コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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私も慣れないとね

いっつもこの時期に入る有名らしい豆があるんやけど、今年は病気やったか虫やったかで量が少ないらしい。色んな商社さんらが必死にかき集めてるらしくて、確か葵も気に入ってたコーヒーのはずやけど、今年は無理かなあと思ってた。そしたら今日来た商社さんが幾らかその豆を確保してあると知った葵が、それはもう、見たことないぐらいの勢いで食いついたのだ。その商社の人も少しは卸してくれるつもりで話を持ち出したみたいやけど、そんなちょっとじゃ足りないと葵は追加を要求。なかなかうちではみない駆け引きが始まったというわけだ。

 

こういう、「もうちょっと量ありませんか?」みたいな話は無いわけやないんやけど、ここまで激しいやつは初めてである。もちろん、向こう側からも「こんなの買ってくれません?」って話もあるわけで、持ちつ持たれつというか、お互い様な部分ではある。ただ、今回は葵の熱が凄まじい。相手の人もなかなか見やん葵の剣幕に押され気味でだった。ウチも横から見ながらちょっとビビってた。そんなこんなで最終的に、最初に提示された分の1.5倍の量を買うことに成功しました。いやー、すごかった。最初に無理な量吹っかけるとかしてるの初めて見たもん。コーヒーのことになると、内気な葵でもここまでの熱量出せるもんなんやなあ。

 

それでもそんなに多く確保できたわけではないので、人気って話がホントならすぐ無くなると思う。来週ぐらいに入って、その3日後ぐらいに遠くにある別の支部の倉庫から追加分が届くそうです。別の支部やで。すんごい無理をさせてしまった気がするけど「ここにこの話を持ってくるってなった時からこうなるとは思っていました。ここまでとは思ってなかったけど」って言ってたし、葵もご満悦だったので、まあええかということで。

 

さて、こんな葵なんやけど、この前お客さんに「最初の頃は無愛想な店員さんだな、思ってた」と言われて軽くショックを受けていた。お客さんに慣れやん内の葵は、確かにカウンターの奥で淡々とコーヒーを淹れてるだけの、愛想のない店の人と思われても仕方ないだろう。営業スマイルとはいえ、手前で笑顔で接客してるウチがいたらなおさらである。実際のところは、人見知りなウチの方がどうしても一線引いてしまいがちやし、慣れてしまえば葵はグイグイ来る人間なんやから、第一印象というのもアテにならない。

 

葵は根本的には人見知りしないので、最近は他人というものに慣れてきたようで、距離をとって観察する期間みたいなのが短くなってきた気がする。思えば今回の交渉のときの詰め寄り方も、人に慣れてきたのがあるのかもしれやん。確かに成長と言っていいものなんやろうけど、それを実感した最初の出来事があれやと、素直に喜べないというか…。すごい雰囲気やったんですよ、ホンマに。


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