ふりむいてくれアムロ 作:初心者にはマシンガンがおすすめだよ!
EDF第228駐屯基地。
今日のメインイベントは、ウイングダイバーの飛行ショーと、モビルスーツの稼働実験だ。
元々は前々から、ウイングダイバーの飛行ショーを含む、基地見学ツアーが予定されていたが、人員や設備の都合が良く、割り込む形で入れさせてもらったらしい。
ツアーの参加者も、モビルスーツの話が出てからうなぎのぼりらしく、チケットが高騰しているなんて噂もある。
ちなみにウイングダイバーとは、EDFの降下翼兵のことで、ガンダムのビームライフルなどにも使われている、プラズマコアを使った飛行ユニットで空を飛ぶ兵士だ。
重量の問題で、その内のほとんどがスレンダーな女性であることもあり、EDFの部隊でも人気が高い。
一般で許可を得て、今日のような飛行ショーを行う者も居るらしいが、今日はEDF基地なので、EDF隊員がメインでショーを行うらしい。
「昨日の間に、ザクとガンダムは運び込んであるんですよね?」
「大型トラックに乗せたまま、外に布を被せてありますよ。後で、起動テストだけしておいてください。」
先に現地入りしていた、ジオニックの社員と会話をしながら歩く。
基地の大半の施設は地下にあり、地上にはコンバットフレームや、戦車が並んでいて、気付かなかったが、確かに布がかけられたものがあった気がする。
シミュレーターの性能が良く、今でも本物さながらの雰囲気で操縦していたが、本物はやはり違うのだろうか。
前にランバ・ラルが言っていたような、転倒時などの激しい衝撃は、設計の見直しもあって、シミュレーターでも実機でもかなり軽減されたらしく、シミュレーターではあまり実感はしていなかったが、実際にどうなるかは分からない。
基地内で、受付を済ませてから移動する。
ツアーに向けてか、基地の中も人や兵器が行き交っており、ネットの動画や、資料でしか見る事のない、重装備の兵士や、ウイングダイバーのユニットなどを生で見れて、心が躍るというものだ。
コンバットフレームの実物も、すれ違い様にちらっと見ることが出来た。
私はこれから、これよりもっと大きな物を操るとはいえ、コンバットフレームは勿論のこと、強化外骨格などで人間サイズのロボットみたいになっているフェンサーなどは、その重厚感に格好良さを感じる。
だが、フェンサーはよくよく見ると、この体型が某森のくまさんを思い出させるな……。
「そういえば、ギガンティックアンローダーバルガの閲覧許可も出てますけど、見に行きますか?」
「いえ、後でいくらでも見る時間はあるでしょうし、先に調整を済ませておいた方が良いのでは。」
「ほとんどシミュレーターと同じように動くようには調整してありますけど……まぁ、実際に触ってみないと分からないかもしれませんからね、地上に出ましょうか。」
何故か、この基地についてから、脳をかき乱すような嫌な感覚がする。
健康については今朝もチェックして出て来たから、緊張のせいだと思うので、モビルスーツに触れて慣らしておきたいという算段もあった。
そう話して歩き始め、モビルスーツ関係者用に用意された、モビルスーツの近くに繋がる出入口が設けられた部屋が見えて来た、というところで、バツン、と基地の全ての明かりが消える。
「何!?」
「うわ!停電か!?」
運悪く明かりなどを持っていなかったが、ジオニック社員が携帯端末のフラッシュ機能で明かりをつける。
その当たり前の行動が思い浮かばなかったことに、自分が少し動転していることを自覚した。
気分の悪さは、停電の暗闇もあって、思った以上に自分の精神を削っているのだと感じる。
このままでは後に差し支えると気合を入れなおすと、少しだけ気持ち悪さが晴れていく。
その後、私もフラッシュ機能で明かりを灯す。
「ふぅ、とりあえず、部屋は目の前ですし、入ってしまいましょう。」
「……あぁ、行きましょう。」
そう思って、コンバットフレームも搬入できる大きなハッチの前に立ったが、停電で開かないのではないかと気づく。
「どうしますか?」
「たぶん、そろそろ非常電源に切り替わりますよ。他の基地はそうだったので、ここも同じだと思います。」
「なるほど。」
話した瞬間に、基地の明かりが戻る────が、様子がおかしかった。
「警告灯が!?」
「サイレンもだ!やはり何かがおかしい!」
戻った明かりと共に基地に鳴り響くサイレン。
基地の通路、奥の方から、人が騒ぐ声が聴こえる。
「ともかく電力が通ってる今の内に入りましょう!また停電になったら閉じ込められます!」
「そ、そうですね、スケジュール通りなら、今は他の社員たちは外でモビルスーツの調整をしている時間なので、合流しましょう。」
問題なく開いたハッチを通り、いくつかの計測用機械や、個人の荷物が置かれている部屋に入るが、上に持ち出しているのか、人も居ないこの部屋は閑散としていた。
「搬入用エレベーターは……上がっちゃってますね。上で作業してるのかな、停止がかかってます。」
「これの壁のスイッチ、非常用出口では?」
「あっ、ホントですね、ケース上げて押せばそこの壁がズレてはしごが出てくるはずです。」
プラスチックのカバーを外して、赤いボタンを押すと、壁が床から天井まで、一部が横にずれて、金属のはしごが出て来た。
同時に、頭上に丸い穴が開いて、空が見えるが、この部屋の天井から地上までは、それなりの距離がありそうだ。
「じゃあ、こっちから出ま───『非常事態発生!!非常事態発生!!これは訓練ではない!繰り返す、これは訓練ではない!!』──いっ!?」
