コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

162 / 173
もう知らん、わからん

また新しい豆が入ります。遅くても五日後には届くらしいんでお楽しみに。最近はあんまり新しい豆も仕入れてなくて、なんとなく落ち着いてきたなーと思ってた頃だ。リスト覗いてた葵が急に、「これ買いたいんだけど」と言い出した。まあ別に珍しいことでもないんで、はいはいどんなもんでしょうと見てみたら、見覚えのない名前の豆だった。

 

意外に思われるかもしれやんのやけど、ウチだって何度か見たことある名前のコーヒーぐらいなら覚えているのだ。おかげで、お客さんと話すときも「その○○、私も好きなんですよね~」ぐらいの会話はできるようになった。ただ、「いいよね○○、××農園のもあるんだけど…」とか返されると、それ以上は続かんのやけど。そんときは多少不自然になってでも退却するのが安定である。できれば葵と交代するのも忘れずに。何回か言っとるけど、コーヒーの名前ってほんとに覚えにくいしややこしい。どっからが農園の名前でどっからが品種でどっからが…何?ってなる。そんなウチはフルネームで覚えてるんで、略称で話されると途端に分からなくなるのだ。もうこの辺は葵に任せることにしよっか。

 

さて話を戻しまして。葵が見せてきたそのコーヒー、見たことない名前なうえに、高かった。今さら値段でどうこう言うつもりはあんまりないけど、今回は見覚えのない、つまり初めて買うコーヒーなわけで。そう簡単に「じゃあ買おか」ともなれない。仮にも商売やから、高いのを買って売れませんでしたでは困るのだ、一応。あと、一度に買える最低の量っていうのが商社さんの方で決められとるんやけど、その基準が低くはないのも、ちょっと躊躇ってしまう。少なくとも、ある程度の量は一度に買わなあかんわけである。

 

こういうとき、ウチは正直心の奥底で「誰が買うねんこんなの」と思っている。そして実際に売りに出してみれば、滞りなく普通に売れる。これを何度か繰り返して、もう変な豆買うのは葵に任せよう、となった。今回も「誰が買うねん」と思いながら、結局買うことに決めた。思えば、昔はウチがもっと渋ってたし、葵ももっと押しが強かった気がする。「え~これ買うん・・・?」「ぜったいおいしいから!」ってな感じだった。それが今では「これ買っていい?」「んーおっけー」になった。これを信頼関係って呼ぶんやろか。少なくとも、ウチは葵を信頼してるわけではない。なんかもっとこう、諦めに近い感覚である。ウチは向こうで別のことやってるんで、コーヒー好きの方々はここで好きにしていてください。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。