コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

4 / 169
小さなお客さん

一応、このブログ上ではお客さんについて詳細なことは書かないことにしている。見てる人が少なくても一応は店の名前を背負ったものやし。でも、今回は本人からも許可をもらったし、いいよね、ということで書く。もしかしたらあの子本人の許可じゃ、訴えられたら負けるのかもしれやんけど。

 

先日、ちいちゃい女の子が一人でご来店になった。ちっちゃいと言っても幼稚園とか小学校入りたてとか、そのレベルのちっちゃさだ。「お母さんかお父さんは?」と聞こうと思って近寄ったら先に「カウンターで」と言われてしまったから困惑である。あんまり堂々と、それも手慣れた風に言われてしまったもんやから「あ、はい、どうぞ」と案内してしまった。それで、そのまま上手いことよじ登ってカウンター席に座るとメニューを読み始めた。状況に頭が追いつかず、何が起きているのかわからなくなる。多分迷子とかじゃなくて、自分の意志でお店に入ってきたみたいやなとは思った、それでも謎は残るけど。喫茶店でコーヒー飲んで大人ぶる背伸びした子かとも思ったけど、幼すぎるわ。せめて小6にはなってくれへんと。

 

その子をじっと見ながら考え事をしてたら「すみません」と呼ばれた。注文が決まったみたい。もうこの時点でこの子がココアとカップケーキを頼むとは思ってない。案の定違うし、どころかウチでも最近名前をおぼえたような品種を注文された、しかもブラックで。初めて入ったお店はとりあえずブレンドコーヒーなうえ、ミルクかフレッシュがないと飲めない私よりよほど大人だ。注文を承り、妹に伝える。返事をした葵が顔を上げて注文主らしき人間を認識し、無言で「あの子なに?」という表情を向けてきた。私も無言で肩を竦めて「しーらね」と返した。

 

「今日はどうされたんですか?」と声をかける。勇気あるなウチ、と書いていて思うけど、あんなん気になってしゃーない。その子は案外すんなり答えてくれた。

 

「近所にできたコーヒー屋さんが評判良いみたいだから、ちょっとね。ここ、豆も買って帰れるんだよね?」

 

もうただの大人やん。頷きながら、この子を理解しようとするのを諦めた。もはやこの子に足りないのは外見の年齢だけ、ならもう普通に接客してしまえ、というわけや。そのままちょっと話をして、料理のアドバイスとかもらって。そのお客さんは運ばれてきたコーヒーを冷めない程度にじっくり味わったあと、飲んでたのと同じ豆を買って(粉じゃなくて豆やで、家にミルまであるんかい)お帰りになった。「ありがとうございました」と言いながら見送るときに、自然と頭が下がった。いや、いっつも下げてるんやけど、なんかいつも以上に下げなあかん気がした。葵と「なんやったんやろなー」ってちょっと話して、また仕事に戻る。狐にでも化かされた気分っていうのはこういうのなんやなあ、とか考えてた。

 

とか書いてたら今日もいらっしゃった、今度はブレンドコーヒーのご注文。不思議な常連さんが増えたかもしれない。喫茶店してると色んな人を見るけど、ほんとに世の中は広いなあ。今後もご本人の許可さえ貰えれば書いていってもいいかもしれへん。

 

それと、この子のアドバイスのおかげでカップケーキが美味しくなりました。自信ありなので、よかったらどうぞ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。