コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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それでもやっぱり、お好きなように

連日の忙しさもようやく終わって、やっとこさ世間と同じようにだらだらできるというものである。しかし世の中にはそんな中でも休まらないお仕事というものもあるそうで、常連さんにおっきな鉄道会社で働いてる人がいて、この前「特にいつもと変わらない」とぼやいていた。社会はいろんな人たちに支えられて成り立っているとは言うけれど、なるほどこういうことかと思った。その点でいえば、喫茶店というものはどれだけ社会の役に立っているのだろうか。いや、別にそんな役に立ってなくてもええんやけど、どんなもんやろかと考えた。で、思ったことをそのままその常連さんに聞いてみたら、「少なくとも自分は、ここがあるおかげで頑張れているよ」と言ってくれた。めっちゃ嬉しかったので、それが社会の中での喫茶店の存在意義ということにした。

 

そのお客さんから聞いた話になるんやけど、昔の景気の良い頃は、雑誌とか電車の座席に置いていく人が結構いたそう。それを車掌さんなんかが拾って、馴染みの喫茶店に持って行くということがあったそうだ。多分それで、コーヒーの一杯でも飲ませてもらっていたのだろう。「先輩からそういう話を聞いて、やってみようかと思ったけど、いまどき雑誌なんか早々置いてないし、そもそもここ、雑誌無いしねえ」と言っていた。そう、コトノコーヒーには雑誌はおろか、新聞、本の一冊も置いていない。たまに席に座ったあと、きょろきょろと周りを見て探しているお客さんが見えるので、ここにも書いておきます。

 

ウチは本くらい置きゃあいいのに、と思うんやけど、これは葵に強く反対された。葵はコーヒーは言うまでもなく本も好きなので、なんで反対してるのかわからなかったけど、ちゃんと理由があるらしい。本を読みながらコーヒーを飲んでいると、だんだんと本の方にばかり集中し始めて、コーヒーを本来楽しめる分だけ楽しめないというのだ。10+10で合計20となるではなく、10+5で合計15となるらしい。あとコーヒーが冷める。そういうわけで、お客さんの方から持ち込むことまでは流石に禁止しないけど、お店に置くことは嫌がった。ウチもまあ、自分たちのお店なんやから多少こだわりを押し付けてもええやろ、ということで、現在のような状況となっている。

 

それ関連で思い出したことだけど、私は喫茶店に行くと、スマホとか、なんか取り出しづらくなってしまう。連絡が来てないかちょっと画面を見ることさえ、妙に後ろめたく感じてしまうのだ。なんか、お店に失礼なことをしている気がしてくる。実際は好きなように過ごせばいいんだけど、きっとそう感じてしまうのは、お店の雰囲気のせいなのだろう。大学生がパソコン携えて通うようなガラス張りのおしゃれなお店なんかじゃ、スマホなんて自然に手に取ってしまうだろうし。以前書いた通り、うちは大した考えもなく作られた内装だけど、一応「それっぽさ」をベースにして選んでいるわけでして。「本を置いていない」という小さい部分も、もしかしたら何かしらの影響を与えているのかもしれない。

 

でも、コトノコーヒーの基本のスタンスは「お好きなように」です。スマホを触ったって、隣のお友達にコーヒーについて説教垂れながらでだって、ボーっと三十分かけて一杯飲んだって、構いません。ただちょっと、こっちの思惑通りになるよう、お店の雰囲気を作るだけです。


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