ふりむいてくれアムロ 作:初心者にはマシンガンがおすすめだよ!
6まだかしらね……楽しみ……
私は、命を失うことなく、目的の場所へと辿り着いた。
初めて乗ったザクのコクピットは、今の状況も合わさってか、強い冷たさを肌を通して伝えてくる。
シミュレーターでは無かった感覚だ。本物は違うものだと、片隅に残った冷静さが考える。
急いで走ったせいで食道にこみ上げた焼ける熱さが、見知った顔を消し去ったであろうものを彷彿とさせて、より一層気分を悪くさせていたが、シートに包まれれば、使い慣れた形状に、普段の感覚が帰ってくる。
…………。
もし最期を直接見ていれば、そしてこのコクピットが慣れた感覚を伝えてくれていなければ、私はこのコクピット内に、異臭を漂わせながら戦わなければならなかったであろうことは間違いなかった。
そうだ、こんなことをしている場合ではない。
眠たい目を覚ますかように、気合を入れると、あれこれ考える前に身体が、各電源を入れて、機体を起動させる。
特定のプロセスを踏まなければ起動しないようになっているモビルスーツは、シミュレーターと同じように、何の障害もなく状態を示す明かりをコクピットでつけていく。
グポォン、と表現される独特のメインカメラ起動音が響き渡り、握りしめた操縦桿から、熱を感じるような気がしてきた。
「…………シャア・アズナブル、ザク、出るぞ!」
恐怖心から出て来た、私であって私ではない、しかし私であるあのエースの名前は、口にした途端、私の中に火を灯した。
行き渡る高揚感、よりリアルな振動が、私の心を満たしていく。
しかし、それとは反対に、頭は冷静さを取り戻す。
飛び出した瞬間は、その現実味の無さから、アムロの援護しか考えていなかった。
だが、モビルスーツの性能を思えば、アムロの援護以上のことを、ザクでも十分行えるのは間違いない。
私、シャア・アズナブルが粛清しようというのだ。
あの忌々しい蟻どもを。
私は、意志を新たに、ペダルを踏みこんだ。
……足の震えはまだ止まっていないのではあるが。
これではアムロに先を越されたのも当然というものだな。
まずは、ザクを立ち上がらせる。
倒れている状態から、ボタンを組み合わせてペダルを踏みこんだ事で、ザクが立ち上がろうと動き出す。
緊急事態で焦りがあるにも関わらず、操作が難しいマニュアル操作モードにほぼ近い状態で起動してしまったが、シミュレーションと全く同じように動いてくれた。
おかげでセミオート操作よりも速くザクを立ち上がらせることが出来た。
機体に覆い被さったままの布を掴んではぎとると、モニターに布で隠れていた景色が映し出される。
同時に、腰のヒートホークに手を伸ばして握り、刃を熱すると、センサーが温度の正常値を伝える。
今回使える武器はこの斧、たったこれだけだ。
今日は発熱させないまま使う予定だったのだが、セーフティなどはかかっていなかった。
遠隔制御する予定だったのだろう。
今日が初本番なのだから当然と言えば当然だが、ちゃんと動いてくれることに安心感を覚えた。
本番は本番でも、本当の戦いの実践なのだ。しかも敵は得体のしれない化け物で、事前の練習などはない。
開けた視界、そこには、いくつかのひしゃげて破壊された戦車と、散らばった人間らしきもの、そしてそれを成した怪物と、その怪物をビームサーベルで切りつけるガンダムの姿だった。
無事な戦車がある事や、コンバットフレームはあまり被害が出ていないところを見ると、人間の他には、動いてるものを奴らは攻撃しているらしい。
見るも凄惨な人間の死体に目を背けたい気分はあったが、そうも言っていられない。
私がモニター越しに見た時には、生き残っている蟻の怪物は、10体程度居て、その大きさ全長はコンバットフレームにも匹敵するほどだった。
流石にモビルスーツからすれば小さいと言えるが、それでも人と蟻の縮尺ではない。
同時に2、3匹に体当たりでも喰らえば、モビルスーツとて倒れる事を余儀なくされる可能性は高い。
