹れてもらったときに葵をマスターって呼んでみればちょっとは満たされた気分になれるだろうか。