コトノコーヒー 姉の呟き   作:みえふぁ

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喫茶店の顔

この前、先生さんの腕時計が人からの貰い物って話はしたと思うんやけど、その送り主がうちがお世話になってる商社さんの人であることが判明しました。二人は学生のころからの友達らしくって、結構びっくりしている。商社さんとの話が終わって、出ていこうとしてるタイミングで先生さんが入ってきてバッタリ、って感じである。商社さんの方も担当があの人に代わったのはだいぶ前だし、たぶん先生さんの顔をウチが覚え始めたのもそのぐらいの時期だ。よくもまあ今までここで顔を合わせやんかったもんやなあ。先生さんは基本休日以外いらっしゃらないし、商社さんも営業時間外か、お店が開いてても人が少ない時間帯を見計らって来てくれるんで、案外鉢合わせないものなのかもしれない。なんにしても衝撃の事実だった。

 

そのまま二人で席に座って喋ってたんやけど、あんな顔した二人は初めて見たけど、考えてみれば当たり前だ。仕事の相手や店の店員への顔と、友人に向ける表情が同じなはずがない。私だってお店にいるときは精一杯笑顔を浮かべてるけど、知った顔が相手ならむしろ笑顔は減っている。これはウチも自覚はなくって、この前葵に言われて初めて気づいたことなんやけどね。そして言葉が汚くなるらしい。そりゃあとてもお客さんには向けられないものである。素をさらけ出すことは、イコール素晴らしいことではないといういい例だ。その点葵は常に素も素やな。初対面の相手には距離をとって様子を見るし、打ち解けていけば葵の方から近寄ってきて、嘘偽りのない満面の笑みを浮かべてくる。あれぐらい根っこから純粋できれいで優しいなら素を出した方がいいのだろう。ウチみたいなお客さん相手には見せられないようなもんを抱えている人間は、それを隠してかなきゃならないのだ。めんどうな話である。そうそう、普段はブログに書かれるのを嫌がってた商社さんの人が友人と話して気分良くなったのか、今回は快く許可をくれた。先生さんにはお礼にケーキを気持ち大きめに切って出しました。

 

顔うんぬんで言えば、喫茶店でしか出さない表情みたいなものもあるんじゃなかろうか。コトノコーヒーは基本、葵の考えに従って「コーヒーを飲めー!」って雰囲気を作ってるつもりやけど、多少なりとは「プライベートな空間」みたいなものも演出しているわけでして。昔は喫茶店のコーヒーが四、五百円してるのを見て高っ!って思ったけど、ゆっくりできる時間と居場所代としては悪くない。ゆっくりコーヒー飲んで、リラックスしてるときの顔ってものがあるのかもしれやんなあ。今度からお客さんの顔を観察してみようかな。


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