あの機敏な動きを見ると、重さはそう重い訳でもないのかもしれないから、簡単には倒れない可能性も勿論あるが。
その巨体からは想像もつかない、コンバットフレームの旋回速度では追いつけないような機敏さで動き回る蟻。
戦車を破壊し、人を引き裂いたであろう顎で、ガンダムの脚へと噛みつく個体もいるが、傷はついても、ガンダムの動きは鈍らなかった。
素早く動く蟻を捉えて斬りつけ、10体の内、既に4体の蟻を倒したアムロだったが、ビームサーベルの刀身出力の節約にまで意識がいっていないのか、噛みついていた一匹を斬り飛ばした直後にビームの刀身が消え、柄についたチャージランプが点滅する。
節約出来ていた時の感覚のまま、そのまま近寄ってくる蟻を迎撃する予定だったのだろうアムロは、刀身の無いビームサーベルを振り上げた姿勢のまま、チャージに気がついたのか、動きが止まる。
その隙に、ガンダムの後ろへ回った蟻が立ち止まったのを見て、悪寒が走った私は、咄嗟に手に持ったヒートホークを蟻に向かって投げつけた。
「ちぃっ!!」
「ギィィィ!!!?」
投げつけたヒートホークは、僅かに軌道を外れて、蟻の脚を切り離すだけにとどまったが、そのおかげか体勢を崩した蟻は、尻から酸をふきだしながらその場に転がる。
それに数瞬遅れて、振り向いたガンダムのバルカンが突き刺さり、蟻が衝撃で身体を跳ねさせながら吹き飛ぶのを見ながら、投げたヒートホークを回収しに走る。
………何故ガンダムのバルカンの弾が装填されているのだろうか。
間違いなく実弾、装甲が薄めの軽装コンバットフレームくらいは平気で撃ち抜けるだけのスペックがあるものだろう。
今日は格闘武器のみを制限モードで使う予定で、遠距離武器はそもそも用意されていないはずだ。
ザクのマシンガンや、ビームライフルは見える範囲にはない。
もしかしたら、基地内でテストを行うつもりだったのかもしれない。
コンバットフレームの訓練場でも借りて後から行う予定だったのだと言われれば、納得出来なくもない。
戦いが続くようであれば、探す必要があるだろう。
コンクリートに刺さったヒートホークを拾い上げると、そのまま走り、ガンダムを越えて、近づいてきていた蟻の頭を叩き斬る。
硬い!
体重そのものは見た目より軽いようだったが、軽さの割に硬い。
銃器でなければ攻撃は通らないことは間違いなく、これがもし市街地にでも出たら、間違いなく大混乱では済まない。
巨大で、素早く、硬く、顎も強い。
どう考えても地球上でこのような生物が見つからない筈はない。
転生者だからこそ分かることもある、これは、異界から来たか、宇宙から来たのは間違いないだろう。
先手を打ったのが幸いしたのか、こいつは酸を撃ち出す事は無かったが、酸による被害もあるのは間違いないし、こいつらは蟻。
これが地球の生物なら大した数は居ないだろうとは思うが、異界や別の惑星の生物が皆これ基準の大きさだと仮定すれば、蟻であるこいつらは、この巨体でありながら大量に居てもおかしくはない。
すぐに体勢を整え直し、少し離れた場所で戦っているEDF隊員に襲い掛かっている蟻にメインカメラを向けると、アムロからの通信が入る。
『キャスバル!?』
「下がれアムロ!ビームサーベルのチャージが終わるまではザクが前に出る!」
『まだバルカンが……弾切れ!?』
5発ほどだけ出て打ち止めになったバルカンは、隊員に噛み付いていた蟻を怯ませることに成功して、隊員が自由になったが、蟻を倒すほどではなかった。
初めから期待せずに動いていた私は、そのまま蟻にヒートホークを振り下ろす。
体勢を崩していた蟻は、溶断されて体液を僅かに漏らしながら死んだ。
蟻がデカいとは言え、腰より低い位置にいる蟻を相手にするにはやや厳しい。
モビルスーツの格闘兵装は、作業用、もしくは対コンバットフレームがメインであり、戦車の速度ならまだしも、この巨大蟻を叩き斬るために存在している訳では無い。
ましてやビームサーベルより短いヒートホークでは、燃費は良くても、メインで使うには機体負荷が大きくなりすぎるだろう。
高さを考慮するなら、コンバットフレームの方が戦い易いはずだ。
