本日、ぼうけんびより!   作:ゼルダ・エルリッチ

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1 再会とさいころ

 

「んー、イラスト部、無いなー」

 

 私は陽奈川 日和―― 

 

 15才。

 

 ずっと横浜市に住んでいたけど、この春、お父さんの仕事の都合で、群馬県大間々町に引っ越してきました。

 

 引っ越しの片付けも一段落ついたし、今はベッドの上でくつろぎながら、この春入学する高校の部活動案内のプリントを眺めていたところ。

 

 中学の時はイラスト部に入ってたから、できれば高校でも続けたいと思ってたんだけど……。

 

 イラスト部、っていうのはちょっと局地的だったみたい。まあ、ほとんど二次元のお絵かきクラブみたいな感じだったし、特に大会だとか、他校と交流だとか、そんなものも無かったからなー。

 

「美術部かー」

 

 文化部一覧の中に、似通った部活名を見つける。まあ、絵を描くという所は同じだろうし、となるとやっぱり美術部しかないのかも。

 

 でも、美術って言うと、油絵とか、水彩画とか、そういうものになっちゃうよな。私は、そこまで大袈裟な活動がしたいわけでもないんだけど……。

 

 やっぱり、部活でイラストは難しいか。個人的趣味でやるしかないかも。

 

 ハァ。

 

 あきらめてプリントを畳もうとした、そのとき、

 

「……室内、冒険部?」

 

 一つの名前に目が止まる。

 

 文化部一覧の一番下に見つけた、その名前。

 

 何だか凄く違和感を覚える。普通、冒険っていったら屋外だと思うんだけど、室内ってどういうこと? それに、冒険なのに文化部っていうのも、すごく変。

 

「んー、まあいっか」

 

 活動内容の説明とかも、いっさい書いてない。結局、大して気にも留めずに、プリントを脇に放り出した。

 

 

 

 

「ちょっと出かけてくるねー」

 

 春の陽気に誘われて、ちょっと外に出てみたい気分になる。辺りの様子も見てみたいし。そのままついでに、コンビニにでも寄ってこようかな。

 

「ひよりー、部屋の片付け、ちゃんと終わったの?」

 

 お母さんが出てきて口を尖らせる。頭に三角巾巻いて、エプロンして、片付けの真っ最中だったみたい。

 

「大体終わったよ。今は、ちょっと休憩」

 

「あんた、そんなこと言って、いっつもそのままなんだから。もう高校生なんだから、自分のことくらい自分でちゃんとやんなさいよ」 

 

「平気だってば、ちゃんとやるよー」

 

 もうー、口うるさいなー。

 

「行ってきまーす」

 

 そのまま、母から逃げ出すような感じで外に飛び出した。

 

 

 

 空は快晴。ポカポカといいお天気。山道だから、空気まで美味しく感じる。

 

「んー、気持ちいいー」

 

 私の家は町から少し離れた、山道の途中の一軒屋。辺りはホント、山ばっかり。それと、畑。

 

 以前はビルばっかりの所に住んでたから、余計に田舎な感じがする。最初は不安だったけど、自然は結構好きだし……、すぐに慣れるかな?

 

「おー、川だー」

 

 道の脇が斜面になっていて、木々の隙間に小川が流れているのが見えた。テレビなんかで紹介されてるような、いかにも山の中の清流といった感じ。

 

 ちょっと降りてみようかな……。そう思ったけど、結構下の方だったし、降りていく道は土だらけだったし、何となく躊躇してしまう。せめて長靴でも履いていればよかったけど、この靴じゃ、ちょっと……。汚れるのも嫌だし。

 

「ん?」

 

 そう思ってたら、川に誰かがいるのが見えた。手に網を持って、水の中をすくってるみたい。魚捕りでもしてるのかな?

 

 よく見たら、私と同い年くらいの女の子。Tシャツに、ショートパンツ。いかにも健康優良児的な、元気な感じの子だった。

 

 ……近所の子かな?

 

 でも、声をかけるのも、なんだし。まあいいか。 

 

 そう思って通り過ぎようとしたら……、

 

「おーい!」

 

 私の方が、その子に呼び止められた。え? な、なに?

