コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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いいお店ですね

休みとなれば、親戚で集まることになる。そこでいとこがインスタントのコーヒーを用意しようとすると、葵が待ったをかけた。んで、家から持参した豆とミルとケトルをカバンから取り出し、他の親戚からも飲むか聞いて、淹れ始める。何をそんなでかいカバン持ってくんやと思ってたら、一式準備していたようで。ウチも一杯淹れてもらった。コーヒーいるかどうか聞いて回ってる葵はとても楽しそうだったので、やっぱり今の仕事はこの子にとって天職なんだろうと思った。ニコニコしながらいかにも「感想を待ってます」という風の葵を見てみんな口々に褒めて(実際おいしかった)、葵は終始ご機嫌であった。

 

ウチは親戚から喫茶店に合いそうな昔の曲を教えてもらい(昔の、というと渋い顔をした人も数人いた)、葵は持ってきた3,4種の感想を聞こうとして3つ目で大半が脱落したりした。前に集まったときは今ほどお店を本格的に動かしていなかったけど、今回はこっちの姿勢が変わり、いつも通りダラダラと喋るだけの休みとはまた違ったものになった。新作のパンケーキは微妙な反応だったので、まだお店にはお出しできなさそうである。もう少しお待ちください。

 

ここくらいしか言う場所がないので書くと、他の食べ物系のメニューは、少しずつアップグレードされているのだ。試食のとき、葵は単純なおいしさだけじゃなくて「コーヒーに合うかどうか」で判断してくれるのでありがたい。アホはウチと味覚が近いのでうまいとしか言わず、アテにならない。あいつはタダ飯食らってるだけやな。

 

集まりが終わって店に戻ると、当然がらんとしている。朝にお店の準備をしているときにも夜に片付けをしているときにも、なんなら休日にもよく見ているはずなのに、妙に新鮮味を感じた。でも、しばらく動かしていないはずなのに、コーヒーの香りが壁にも床にも染み付いているようで、ドアを開けた瞬間、匂いの乗った空気がふわっと体を包み込む(なかなか詩的な表現できたのでは?)。こういうの、なんかちょっとワクワクしません?私はしました。

 

そんで、そのノリでお客さんになってみることにした。妹に頼んでコーヒーを出してもらって、私は席に座る。照明を点けて音楽も流して、いつも通り営業しているコトノコーヒーの出来上がりだ。カップに口をつけて、周りを見渡して、いいお店やなあと思った。このお店をつくり出すのに私が役立っているのなら、本当に嬉しい。いい店すぎて、休みの間ここに来れないお客さんたちに哀れみすら感じ始めたが、こればっかりは経営者特権である。

 

たぶんこれから他人に自分のお店をオススメするときは、自信を持ってできそうだ。こんなにいいお店、来ない方がもったいないというものだ。

 

これを読んでくれているお客さんも、休みが明けたらまたいらしてください。この素晴らしい空間を、できる限り感じてほしい。とは言うものの、お客さんの方が先にこれを知っていたわけで、何とも羨ましいものだ。どうして教えてくれなかったの。


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