コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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花っぽさ

一昨日商社さんが来て、帰りにサンプルを置いてってくれた。いくつかのとこにお世話になってて、商社さんの対応は基本的にウチの担当だ。理由は仕入れ関係の管理はウチの仕事なことと、もしその間に普通にお客さんが来ても、葵さえいれば対応できるからである。コーヒー注文されたらウチじゃどうにもならない。

 

けどこの日来てた商社さんは別で、コーヒー関係の話で葵とは気が合うらしい。じゃあ葵に任せりゃいっかって話かと言われればそういうわけにもいかない。話が盛り上がった末に、ウチが思わず怯んじゃうような値段のコーヒーを買いたいと葵が言い出すことがあるからだ。最近はなくなったけど、「買っちゃった」っていう事後報告なこともあったもんやから油断できない。結果として、手が空いてれば二人で対応することになっている。

 

最初の頃は「純粋な妹を上手いこと乗せやがって!」とか思ってたんやけど、付き合いが長くなるうちに、わりとこの人も美味しいコーヒーを知ってほしい精神強めなのがわかってきた。それはそれとしてちゃんと商売根性みたいなもんは兼ね備えてるけど。葵も葵で、前しか見えなくなることはあれどバカじゃないんで、そういうのも全部承知の上でやってるんだからわからない。まあ両方楽しそうやし、ああいう親しさもあるってことでええんかなあ。あの二人の会話に交ざるのがちょっと申し訳なくなったりするけど、今のところどっちからも悪い顔はされてないし、これからも二人で対応するつもりである。いい人だけど油断ならないのも事実なのだ。

 

さて、その商社さんが置いてってくれたサンプルやけど、品評会でも何回か入賞してるようなまあまあ有名な農園のものらしい。最近品種とかは結構わかるようになってきたけど、農園の話は未だにさっぱりやな。味はバランスの良い感じやけど、ずーっとどっかにウチの苦手っぽいフルーティな酸味というやつがい続けるような味だった。飲み始めはちょっとビビったけど、これが苦手なはずなのに結構飲めるから驚きである。牛乳入れたらその酸味も完全に消えて文句なしだ。これが上品な酸味というやつなんだろうか。まあそれなりに値段はするんやけど、ちょっと感動したんで、また届いたらぜひ。

 

そうそう、この「フルーティな酸味」っていう表現は割とコーヒーの味の説明で見るんやけど(この店の周りだけかもしれやん)、それを商社さんがよく「花っぽい」と表現するのだ。まあフルーティと花っぽいなら似たようなもんか?とは思いながらも、他で見ない表現だったんでずっと印象に残ってた。そしたらこの日葵が「子どものころツツジとか吸ってたんですか?」って聞いたのである。

 

商社さんがちょっと恥ずかしそうに頷いてて、なるほどなあと思った。ちっちゃいときから実際に花の味を知ってたから出た感想だったみたいだ。育ちよさそうやのに、意外な一面を知れた。でも料亭とかで食用の花とか出てきたりもするし、意外と花の味って定期的に口にしとるかもな…。あ、ツツジは毒あったりするんで吸わないでください。わりと知られてるかな?ウチは保育園で先輩から聞いて初めて知ったんやけど。


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