コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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なかなかいいと思うんやけど

ちょっと前から葵が、焙煎機の調子が悪くて、出来に若干ムラがあると言う。けど、当然ウチが見ても何が悪いんかわからんし、葵の方でこれじゃないかと思うところはあっても、確かめる術もなければ直す手段もない。こういうのは専門の業者さんに頼むと高くなるし、案外素人がちょっと手を加えただけで直るものだったりもする。けど家電と違って、ネットで調べてもコーヒーの焙煎機の修理の仕方なんてろくに出てくるはずもなく。大人しく業者さんに頼もかという話になっていたところに、自分が見てみようかと言う人が現れた。常連一歩手前くらいの頻度で来てくれる、近所の大学生のお兄さんである。そっち方面の技術はあるらしく、家も知ってるレベルの近所なんで変な詐欺でもないやろうし、まあ見てもらうだけ見てもらうことになった。

 

そんで、葵が心当たりのある部分を言ってそれをもとにお兄さんがなんやらいじくってたら、原因を突き止めたらしく、そのまま直してしまったのだ。今日まで問題なく動いてるので、本当に感謝している。「専門じゃない自分にもわかるような簡単なものだった」とは言ってくれたけど、何もナシというのもあれなんでなんかお礼をしようと思ったら、じゃあケーキセットをと頼まれてしまったので、葵がお兄さんの好みに合わせたやつを選んでお出しした。かかったであろう修理代と比べれば、気合入れたケーキセットの値段など安いものである。あんまりよくないことかもしれやんけど、こういう関係の技術やら知識やらをもった知り合いというのは、おるに越したことはないなあと思った。

 

私はいまだに、焙煎機というもののことをよくわかっていない。なんか葵が豆をざーっと入れたら中で豆が跳ね回ってるのが見えるやつ、という認識である。うちのお店に置いてあるやつは結構大きめのものみたいで、頼める業者さんもあんまり多くないとは言っていた。これは葵が結構こだわって選んでいた覚えがあるんで、焙煎っていうのも大切なものなのだろう。いつかに、自宅でフライパンを使って焙煎をする人もいるなんて聞いた日ときにはたまげた。コトノコーヒーでは生豆の販売はしてないからか、お客さんからそういう話はあんまり聞かんけど、フライパンて。まあ、あんまり上手いこといくものでもないらしい。

 

もし本格的に焙煎機がぶっ壊れたりしたら、中華鍋でも使ってやる?と葵に聞いたら、何をバカなことを言いたげな顔をしたあと「そのときは店を閉める」と言った。けっこうナイスアイデアやと思ったんやけどなあ、中華鍋で焙煎。外からも見えるようにしてパフォーマンス的な感じで。断られてはしまったけど、こういうときに先を見て準備をしておくのが姉の務めというものだ。そう思った私は、ひっそりとネットで良さげな中華鍋を探すのであった。

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