コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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アホ

お店は休み、予定はあるけど家から出てもいないから、特に話題があるわけでもない。けど気が向いたので、ブログを更新してみることにする。

 

とはいっても先ほど述べた通り、真新しい話はない。何かないもんかと周りを見回したけど、いつもの見慣れた部屋である。やっぱやめようかと思ったところで、友人のアホからスマホにメッセージが来た。相変わらずなんの意味も実りもない会話の続きだ。そういや度々ブログに載せながら詳しく書いたことはなかったな、と思ったので、今回はこいつについて書くことにする。お店のブログに書くことじゃないだろうけど、そのお店だって休みなのだから、今日一日はここもプライベートな場ということで、ご勘弁願いたい。ああ、返信は後回しだ。普段からお互い既読スルーしまくっているので、今更気を遣ってやらなくてもええやろうし。

 

アホと出会ったのは大学生の頃である。一年生のしょっぱなの授業に30分遅刻したあいつが、教師に気づかれないよう静かに教室に入り、そっと隣に座って無言で勝手にウチのメモを写しだしたのが始まりだ。いきなりのことにウチが呆然としている間にアホは内容を写し終え、「ありがとう」と小声で言うと、前を向いて説明に集中し始めた。思えば、非常識な行動をした後でもあいつなりに礼を尽くそうとするのはこのときからだ。それで埋め合わせができているとでも思っとるんやろうか、思っとるんやろうな。妹の方はあんなにまともなのに、どうしてコレが生まれたのだろう。

 

やべえやつがおる、と思って授業後そそくさと退散しようとしたウチを捕まえ、なんか大して内容のない話をベラベラとまくしたてたアホは、仕方なく連絡先を交換したあともそのままウチについてきた。ウチにも高校からの友人が待ってたんで、結構きつめに言って引き剝がそうとしたんやけど、ギャーギャー言い合ってるうちに意気投合してしまった。あんまり認めたくないけど、多分根っこの部分が近い。ただ、この前諸事情あって葵抜きのウチとこいつでコーヒーの試飲をしたとき、擬音だらけの感想とも言えない感想を交わしあったんやけど、感覚が近かろうとお互い頭が悪いので相手の言ってることがわからず、話が一歩も前に進まない。結局葵にまとめてもらったので、最初からウチら二人だけでやる意味なかったなあ、となった。アホ同士で一緒にいても得はたいしてないようである。

 

それからは前にも書いた通り、大学時代は生活費がなくなったら当然のようにウチの部屋に居座るし、最近だと営業時間中に店のキッチンに入ってくる。お客さんの目もあるし勘弁してほしいが、ちゃんとコーヒーは飲んでいくし、豆を買って帰ることもある。次来たときは感想も言うし、皿洗いもやってくれるので叱るに叱れず、こっちの調子が狂う。さすがに接客までしだすのは勘弁してほしいけど。

 

非常に癪だが、多分こいつも、ウチがお店をやっていくうえで大事なものの一つになってしまっているのだろう。これを読んでるお客さんも、見慣れない白い長い髪の女が、勝手にキッチンに立っていようと接客していようと、お店の一部だと思ってもらえれば幸いだ。


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