コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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ブルーマウンテンはいい子じゃない

先日、ブルーマウンテンが届いた。ど素人の私でも名前は聞いたことのある、あのブルーマウンテンである。妹曰く、「知名度が高いわりにはおいしくないけど、有名になるくらいにはちゃんとおいしい」とのこと。そのとき詳細な味の分析と感想もきかせてもらった。これでまた、友達と喫茶店に行って誰かがブルーマウンテンを頼むときに、知ったような顔で語ることができるというものだ。ブルーマウンテンについて詳しいって、素人目にはわかりやすく凄い気がする。でもそんな発想してる限り、ウチはずっと素人なんやろなあ。

 

さあそのブルーマウンテンやけど、これがなかなか売れる。贈り物用のラッピングをすることが多かったので、そういう用途で喜ばれるものなのだろう。「これはパナマのゲイシャで、発酵のときにこういう〜」などと説明されるより、「ブルーマウンテンです!」と一言で済んだ方が貰う側としても良い。あと有名。思いのほか在庫の減りが早く、追加の発注はもうやっておいた。でも、もう一つ入荷した方は思っていた程売れていなかったりするので、世の中ままならないものである。葵は妙に悔しがっていた。

 

まあまあなお値段のブルーマウンテンですが、最近私にもコーヒーの価格についてわかってきた事がありまして。値段によってざっくりとしたクオリティはあれど、その価格帯の中でまた、それぞれに個性があるということだ。900円の豆はそれ相応のクオリティやけど、ちゃんとその豆の個性がある。安いものを買ったからといって、悪いものではないということだ。葵はハッキリとした個性のあるコーヒーを飲むと、その感想の中で「いい子」という表現をよく使う。

 

結構しょっちゅう「いい子」と言うので、じゃあどんな豆がいい子じゃないのかを聞いたら、チェーン店の万人受けするようなコーヒーを真っ先に挙げた。それを否定したわけじゃないし、たまに飲む分には良いらしいけど、葵にとってのいい子ではないようである。ブルーマウンテンは、どうも葵にとってのいい子ではなかったらしく、それゆえに自分がいい子だと思った豆の方が売れず、悔しがっていたみたいだ。わるい子はいないらしい。

 

ブルーマウンテンみたいな、「有名やし1回試しに仕入れてみよか」みたいな豆以外は、基本的にサンプルの試飲をして、葵が個性のあるいい子だと思ったものを売りに出すのが、コトノコーヒー流だ。お店で売れる売れない、葵の好き嫌いに左右されないために、変な品揃えのコーヒー屋さんとしてそれなりの知名度を確保しているわけである。

 

もし妹にオススメしたいコーヒーがあったら、おいしいおいしくない以上に、いい子そうかどうかを見てあげてください。もしあの子のお気に召したようなら、多分ウチも葵もあちこちに電話かけまくって仕入れますので。


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