くだらんことやけど、最近ちょっとした発見がありまして。葵がまあだいたいお昼頃にコーヒーを淹れてくれるんやけど、その淹れてる途中に「今日は寒いねー」とか「昨日よりあったかいねー」とか言うことが多いのだ。今までずっと何も思わず「おーせやなー」って返しとったけど、ふと何やこれと気がついた。大したことでもないからその場では聞かんだけど。でまあ、次の日もまた似たようなことを言ったんでとうとう本人に聞いてみた。
そしたら「マグカップを触った冷たさを感じて言っていると思う」らしい。コーヒーを注ぐ前にカップを温めるから「カップ冷たいなあ、今日は寒いんだなあ」と思って口に出しているのだと。洗濯物でベランダに出て部屋戻ってきた時はいくら寒くても何も言わない子なんで、コーヒー淹れるときだけ気温について話し始める理由がやっと分かってちょっとスッキリした。それも葵らしい理由である。
カップを温めるっていうのは、コーヒーに限らず紅茶なんかでもよく聞く話だ。そういや緑茶とかは聞いたことないな。なんか違いがあるのか、ちゃんとした人は湯のみを温めるのか、ネットで調べるほどの興味もわかないので一生の謎になりそうだ。話を戻しまして、当然お店で出すカップはちゃんと温めてある。お客さんに出すものなんだからそりゃそうだ。でもウチはどうせカップのあったかい冷たいで変わる味の変化なんて感じ取れやしないんで、葵には「わざわざ温めやんでええよ」と言ったことが何度かある。
でもそこはやっぱり葵なんで「大した手間じゃないから」とか何とかいいながら温めてくれるのだ。昔は「優しい子やなー」ぐらいに思ってたんやけど、他人に出すコーヒーについてはとにかく妥協したくない子なんやとだんだん気づき始めた。カップだけじゃくても、お湯の温度の細かい調整とかだって、ウチの分だけ淹れてくれるときもやってくれるのだ。焙煎の具合とか豆の種類とかならまあ理解できるけど、そのへんのレベルになるともうよくわからん。わからん人間相手にも真剣なのはまあ、お店としてはいいことなんやろなあとは思える。プライベートで双子の姉に対してまでそのスタンス貫かんでもとも思うけど。
何気におっかないのが、コーヒー淹れてるときの葵に雑談を振ると「ちょっと今無理」と呆気なく断られることだ。普段は優しい妹に適当な対応をされて驚いてるお客さんも何人か見てきた。少し話しかける程度ならええんやけど、「さっきこんなことがあって〜」みたいな話を始めるとまるで相手にされない。実はお店を始める前にウチが結構心配していたことだった。お客さんに素っ気ない態度とっちゃうのはアレやし、実際お店始めたらマジでやるし。そういうときはウチが横から入って代わりに話すか、そもそもコーヒー淹れてるときのあの子に話しかける状況を作らんように立ち回っていた。今はもう常連さんの間じゃ知られとることみたいなんでそこまで心配してないけど、喫茶店としてはなあ。いや、硬派な店主感あってええんやろか。そんな気もしてきたな。