アホからメロンが届いた。あいつはたまにこういう高価なものを送ってくる。初めのうちは実家からお金を出してもらってるのかと思ってたんやけど、どうもそうではないらしい。パチンコ通いでこっちにもちょいちょい通ってくれてるわけやから、意外と経済的な余裕があるのかと思って、いつかにあいつを訪ねたら、すんごいボロアパートに住んでいた。狭いし食事もひどいもんやったけど、クローゼットの中だけ異様に充実していたのを覚えている。話を聞くと、生活費を削りに削って、残りを趣味やらなんやらに回しているそうだ。まあ、そういうことをしそうな頭のおかしい人間なのは確かである。
しかし、そんな実情を聞いたあとだと、送られてくる高価なものの価値がよりはね上がるというか、いくらアホからの贈り物といえど手がつけにくい。ただ、我が家は父の影響でメロン至上主義だったので、メロンを貰ったら食わねばならぬと思える。そんな理由で、贈ってもらうものは基本メロンでお願いしているというわけだ。
一度「実家に頼んだら、そんくらいのお金は出してくれるんちゃう?」と聞いたら「こういうのは自分でやらなきゃねえ」と、テーブルを拭きながら言っていた。あんなひどい生活するくらいならと思わんでもないけど、そこで変なこだわりを通すのもまあ、あいつらしい。ていうかあいつ、ウチよりエプロン似合ってない?何着ても何やっても様になるやつなんで今更なんやけど、せやからこそ頭にくる。その場で頭をひっぱたいてやると、驚いて不思議そうな顔をしたんで、ウチの溜飲が下がった。と思ったら急にニコニコしだすから、やっぱりようわからんやつである。
そういや、この前入った豆に物騒な名前のやつがありまして。その土地の昔の争いで裏切り者の亡骸を入れた袋と、コーヒーの豆を詰めた袋が似ているというのが名前の由来になっているものである。コーヒーにそんなおっかない歴史を持ってくるなと思わんでもないけど、農園と品種の名前をそのままぽんとつけた名前と違って目を引くものはあるし、実際葵にも好評だった。
その話をウチと葵とアホとでしたあとで、「いつかお前が理由もなしにメロンを送らんくなったり店に来やんくなったりしたら、裏切り者としてボコボコにして、そこの袋に詰めといたるわ」と例の土が入っただけの麻袋を指差した。すると「コーヒー豆に溺れて死ぬっていうのは、ちょっとオシャレかもねえ」などとよくわからない返しをしてくる。聞いてみると、袋の中にマジで豆が入っていると思ってたようである、アホはアホであった。
まあ、もしほんとに勝手にどこかへ行こうもんなら、気絶するまで殴って、麻袋にでも突っ込んでやるつもりだ。他のお店へ鞍替えした、かつての常連さんのように…。冗談ですよ。