「非常事態……?」
切羽詰まったような放送が入るが、その後に非常事態の内容の放送が入って来ない。
全世界が協力して作り上げた、紛争鎮圧や環境維持のための軍隊、EDFが非常事態などというほどのことがあるのだろうか。
ちょっと変な点はあってもここまで平和だった世界で起こった、転生したことを除けば過去最高に異常な出来事に、少しだけ冷静さを欠いてしまいそうになるが、隣の社員の慌てようのおかげで、取り戻した。
まさか本当にガンダムよろしく、スペースノイドでも攻めて来たのではないだろうな。
コロニーなんて落ちたら冗談ではないぞ。
「あっ、そういえば、この部屋に観察用のモニターが……!」
そう言いながら社員が部屋に置かれていたモニターを起動すると、外の景色が映る。
土色の布が被せられた大きな物体の奥には山が見えるが、それ以外は異常が無いように見える。
そしてこの布の中身が、モビルスーツなのだろう。
このモニターは、モビルスーツが映るように少し遠めに置かれたカメラから映しているようだった。
しかし、異常が無さ過ぎる。
本来そこに映っているべき、ジオニックやアナハイム、他にもツィマッドなどといったモビルスーツ関連社員の姿が見当たらない。
「カメラの向きは操作出来ないんですか?」
「あっ、旋回させてみます。」
徐々に角度を変えていくカメラが、映す景色も変えていく。
まず映ったのは、離れた場所で慌てた様子で車に機材を積み込んでいる人々。
そして更に、228基地の歩行用出入口が見えてくると、地上に飛び出た出入り口の壁で見えにくかったが、人間が身体をくの字にして、壁の向こうへ引っ込んでいくのが見えた。
その際に、大きな爪のようなものに掴まれたように見えたが、あれは一体……。
「今のは……?」
「え?何かありましたか?」
「人影が…………────っ!?」
間違いない、はっきり見えた…………あれは爪などではなかった。
振り回されるEDF隊員と、それを捕らえる強大な顎。
それを成しているのは、人間の数倍の大きさの『蟻』だった。
巨大蟻は、捕まえたEDF隊員を振り回して、時折地面に叩きつけている。
アーマースーツの頑丈さや、日頃の訓練のおかげかまだ意識はあるようだが、意識どころか命さえ、時間の問題だろう。
「なんだあのデカい蟻は……!?」
「アリ?あれが何か知っているんですか!?」
同じくあれが見えたのであろう社員が、怯えた様子で聞いてくる。
蟻は蟻でも、あんな馬鹿げたサイズの蟻には、前世も今も見覚えはない。
象や鯨など、大きい生物は有名なものだ。
あんなものが居るなら、誰もが知っていて当然……正しくこれは非常事態だろう。
「あんな巨大なものは知りませんよ!それよりアムロはまだ着いてないんですか!?」
「……っ!何度も電話をかけてはいるんですが、こうなる前に遅刻の連絡が入った以降は…………!?」
外にいる大人たちは、車で脱出でもするのだろうが、アムロはまだ来ていないのなら、いっそ来ないように連絡するべきかもしれない。
「あれ!?」
モニターから視線を外して、パソコンを覗き込んでいた社員が、声を上げる。
「どうしたんですか?」
「誰だ勝手にガンダムを動かしているのは!?」
その声を聞いて、反射的にカメラを操作して、モビルスーツを映す。
布のかかったモビルスーツの片方の布の一部が膨らんでいる。
あの位置、恐らく起動時の排気で膨らんでいる。
「何!?もしや、アムロ……?」
緊急事態なのだから、誰が動かしていてもおかしくは無いと思うが、私はほぼ確信していた。
あれをこの状況で動かすなら、アムロしかいないと。
横たわっていたモビルスーツ、ガンダムが、片膝を立てて、手をついてゆっくり起き上がる。
この部屋の位置は、ガンダムのほぼ真下なので、その度に振動を感じる。
完全に立ち上がると同時に、被っていた布が、風と共に外れる。
1号機のために見た目が少し異なるが、色合いは白、赤、青、黄で塗られたそれ。
ガンダムが、大地に立った。
「計測機材なのでこちらからの声は届きませんが、コクピットのカメラに繋ぎます!」
社員の声と共に、モニターの映像が切り替わる。
操縦席のシートから見て、右斜め前の上方についたカメラから映す映像は、見慣れた茶髪の天然パーマの少年が映った。
青い顔で操縦桿を握るアムロには、見るからに余裕はない。
『…………が……なきゃ……。僕がやらなきゃ、みんなが死ぬ!』
「アムロォ!」
届かないと聞いていた上で尚、声が出てしまう。
揺れるカメラと、こもったようなバルカンの音、そしてアムロの叫び。
先程のEDF隊員は、蟻に捕まっていた。
焦ったアムロが、隊員に誤射しない保証は無い。
「私もザクに乗ってアムロを援護します!」
「あっ!?キャスバルさん!待ってください!」
社員の制止の声を無視して、ハシゴを駆け上がるように登る。
10m以上にも見える高さのハシゴは、瞬く間に終点まで辿り着き、地上の明るさが視界に入った。
───その刹那、足元から聴こえた悲鳴に、反射的に穴から飛び出て距離を離す。
私が上がってきた穴からその瞬間に出てきたのは、茶色く濁った謎の液体。
その液体は、いくつかの塊になって更に飛び出して、穴の辺りに降りかかり、周囲の物体──開いた扉などが、煙を上げて溶けだした。
「酸か!?」
強い刺激臭と共に撒き散らされるそれと、聴こえてきた聴きなれた声の悲鳴を思い出し、吐きそうなくらいの恐怖を感じる。
私は、震える身体に、自分の身の安全だけしか考えられなくなり、ザクに向かって一目散に駆けた。