 

 どうしようかと戸惑っていたら、その子が凄い勢いで走ってくる。そのまま、土の道を駆け上ってきて、私の方へ一直線に、

 

「ひよりー!! 久しぶりー!!」

 

「え? え?」

 

 誰?

 

「こっち帰ってきたんだな! 元気だったー!?」

 

 そのまま、ガバッと抱きついてくる。「ぐえ!」ちょ、ちょっと!

 

「あ、あの、えと……」

 

 困惑していたら、

 

「あっれー? あたしのこと覚えてない? ほらほら、小学生の時、よく一緒に遊んだじゃん」

 

 小学生の頃……、ひょっとして……。

 

「……あきら、ちゃん?」

 

「ピンポ~ン! 大当たり~! 二鳥 明良!」 

 

 そのままピースサインを出してくる。あきらちゃんかー! すっかり変わっちゃって全然分からなかった。

 

 私は小学校低学年くらいの頃、夏休みとかにこっちに良く遊びに来ていて、家も近かったし、あきらちゃんとは良く遊んでいた。

 

 といっても、私は基本、インドア派だったし、誘われて連れ出されることが多かったんだけど……。虫取りとか、魚捕りとか。

 

 私は生き物無理だし……、結構つらかった記憶も……。

 

「覚えててくれて嬉しいよ! でもまあ、あたしもひよりが帰ってくるって親に聞いて、それで思い出したんだけどね。にゃははは」

 

 そっちも忘れてたんかいっ! とは思ったけど、言わないでおく……。それにしても、あきらちゃん、相変わらずだなあ。見た目はすっかり女の子っぽくなったけど、中身は変わってないみたい。

 

「で、ひよりは何してんの? 散歩?」

 

「あ……、うん。ちょっと近所を見て回ってみようと思って」

 

「相変わらず、すっげえ田舎だろ? この川とかも、何も変わってねえよ」

 

 そう言って、道の下の川を指し示す。確かに、今のご時世じゃ、家のすぐそばにこんな自然のままの小川があるなんて珍しいことなんだろう。

 

 ………… 

 

 なんか、こういうの、いいかも。

 

 そう考えたら、ちょっと気持ちがほっこりしてきた。

 

 

 

 

 折角なので、そのまま、あきらちゃんと一緒に辺りを歩くことにする。話題はやっぱり、今度入学する高校の話。ちなみに、あきらちゃんは、乗ってきた折り畳み自転車を押して歩いていた。この自転車も、活発なあきらちゃんらしい。

 

「そんで、ひよりは高校どこ行くの?」

 

「うん、大間々 西高だよ」

 

「うそ!? 一緒じゃん!」

 

「えっ! あきらちゃんも西高!?」

 

「同じだな! にゃははは!」

 

 う~ん、幼馴染と一緒なのは嬉しいけど、あきらちゃんの場合、何だか騒がしいことにならないだろうか……? ちょっと心配……。

 

「そうだ、ひよりは部活決めた?」

 

 話題はそのまま、部活動の話へ。やっぱり高校といったら、部活動は重要案件だし。

 

「ううん、まだ。私、中学の時はイラスト部に入ってたから、高校でも続けたかったんだけど……、イラスト部って無いみたい」

 

「そっかー、残念だな。ってか、ひよりって、イラスト描くんだ。凄いじゃん」

 

 ……褒められた。ちょっと嬉しい。

 

「ま、まあ、素人レベルなんだけど……、でも、楽しいよ、絵描くの」

 

「へえー、ホント好きなんだな。いいなあそういうの」

 

 あきらちゃんが、にっこり笑う。こういう所も変わってない。楽しいことが好きで、誰かが好きなものは、心から認めてくれて。

 

「あきらちゃんは、なに部入るか決めてるの?」

 

 私の方から尋ねると、あきらちゃんが「へっへっへー」と笑う。

 

 それから、ショートパンツのポケットから、何かを取り出した。

 

「これ!」

 

「え?」

 

 あきらちゃんの手の平に、何か小さな青い物が乗っている。よく見たら、その表面に小さな数字がいっぱい刻まれていた。

 

「さい、ころ?」

 

「そう、20面ダイス」

 

 20面ダイス? ダイスって、さいころのことだよね。それにしても、普通のさいころなら知ってるけど、20面なんてさいころがあるなんて知らなかった。ってか、なんでこんなの持ち歩いてるの……?

