一月前商社さんが来た時に「近いうちに品評会でオークションがあるから、ご希望のものがあれば」と言われたことがあった。まあすごい人気の豆やと、ウチらとは世界の違う、海外のとんでもないお金持ちが落札を争うレベルらしいんで、ほどほどのとこで、一応聞いておくけどあんまり期待はしないでねーって感じらしい。こういう機会自体は今までもそこそこ経験してるんで、葵の希望とお財布事情を擦り合わせつつ、なあなあで流してたようなイベントだった。
ところが今回は葵が珍しく賭けに出て、普段は希望に出さないような豆をお願いしたのだ。少なくとも、これまで頼んだことのないくらい競争率の高いものらしい。ウチが知らんうちに(目の前で行われてたんを気づかんかっただけの可能性もあるけど)似たようなことを1、2回しとったんやけど、どれも上手くは行ってなかった。今はちょっとお店に余裕もあるし、ダメで元々のチャレンジである。
しかし、ウチはダメ元でも葵にとっては違うようで、商社さんから別件の連絡ついでに「もうあと数時間でオークションでしょうかね」と言われた時から、それはもうソワソワしっぱなしだった。こういうときこそコーヒー飲んでリラックスやろ、と言ったけど「何か今じゃない」と返された。ドリップのときに手元でも狂うんやろか。そのへんのこだわりはようわからんけど、とにかく落ち着かんようで、リビングをウロウロしていた。私が「連絡あるにしても明日やろ」と言うとひとまず大人しくなったけども。
受験でも何でも、当の本人は「落ちたら落ちたでしょ」とサッパリしていて、他の家族はオロオロソワソワって感じだったのに。何にしても珍しいものを見た。これまでもウチの知らんところで似たようなことしとったんやろか。
んで、翌日もずーっとそんなんでした。お店が暇そうなタイミングを見計らって裏へ行ってメールを確認して、の繰り返しだ。よう見とるお客さんから「葵さん、どうかされたんですか?」と聞かれたりもしたが、お店の内々の話で、それもまだ入荷も決まってないような商品についてなんで適当に誤魔化したけど、それくらいこの日の葵は忙しなかった。
そして昼の3時頃、また裏へメールを確認しに行った葵が、お店の雰囲気を崩さない程度に、ドタバタルンルンで戻ってきたのだ。まあ、さすがに何があったか分かるというものである。今すぐにでも「やったよお姉ちゃん!」とか大声で言い出しそうだったので(そんなこと子どもの頃以来言われてないけど)、分かっとる分かっとるとジェスチャーでなだめて仕事に戻った。葵はそのままお客さんに話しに行きそうな雰囲気やったけど、まだ確定した話でもないんで、ぐっと堪えていた。
それからゆっくり時間をかけてお客さんも減っていって、閉店時間間際にようやく誰も居なくなってから、妹はエプロンも外さずに跳ね回って、勢いそのまま裏へ帰って行った。お店で売りに出すのは一月後ぐらいになると思います。