アホの妹ちゃんが様子を見にやって来た。そりゃあんな身内が人様の家に住んでるなんて状況じゃ色々不安にもなるだろう。ウチがあの子の立場なら同じことしてたと思う。いや、人様に迷惑かけるのはいつものことやし、別に大事件起こすわけでもないんやから考えてもしゃーないかって放置するかな。実際あいつもちょくちょく注意されるぐらいで、とんでもないことはしでかしていない。最近あいつに対する葵の接し方は遠慮なくなってきたなあとは思うけど。
でまあ一応コーヒーの方も注文してくれたんやけど、どうもモカが好きなようで、何かオススメのモカはありますか、と聞かれた。喫茶店、それも自家焙煎してる店の店員としちゃあここでバシッと答えをお出しできればいいんですけど、これがそうもいかないのである。モカっていう名前は決められた地域で育てられたら名乗れるようなもので、つまりわりと味にばらつきがあるのだ。モカ以外にも似たような形式の名前したコーヒーはあって、なんとも素人に優しくないシステムだ。それでも「私はモカが好き」って思える程度には、似通った味してるものが多かったりする。もしくは日本で大きく出回ってる種類が限られてるかって感じだ。当然こんな事情は全部葵から聞いたことなんやけど、それでも知ったような顔でこういう話できるようになったのは、いいことなんじゃなかろうか。
そしてこんだけ書いといてあれやけど、私も「モカが好き」と思っている人種である。要するに、知識として知っていても舌の方ではろくに理解できていない。まあ妹ちゃんが今まで飲んできたモカが特殊なものばっかだったりしなけりゃ大丈夫だと思ったんで、最近飲んでいい感じやなって印象に残ってたものをお出しした。たぶん喜んでもらえたんじゃなかろうか。この調子で喫茶店店員として成長していきたいものである。
同じ場所で育ってもまるで違うって意味では、ウチと葵も似たようなものだ。本当に同じ場所で生まれ育ったんかってぐらい違う。そう思ってたんやけど、居候が一人増えて、今まで見えてなかったものが見えてきた。暗黙の了解じゃないけど、無意識にウチと葵で共有してる感覚が結構あったのだ。生活してると微妙にあいつとかみ合わない部分が出てくる。結婚するというのは他人と暮らすこと、みたいな話は聞いたことあるけど、なるほどこういうことかと思った。なんやかんや琴葉姉妹で両方持ってる感覚は存在していたのだ。もしかしたら、お客さんの中にはウチらの共通点とか(顔以外でね)気づいてる人はいるのかもしれない。
モカマタリだろうがイルガチェフェだろうがどっちもモカなのだ。茜でも葵でも、結局琴葉であることには違いないらしい。わかってみると結構嬉しいものである。ところでイルガチェフェって言いにくくない?