 

「ほれ、持ってみ」

 

「う、うん」 

 

 私の手に渡してくる。青いマーブル模様の、丸いさいころ。

 

 何だか、綺麗……。それと、ちょっとかわいい。

 

「それ、ゲームで使うさいころな。具体的に言うと、D&D」

 

「D&D? なにそれ?」

 

 尋ねたら、あきらちゃんは、ちょっとガックリきたみたいだった。

 

「やっぱ知らないかー。だよなー、ひよりくらいの女子じゃなー」

 

 ちょっとムッとする。あきらちゃんだって同じくらいの女子じゃん。

 

「D&Dは凄いんだぞ。なんと、世界初のRPGなんだよ」

 

 RPG……って、ロールプレイングゲームのことだよね? それなら知ってるけど。

 

 それの、一番最初ってこと?

 

「ダンジョンズ&ドラゴンズ。略してD&D。この世にまだRPGが無かった頃、アメリカで生まれた画期的なゲーム。まあ今の世の中じゃ、ほとんどコンピュータゲームばっかりになっちゃってるけどな」

 

 なんか凄そうというのは分かったけど……、でもやっぱりピンとこない。

 

 ゲーム機じゃなくてさいころを使って遊ぶってことは、ボードゲームみたいなものかな?

 

「んで、そのゲームが部活? 部活でゲームするの?」

 

「ピンポーン! ザッツ・ライ! それが、室内冒険部!」

 

 えっ!? 室内冒険部? 

 

 それ、さっき部活動案内で見た、変な名前のやつ。こんな所でまたその名前を聞くことになるとは、思ってもみなかった。

 

 っていうか、室内で冒険、って、そういうことなの? ゲームで冒険ってこと?

 なんか……、納得したような、がっかりしたような……。

 

「っていうか、あきらちゃんがそういうの興味あるとは思わなかった。どう見ても運動部って感じだし……」

 

「こら。人を野生児みたいに言うな」

 

「あ、ごめん。つい……」

 

 本音が……。

 

「まあいいや。んで、中学の時にさ、ゆかり姉に誘われて良く遊んでたんだよ、D&D。そんで、はまっちゃって。あっ、ゆかり姉ってのは、あたしの幼馴染ね。二個上なんだけど、今、西高で、室内冒険部の部長やってるんだって。だからまあ、あたしが入部ってのは、必然的な感じで」

 

「そうだったんだー」

 

 何となく、事情は飲み込めた感じ。

 

「そうだ! 折角だから、ひよりもやってみない? D&D。面白いぞー」

 

「えっ? いや、私は……」

 

 正直なところ、そんなにゲームに興味あるわけじゃないし……。

 

「いいから遠慮すんなって。じゃあ、これからあたしんち来てよ。色々教えてあげる」

 

「あ、いや、私は……」

 

 な、なんか、断れない雰囲気……。

 

「行こ行こ!」

 

 結局、あきらちゃんに手を引っ張られていってしまった。

 

 うー、なんか、嫌な予感がしてたんだ……。

 

 

 

 

 あきらちゃんの家は細い脇道をちょっと入った所にあって、本当にすぐそこだった。「なるほど」と納得する。小さかった頃、あきらちゃんと良く遊んでいた理由がこれで分かった。

 

 でも、昔の記憶とちょっと違う所もあった。昔は普通の家だった記憶がある。でも今は、おしゃれな古民家カフェみたいになっていた。

 

「わー、すごい! おしゃれだね」

 

「なんか、ウチのオヤジがさ、急にカフェやりたいって言って。こんな所に客なんか来ねーよ、って思ったんだけど、結構、口コミで有名になってて。そこそこ、はやってるみたいよ」

 

 入り口に大きな木製の水車があって、それが水を運びながらゆっくり回っている。入り口の前には大きな陶製のネコの置物が据えられていて、来客を迎えていた。あちこちにランタンが下がっていて、おしゃれな中にも、ファンタジー的な雰囲気を醸し出している。木製の手作りの看板には、『踊る子猫亭』という店名が書かれていて、盆踊りをしているネコの絵が描かれていた。なんか、かわいい。っていうか、なんでここだけ和風……? 

