コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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それはもう、かっこよかったです

先日書いたお高い豆だけど、本当に売れるとは思っていなかった。しかもどこから聞きつけたのか、それを目当てに初めて来られる遠方のお客さんなんかもいらっしゃって、びっくりしている。休み明けだからある程度の人の多さは覚悟していたけど、あそこまでとは予想外だった。一番人がごった返してたお昼あたりなんかにコーヒーを飲みに来られたお客さんには、ご迷惑をおかけしました。あの日は喫茶の方までなかなか手が回らず、私も妹もいっぱいいっぱいだった。

 

休みの前の忙しさから解放されて、ゆっくり休んでさあ働くぞ、からのすぐこれというのは、お店としては嬉しいことなんだろうけど、なかなか素直に喜べないものである。ただ、今回の件でコトノコーヒーの名前が少しでも広がったのなら、しんどい思いをしたかいがあるというものだ。ところで、仕入れただけでこんだけ話題になるって、あの商社さんはなんだってうちみたいな個人経営のお店に、今回の話をしてくれたんやろか。気になって仕方ないけど、お仕事中に電話してまで聞きたいことでもなし。メールもなんか違う気がするので、今度来たときに尋ねてみようと思っている。

 

そうそう、このお高い豆、いつかに書かせてもらった小さい子も買いに来た。あれからちょいちょいお店に来てくれる常連さんで、葵の方もすっかり好みを把握している。葵とその子の間で話が盛り上がり、そこに途中で来店した常連女子高生ちゃんの大人しい方も加わって、時間帯のわりにカウンターが少しにぎやかになった。そうやって話している中で例のお高いコーヒー豆の話が出て、ちっちゃい子がそれを買ったと聞くと、高校生の子がうらやましがった。彼女は学校が忙しくてバイトなんてしてる暇がないらしく、お小遣いだけでは、確かにとても手の出せる金額ではない。それを見た葵が、じゃあ一杯飲みますか、と言いたげにしているけど、この前ウチがきつめに注意したばかりだ、なんとももどかしそうにしていた。ウチも遠目に見ながら、まあ仕方ないんかなあとか思っていた。

 

すると、そんな二人の様子を察したのか、ちっちゃい子が「じゃあ、この袋から淹れてくれる?二杯分」と、脇に置いてあった買ったばかりの豆を差し出したのだ。これには当然葵も高校生ちゃんも、ついでに見ていただけのウチもびっくりである。で、高校生ちゃんは夢にまで見た(らしい)コーヒーを飲むことができたというわけだ。いやしかし、仮にもしウチがあの立場やったとしても、手元の豆を挽いて淹れてもらうという考えには至らんやろなあ。あ、これはこのときが特別なんで、同じことしてって言われてもやりませんからね?「ちょっと良い魚が手に入ったから、これで一品作ってよ」みたいな、気の利いた料亭のようなサービス、うちにはありませんから。

 

これはブログに書かねばならぬと、帰り際に掲載許可をもらったあと、そのちっちゃいお客さんに「すごいですねえ、ウチにはあんなこと思いつきもしなさそうです」と言うと、「見てたの、知ってたから。せっかくならブログに載るような、かっこいいことしよっかなって」と返された。なんだか、格の違いみたいなものを見せつけられた気分である。

 

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