コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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ねこ

この前妹が、自分も少し接客をしてみたいと言い出した。突然だったから理由を聞いてみれば、自分の店なのだから、もっとお客さんの相手もやってみたいと。今でも十分コミュニケーションはとれてるけどなあとは思ったけど、自分からやってみようと思ったのならいいことだと思うし、とりあえず平日夕方手前ぐらいの、お客さんが少ない時間だけ任せることになった。けどその間私にすることはなく、かといって役割交代でコーヒーを担当できるのかといえばそんなわけもない。店の奥に引っ込んでダラダラする気にもなれやんし、葵のことも気になる。しばらく考えて、そういや昼間にやったことないなと思って、店の前の掃除を開始した。

 

んで、地面をこれでもかというぐらい箒で掃きまくったところで、隣のおうちの敷地に、猫が見えた。あの人が猫を飼ってるって話は聞いたことないし首輪もなかったから、たぶん野良猫だと思う。葵は動物全般大好きやけど、ウチはまあ、人並みに好きってぐらいである。地元に野良猫はちょいちょい見たけど、こっちで見たのは初めてだったかもしれない。ちょっとテンション上がって、せっかくなら触れ合ってみようとなった。よくよく考えれば、なに飲食店の店員が野良猫触りにいこうとしとんねんって話なんやけど、まあ、勘弁してください。あとで葵にしこたま怒られたんで、二度としません。

 

それでとりあえず普通に近づいてみると、猫は目を合わせたあと距離をとった。そりゃあそうである。ちっちゃい頃に野良猫を見つけてダッシュで突っ込んで逃げられて、葵にたしなめられたことを思い出した。そういやあんとき葵が何かアドバイスくれたなあと考えて、確か、上から見下さずに目線の高さを合わせるとかだったと思い出す。そうと決まれば作戦実行である。ウチはかがんで体勢を低くし、それでも猫が警戒してる風だったんで今度は手もついて、じりじりと進んでいるところを、ちょうど来てた高校生ちゃん組に目撃されたというわけだ。

 

超恥ずかしかった。それはもう。何か適当な言い訳をしようとしたけど何も思いつかず、口から出た言葉は「いらっしゃい」である。何がいらっしゃいじゃ。よく行く喫茶店に着いてみれば、店の前で四つん這いになってじりじりと進む店員が見えて、しかもそいつの第一声が「いらっしゃいませ」だったのを聞いた彼女たちの心境やいかに。その後ちゃんとわけは話しましたよ?店の中で話したから葵に聞かれて怒られることになっただけで。あとで確認に出てみると、猫はもういなくなっていた。

 

猫カフェとか行ったことないけど、それ用のスペースとか作りたくなってきた。ああいうお店ってコーヒー存在するんか?高校生ちゃんたちに聞いてみたりしてたら、どんどん猫カフェの話で盛り上がっていった。まあ特別猫が大好きって人間もいないんで、かわいいかわいい言い合ってただけなんやけど。話してたらなんか飼いたくなってくるし、今こうやって書いてても飼いたくなってくる。衛生面に完璧に配慮された猫とかおらんやろか。


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