 

「ただいまー、友達つれてきたよ」

 

 入り口のドアを開けて、あきらちゃんが中に叫ぶ。ドアに付けられたベルが、カランカランと小気味良い音楽を奏でた。

 

「おかえりー」

 

 中から、エプロン姿のおばさんが出てくる。顔を見てすぐに、あきらちゃんのお母さんだと分かった。あきらちゃんによく似ているし、元気そうだし。

 

「あら……? ひょっとして、ひよりちゃん?」

 

 私の顔を見るなり言ってくる。私の方は、全然覚えてなかったんだけど……。

 

「あ、は、はい。お久しぶりです」

 

 遠慮がちに応えたら、

 

「まあー! すっかり大きくなっちゃってー! 元気だった!? 戻って来たんですってねー。これからまた、お隣同士よろしくねー」

 

 私の両手をがっしり握って、ぶんぶん振ってくる。私の方は、「あわわわ……」と、振り回されっぱなし。

 

「ちょっと! ひよりが壊れちゃうでしょ! もういいから」

 

 あきらちゃんが割って入る。ナイスフォロー。

 

「なによー、久しぶりなんだし、少しくらい、いいじゃないのよー」

 

「いいから、もうあっち行ってて」

 

 あきらちゃんに背中を押されながら、お母さんが引っ込められていく。

 

「ひよりちゃん、あきらをよろしくねー。いつでもお店に来て。コーヒー、タダにしてあげる♪」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 な、なんか、凄いパワーのお母さん……。

 

 

 

 しばらくして、あきらちゃんが戻ってきた。

 

「全くもう、騒がしくて参っちゃうよ」

 

 そんなあきらちゃんを見て、何だか、あったかい気持ちになる。

 

「でも、すっごい、親子って感じだったよ。お母さん、あきらちゃんにそっくり」

 

「どういう意味? それ」

 

「あははは」

 

 

 

 

「まあ、狭いけど入って入って」 

 

「おじゃましまーす」

 

 案内されて、あきらちゃんの部屋へ。床も壁も木製の、小ぢんまりとした居心地のいい部屋。だけど、なんと言うか……、女の子感は無い……。質実剛健というか、必要の無いものは、いっさい置いてない感じ。

 

「凄いキレイに片付いてるねー」

 

 予想外に綺麗に片付けられているのが、ちょっと意外だった。私の部屋も、もうちょっと片付けないとな……。

 

「余計なもの置くの、嫌いなんだよ。まあ、性格かな」

 

 なんか分かるような気がする。竹を割ったような性格、というか。

 

「まあまあ、座って。何か飲む?」

 

「ううん。大丈夫」

 

 床に置かれたクッションに座る。大きな木製の一枚板のテーブルが置いてあって、その上にランタンが一つ置かれていた。何だか山小屋みたい……。

 

「さてと。で、これな。見て見て」

 

 あきらちゃんが、隅の本棚を示して言ってくる。小さめの木製の本棚に、何だか大きな本が一杯並んでいた。

 

「これが、D&Dの本。一番新しいのは5版って言って、これが初心者にも一番分かり易いかな」

 

 そのまま、本棚から3冊のハードカバーの本を取り出して、テーブルに置く。みんな大きくて、結構分厚い。

 

「この3冊が、ルールブックね。まずは、『プレイヤーズ・ハンドブック』。一番基本になるやつで、キャラクターの作り方とか、戦闘ルールとか載ってる」

 

 キャラクター……、ゲームの主人公ってことかな?

