コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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思いつきでするもんじゃないね

だいぶ前の話になるけど、たまにはと思っていくつか別の商社さんに頼んでみたんだけど、いまだにファックス使ってるところだったりメールの返信が遅かったりで、結局いつものところにお世話になり続けることになった。詳しいことは妹に任せているからちゃんと知ってるわけではないけど、昨日来た商社さんの方はけっこう妹から好評です。んでこの商社さんの担当の人がまたかっこよくて、葵がその人と話したあとは機嫌よさそうに戻ってくるからお姉ちゃん心配で心配で。当然葵は「コーヒーの話がよく合うから」って言うんやけど、葵の方にその気がなくっても向こうさんが、ってこともありえる。

 

ただ恋愛経験に乏しいウチじゃあその真相はわからず、二人の遠くで勝手に気を揉んでいたわけである。そうやって葵は優しい子やから変な虫が寄り付かんかと気を張っていたりすると、お姉ちゃんだって素人でしょ、とたしなめられるのが常だ。そんな感じでいたら昨日その方が、担当の人が変わりますという挨拶をしに来た。これには二人そろって落胆である。いや、変な意味抜きに普通に感じの良い人やったし、葵からしてみても初めてのお店経営で商社さんとの取引なんかも慣れてなくて、ようやく馴染んだところで交代ですというのもしんどい話だ。しっかし、マジで出会いとかあるんかこの仕事…。焦ってるわけやないけど、長い目で見ると恐ろしいことになりやしないだろうか。でもまあ、おばあちゃんになった姉妹二人でという未来も悪くないと思う。葵に話したら「それはちょっと…」と返されてしまった。おねえちゃんかなしい。

 

さて、アホな話はこれぐらいにして(始まりから終わりまでアホな話やろってのはなしで)、例の常連高校生さん二人組だけど、それぞれ一人で来ることが多くなった。仲違いでもしたんかな、と思ってたらそれはそれとしてちょいちょい二人で一緒にも来ているので安心だ。若いころのケンカは変に意地を張り通しちゃうと、大人になってから何ともいえない関係になってしまう。お二人には仲良く、ケンカをしても仲直りできる関係であってほしいものだ。ちょっと前から大人しい子は葵とよく話すようになったし、ギターの子には母から聞いた曲名を教えてあげた。あと曲のバリエーションが増えたのもこの子のおかげである。葵は話してるうちに買いたい豆が増えたそうで、予算に目を通しながらウンウンうなっている。売り上げとかを除いても、もう経営の二割くらいはお客さんのおかげで成り立っている気がする。この子たちが来なくなったらえらいことになるかもしれない。そういや今度お二人の後輩さんを連れてくると言っていた。よく食べる子らしいので、この店のメニューで満足させてあげられるか不安です。

 

そうそう、この前の紅茶みたいなコーヒー、ミルクとは超絶合うんやけど、砂糖入れた瞬間まずくなるのでオススメしません。昨日きまぐれに砂糖入れて後悔した、残りは飲まずに流してしまった。この豆がどこの国のものだったかは忘れたけど、きっといろんな手間をかけられて整えてもらって、地球の裏側みたいなところまで運ばれて、焙煎されて粉にされて出したものをシンクに流されたではたまったもんじゃないだろう。洗い物しながら何か罪悪感湧いてきて、流れていった方を見つめて静かに手を合わせた。このような憐れな犠牲者を出さないためにも、皆さんは慎重に自分好みのコーヒーをつくりましょう。


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