コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

62 / 169
無縁のままでいけないかなあ

ちらっとネットの記事で見ただけなんでどこまで正しい情報なのかわからないけど、喫茶店やら自家焙煎のお店が10年で9割ぐらいなくなってるというのを見た。なかなかにぞっとする話である。経営してる立場でいうのもなんやけど、ウチは喫茶店なんて長続きするものじゃないという認識を拭いきれていないと思う。もし親しい人が喫茶店始めるって言い出したら「大丈夫なん?」と聞いてしまわない自信はない。なんなら葵と一緒にお店やってこうって決めたときも、経営が立ち行かなくなる覚悟はしていたのだ。

 

ありがたいことに、時期によって多少の差はあっても、うちで売り上げが大きく下がったことはない。むしろじわじわと伸びていってるぐらいなんで、とりあえず10年でお店がなくなることはなさそうである。しっかしあんな数字を見てしまうと、こんだけお店が成り立ってるのは葵の感覚なんかはもちろん、常連さんや商社の方やったり、色々運にも恵まれた結果なんやなあと思う。周りに同業者がほとんどいないような場所なんでいまいちピンとこないけど、喫茶店業界っていうのは思っていたより競争社会なのかもしれない。あんなどこもかしこも「おしゃれです」みたいなお店ばっかりやのに、その裏ではおっかない戦いがあったりするのだろうか。まあコトノコーヒーはそんな業界の端っこで、だらだらのんびりやっていければと思います。

 

昨日、葵の友達がまたその友達を連れてお店にやってきた。ウチからすれば妹の友達の友達、ほぼ他人である、いやお客さんなんやけど。そこの三人の話で、好きなアイドルのライブの抽選がどうのこうのって話してるのが聞こえてきた。なんでも当たる確率がめちゃめちゃに低いらしくて、そのほんの少し前に例の記事を見てた私は横でじっと聞いていた。聞くのに集中しすぎて他のお客さんから注文に呼ばれてるのに気づかないぐらいである。接客までできないとなれば、いよいよウチのお店での立場が危ういことになってしまうんで、今度から気をつけます。

 

その葵の友達とちょうど入れ違いぐらいで金髪ちゃんが一人で入ってきた。ちょっと前に二人で来たばっかりやのにまた来るなんて珍しいなーって思ってたら、なんでも相方の方の成績がよろしくなくて今回のテストで何位以内に入らんとまずいからしばらくお店に来れないよ、という話だった。いや、今のんきにホイップ溶かしてる君は大丈夫なん?とは口には出さんだけど。わざわざそれ言いに来たん?と聞いたら首を横に振って「お店に行けないあの子に自慢するため」と言った。なんとも悪い子である。普段は受け取らないレシートも見せつける用に持って帰ってった。

 

コーヒーにアイドルにテストに、あちこち競争だらけである。気張っていくのもしんどいしこのままどうにかならんかなあ。たぶんいつか何かしなきゃならなくなるんやろなあ。何すればれえんやろ、ウチとしては中華鍋焙煎はまだ諦めてないところです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。