 

 っていうか……、なんか表紙が、かわいくない……。ヒゲを生やした大きいオジサンが、女の人と戦ってる。ちょっと怖い……。色合いも暗いし。 

 

「んで次が、『ダンジョンマスターズ・ガイド』。これは、DMっていう、ゲームの進行役になる人向けの情報が載ってる。でも、ただプレイヤーとしてゲームをしたい人には、必要ないけどな」

 

 ゲームの進行役? 審判みたいなものかな? 

 

 っていうか……、表紙が凄く怖い! 骸骨じゃん! 骸骨の魔法使いみたいな人が、墓場みたいな所で吠えてる感じ。なんか、中を見てはいけないような……。

 

「そんで最後が、『モンスター・マニュアル』ね。これは、ゲームに使うモンスターの情報が載ってるだけの本。だから、プレイヤーだけやりたい人は見ちゃダメ。ネタバレだから」

 

「ひええ! 目玉のお化け!」

 

「ん? どうした?」 

 

 だって表紙に、大きな口をしたひとつ目お化けが~!(※「ビホルダー」で画像検索♪)

 

「えー、これが怖いの? ビホルダー、かわいいじゃん」

 

「ど、どこがかわいいの!」

 

 こんなの絶対、中見たくないよー!

 

「はー、やれやれ。ひよりは軟弱モンだなー。これだから都会っ子は」

 

 ……これだから野性っ子は……。

 

 

 

 

「まあ、絵はいいとして。ひよりは初心者だし、プレイヤーズ・ハンドブックだけ見とけば充分だよ。これな」

 

 大きいオジサンの本を渡してくる。

 

 重たっ! それに、分厚い……。

 

 折角だし、中をパラパラとめくってみる。うーん……、絵がフルカラーなのは綺麗だけど、やっぱり字ばっかりだ……。300ページ以上ある。これ全部覚えるの……?

 

「なんか、難しそうなんだけど……。こんなに覚えられないよ」

 

 ちょっと本音をこぼす。でも、

 

「平気平気。覚えることなんてほとんどないから」

 

「え? そうなの?」

 

 ちょっと疑わしい……。 

 

「そこに載ってるのって、ほとんどデータばっかりなんだよ。だから、必要になった時だけ見れば充分」

 

「そ、そうなんだ」

 

 言われてみれば、ルールっぽいことが書いてある所は少ないような気もする。あきらちゃんの言う通り、データっぽい部分が多い。

 

「それに、初めてやるんだったら、ルール知ってる人に聞くのが一番早いぞ。やってることは単純なことばっかりだし、一回やればすぐ覚えちゃうしな」

 

 なんか、結構簡単そうな気もしてきた。それなら、私でもできるかも。

 

「えと……、それで、これどうやって遊ぶの? ボードゲームみたいなものだよね? ゲーム盤とかってあるの?」

 

 人生ゲームとかモノポリーみたいなものを想像する。それなら私も、やったことあるから分かりやすいけど。

 

「ゲーム盤なんてないない。このゲームは、頭の中で想像して遊ぶんだよ」

 

 あきらちゃんが自分の頭を指差して応える。想像して遊ぶ? どういうこと?

 

 

 

「じゃあ、簡単に説明するぞ。まずこのゲームには、『ダンジョンマスター』って言って、ゲームの進行役になる人が一人必要。略してDMな。この人が毎回、ゲームの舞台となるシナリオを用意するわけ。それ以外の人はプレイヤーになって、それぞれのキャラクターを受け持つ。戦士とか、魔法使いとかな。ここまではOK?」

 

「う、うん。なんとなく……」

 

「よし。んで、プレイヤー達は、受け持った自分のキャラクターの役割を演じながら、DMの用意したシナリオ世界の中を冒険していくわけだ。今、こういう所にいて、何が見えて、どんなものがあるか? とか、そういったことはみんなDMが教えてくれる」

 

「そのDMっていう人が、全部説明してくれるの?」

 

「そう。だからD&Dには、ゲーム盤なんて無いんだよ。DMが言葉で説明したことを、プレイヤーが頭で想像するわけ。まあ、戦闘とか、込み入った状況の時には、フィギュアを使ったりして位置関係を表すことはあるけどな」

 

