新しいブレンドコーヒーが結構注文されている。オーソドックスな(たぶん)コーヒーらしい風味の中にすーっとさわやかーな酸味のある味は、値段の安さを抜きにしてもこの時期に飲むコーヒーとしてはうってつけだと思う。特にアイスが本当にいい。実はここ最近は私もこのブレンドを葵に淹れてもらっている。たまに別のが挟まったりするけど基本はこれだ。予想外の味とか飛びぬけた特徴はないけど、暑い時期のアイスコーヒーに欲しているものがちゃんと揃えられている。普段豆だけ買っていかれるお客さんにも、テイクアウトでいいんでぜひ飲んでほしい。店側としての立場を抜きにしておすすめしたいのだ。どうせそんな高くないですし。
たまに見る半額キャンペーンとか「豆買っていただいた方は一杯無料!」とかやってみようかと思ったけど、あんなのは大企業がやるから成り立つのであって、うちみたいな個人経営の喫茶店ができるものじゃないだろう。実際試しに軽く計算してみたけど、どう見積もっても採算が取れない。ただでさえ計画性のない仕入れ方してるんやから、これ以上不安要素は増やしたくないな。昨日も葵にせがまれて、ちょっと危機感を感じながらも注文の許可を出しちゃったばっかりである。今月はまだ余裕あったはずやけど、気を抜くと転落しそうなので気張っていきます。
葵は今でこそ「好きなことになると暴走しちゃうけど普段は真面目で大人しい子」みたいになってるけど、ちっちゃい頃は本当に危なっかしい子だったのだ。ただの「好きなことになると暴走しちゃう子」だった時期があった。あんまり危なっかしくて見てられやんから自然とウチが面倒見る側になり、双子やのに母から「お姉ちゃんなんだから見守ってあげなよ」と言われるぐらいだ。幼稚園ぐらいは葵から「茜」とか「茜ちゃん」って呼ばれてたはずなんやけど、小学校入るころにはすっかり「お姉ちゃん」としか呼ばれなくなった。
そしてずっと葵の世話してくつもりだったのに、気が付いたらあの子は危なっかしさはそのままに、ある程度の常識を身に着け始めた。私に人の面倒見る素質があるかって聞かれると多分なくて、でも葵に比べりゃ常識は人並にあるって部分だけで姉としての体裁を保ってきたのに、それが崩壊しようとしていたのだ。けどウチは焦らなかった。葵が常識を多少身に着けたところで知れてるし、危なっかしさは健在だったからである。そしてそれは予想通り事実で、今の「好きなことになると暴走しちゃうけど普段は真面目で大人しい子」な葵がいるわけだ。
ただ、昔は基本ウチが上回ってたから色々頼ってもらえてたのに、だんだんと「この姉、実はそんなに賢くないな?」というのがバレ始めて、今ではお互いがお互いの面倒を見合う関係となっている。姉としては情けないような、でもこれで、双子としての関係にようやく落ち着いたということなのか…。あいつみたいに姉としての立場とかほっぽりだせたら楽なんかな。ああなるのも嫌やけど。