しかし、今、私たちが作った隙を狙ってコンバットフレームに乗り込む隊員を見ると、コンバットフレームの起動シークエンスは始まってもいない、そんな状況だった。
アムロが、大破した戦車の砲塔とシールドで蟻を撲殺しているのを後目に、蟻の死骸を蹴飛ばして、どかしながら、怪我をしているEDF隊員を安全な方向へ移動させるのを補助する。
『これでっ!』
砲塔を突き刺して、蟻の動きを止めたアムロが、チャージが終わったビームサーベルで蟻の頭を斬り飛ばす。
見えている分の蟻の化け物は全て倒して、辺りは人と蟻と戦車の残骸と、蟻から出た夥しい量の体液が散らばるのみになった。
残骸から見るに、合計30体ほどは居たのだろう、壊れた戦車や、激しく損傷したコンバットフレームがあることからも、奮戦の様子がうかがえた。
だが、身体のざわつきが収まらない。
こうまでなって、まだ終わらんとでもいうのか。
「アムロ、」
『キャスバル……まだ、まだ来る……!』
「分かっている。アムロ、バルカン以外の装備は無いのか?」
『え?……あ、そうか!レーダーに反応がある!』
ハイエンドのモビルスーツであるガンダムには、100m付近の兵装の位置情報を取得する機能がつけられていた。
単純な武器構造のザクとは違って、高度な最新技術がつまったガンダムの武器が、テロリストたちなどに奪われるのは不味いため、そういった機能があることを、私は知っていた。
実際には、アムロにそれを利用した戦い方をされたから覚えているだけなのかもしれないが。
『トラック!モビルスーツが乗っていたトラックだ!』
「ザクが乗っていた方にも武器があるかもしれんな、すぐに回収を────ちぃっ、来たか!アムロ!…………アムロ!?」
マイクが伝えて来た地鳴りのような音と、サブカメラに映った、舞い上がる土煙の光景から、蟻の増援が来たことを確信し、同時にアムロによって行われた奇行に声が出る。
レーダーで武器の場所が正確に分かってるからって、トラックをサーベルで叩き斬って開けるのはやめろアムロ!!
『あった!これで────うわぁ!?』
ビキュゥン!、という音を立てて、慌ててアムロがビームライフルを発射したのを見て、私も振り向いてその先をメインカメラで映す。
映してしまった。
蟻、蟻、蟻。
10体や30体どころではない。
ぎちぎちと顎を鳴らす音が聴こえてくるような大群。
もう一度30体来ただけでも厳しい戦いであるのは間違いないのに、ここから見える数は、その3倍、4倍はある。
まだ2、300mほど距離が開いているが、そんな距離はすぐ詰められてしまう。
悪い予想は当たってしまうものだ。
二手三手先など読んでる暇は無かった。
『うわぁぁ!!!』
「アムロォ!!」
錯乱しながらビームライフルを撃つアムロをなだめながら、私はザクが乗っていたトラックを、アムロが斬った位置と同じようにヒートホークで叩き斬った。
入っていたのはザクマシンガンと
うっかりクラッカーを斬っていたらとんでもない事になっていたかもしれない、運が良かったようだな……。
強いて言えばバズーカが欲しかったところだが、クラッカーがあるだけマシだろう。
私は、大群が近づく前に、ど真ん中へ向けて、ある分だけのクラッカー、合計10個を投げた。
誤字脱字あったら申し訳ない。
追記:シミュレートではなくシュミレートと書いてしまう俗物な癖があります。見かけたら修正パンチしてください。ゆっくり後ろに吹き飛びます。
再追記:ありがとうございます。これが若さか……
再再追記:EDF6が出ましたが、予想だにしない展開で先を書くビジョンを失いました。勝手に飛び出してマザーシップをラストシューティングしながら落とすアムロと、遅れて新機体で出て行ってアムロをカバーしながらかの者とバトるシャア、最後はνの連続パンチ、サザビーのだだっこ斬りを交えながらかの者を倒したかもしれませんが、その歴史は消えました。
きっと新しい未来ではファンネルミサイルとバズーカ2丁で暴れ狂うアムロが居る筈です。お元気で。