コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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不公平だと思う

前に書いた、お高い豆の影に隠れてた葵のいい子が、コトノコーヒーで少しづつ人気を伸ばしている。飲んでいるお客さんの「これ、おいしいねえ」という会話を聞いて葵がにやにやしていた。まだある程度在庫もあるので、なくならないうちにどうぞ。なくなってしまうと、頼んで飲んで、「これはいいコーヒーやなあ」と聞こえるような声で言ってあの子の反応をうかがうようなことは、できなくなっちゃいますからね。今がチャンスですよ。

 

さて、以前書いたと思うけど、常連高校生ちゃんたちがその後輩ちゃんを連れてやってきた。よう食べる子だと聞いたときは、うちに連れて来て大丈夫?となったけど、まあまあ満足してもらえたと思う。そう、前から言ってたようかんが完成したのだ。いやあ、簡単そうやーんと思って手を付けたら、結局今までで一番手間取ってしまった。ウチの中の変なこだわりが邪魔しなけりゃ、まあ及第点かなくらいのものはいくつかあったんやけど、ていうか一回妥協してこれで完成!ってことにしたんやけど、その晩気になって眠れず、布団から出て夜中にキッチンに立つハメになった。あれか、シンプルゆえ難しいというやつだろうか。案外、ようかんは素人が安易に手を出してはいけないものだったのかもしれないと、今更ながらに反省している。

 

しかし、私渾身の作であるようかんはペロリと平らげられ、その後も彼女はお菓子系のメニュー全て(五種類程度やけど)を一通り食べていったのだから驚きである。あんな食べてるのに別に太ってるわけでもなく、聞いてみたら特別運動をしているわけでもないという。割とマジで不安になって寄生虫とかの心配をしたら、もうすでに家族から疑われて検査済みということだった。本当に体質だけであれとはうらやましいような、あそこまでいくと恐ろしいような。しかし体型といえば、この前の休みでゴロゴロしすぎで肉がついてきたのを思い出す。なんとなく誤魔化し続けてきたが、ここにきて現実を直視することとなった。ああ運動せにゃなあと思うと、途端にこの子へのうらやましさが勝ってくる。

 

まあいうて私は仕事中あっちいってこっちいってで動き回ってるけど、心配になるのは葵の方だ。あの子の動きといえば、基本椅子に座ってリストを眺め、注文があると椅子を立ってコーヒーの準備をして、気の合うお客さんがいるとカウンターから身を乗り出すくらいである。しかし後輩ちゃんには劣れど、葵も大概太りにくい体質なんで、その辺の心配は無駄だ。見た目は瓜二つと言っていいほどそっくりなのに、なにゆえ体質はこうも違うのか。

 

後輩ちゃんはまあまあ安めのコーヒーを頼んでいたが、それでもお会計で結構な数字が出ていたんで、高校生の財力で大丈夫なのかな、とか考えてたら先輩二人が横から代金を渡してきた。随分とかわいがられているようである。食べている様子は本当に嬉しそうで、食べさせたくなる気持ちもわかるが、もし自分があれの虜になっていたらと思うとゾッとする。やっぱり、恐ろしい子だ。


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