 な、なんか、凄い……。頭の中で想像して遊ぶって、そういうことだったんだ。

 

「分かってきたみたいだな。じゃあ、D&Dの一番の特徴を教えてあげよう」

 

 あきらちゃんが胸を張って言ってくる。

 

「一番の特徴?」

 

「うむ。それは、D&Dでは、プレイヤーは『何でも試すことができる』ってことだ。これは、コンピュータゲームでは絶対不可能」

 

「何でもできるの?」

 

「そう。コンピュータゲームとかだと、プレイヤーの選択肢って限られてるだろ? 『戦う』とか、『逃げる』とかな。でもD&Dだったら、そんな制限は無い。プレイヤーは、やりたいことがあったなら、バシバシDMに伝えちゃってOK! あとは、DMが判断して結果を教えてくれるってわけ。まあ、結果が上手く行くかどうかは、また別の問題だけど。でも、これって凄いことだよな。何でもできるゲームって、他に無いぞ」

 

 なんか、あきらちゃんがこのゲームが好きな理由が分かった気がする。確かに、何でも試せるゲームなんて他に聞いたことがない。自由奔放なあきらちゃんには、向いてるかも。冒険とかも好きそうだし。

 

「ま、あとは実際に遊んでみないとな。一回遊べば、どんなもんだかすぐ分かるから」

 

 

 

 そのあとも、あきらちゃんから色々細かいことを聞いた。っていうか、聞かされた。このゲームにはそれなりの人数が必要だということで、二人だけで遊ぶにはちょっと無理があるということも。最低でも三人、できれば四、五人くらいで遊ぶのがいいそう。

 

 なので、最終的には「実際に部活で体験してみたら?」ということになる。部員もいるだろうし。

 

 でも……、

 

 うーん、何だか面白そうだということは分かったけど、やっぱり私は、そこまで興味があるというわけでもないし……。

 

「取りあえず、ゆかり姉にひよりのこと話しとくよ。入部候補 見つけたって」

 

「ちょ、ちょっと。まだ部活入るとは言ってないよ!」

 

「でも、一回くらいは試してみたいだろ? 決めるのはそのあとでもいいじゃん」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

 うー、また押し切られそう……。

 

 でも、あきらちゃんの言う通り、一回くらいならやってみてもいいかな……。

 

 それでやっぱり興味湧かなかったら、断ればいいし。

 

「ま、物は試しって言うしな。若いうちは色々吸収した方がいいぞー」

 

 あきらちゃんがそう言って、私の手にさいころを渡してくる。さっき見せてくれた、青い20面体のさいころ。

 

「それ、ひよりにあげるよ。記念にな」

 

「あ、ありがと」

 

 正直、さいころもらっても、あんまり嬉しくはないけど……。

 

 でも、あきらちゃんとまたこうして再会できたし、なんか趣味っぽいつながりもできたし。何だか新しい生活に、期待を感じちゃうのは事実で。

 

「じゃあ、とりあえず新学期に、ってことで。これからもよろしくな、ひより」

 

「あ、うん。私も、あきらちゃんに会えて嬉しいよ」

 

 二人でにっこり笑う。本心からの笑顔だった。

 

 

 

 

「そうだ、ひより、店でお茶飲んでかない? ごちそうするよ。ウチのケーキ、結構美味しいぞ」

 

「えっ、いいの?」

 

 お茶とケーキ……、思わず、目の前がパアッと明るくなる。

 

「平気平気、行こうぜ」

 

 そのまま、あきらちゃんに引っ張られていく。ちょっと強引な感じはあるけれど、やっぱりあきらちゃんは優しい。

 

 新しい生活か―― 

 

 想像して、胸を高鳴らせる。

 

 D&D……っていうのはまだちょっと未知数だけど、あきらちゃんとまた友達になれて、良かった。

 

 

 

「えっ! なにこれ美味しい!」 

 

「だろー? にゃははは」 

 

 ケーキの美味しさに、思わず顔がほころぶ。 

 

 新しい友達の笑顔も、何とも心地良かった。

 

 

 

                     TO BE CONTINUED……

 

 

 

 

 

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