本日、ぼうけんびより!   作:ゼルダ・エルリッチ

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2 出会いと部室

 新学期―― 新しい制服に身を包んで、期待に胸を膨らませて、私の高校生活がスタートしようとしていた。 

 

 気の合う友達見つけて、やりたいことも見つけて、

 

「よーし、青春しちゃうぞー。うふふ」 

 

 

 

 始業式も終わって、教室の自分の席に座る。私の席は窓際の真ん中で、窓の外は新学期らしい、いい陽気だった。校庭の隅には桜の木が並んで植えられていて、満開になっている。

 

 そんな中、机の引き出しからプリントを出して、眺める。例の、部活動一覧のプリントだった。

 

「うーん……、室内冒険部かあ……」

 

 

 

 …………

 

 朝、学校に着いて教室に入ろうとするなり、向こうから廊下をバタバタと走ってくる子がいた。制服姿だったけど、一目で、あきらちゃんだと分かる。

 

「おーっす! ひよりー! 元気だったー!?」

 

 そう言って、腰に手を当てて「にゃっはっは」と笑う。ちょっと、周りの目があって恥ずかしい……。

 

「あ、あきらちゃん……。相変わらず元気そうだね……」

 

「今日から高校生だしな! 張り切っていこうぜ!」

 

「う、うん」

 

 一日目からこのハイペースかあ……。私、身体持つかな……。

 

 ちなみに、私は1組、あきらちゃんは3組。

 

「んで、ひより。今日、終わったら、部室案内するからな。ゆかり姉にも言っといたよ」

 

「あ……、そ、そうだね」

 

 D&Dっていうゲーム……。正直、あれからしばらく日数が経って、半分くらい忘れかけてた。三日くらい前にあきらちゃんからラインが来て、それで思い出した感じ。あきらちゃんには悪いけど……。

 

「じゃあ、また後でな!」 

 

「あ、うん……」

 

 …………

 

 

 

 ということがあって、今。

 

 私は部活動一覧のプリントを眺めながら、ちょっと迷っていた。

 

「やっぱ、美術部、一回見てみようかな……」

 

 室内冒険部、っていうのはまだ未知数だし……、どうせなら選択肢は多い方がいいし。

 

 なんて思っていたら、

 

 

 

「ねえ、部活決めた?」

 

「うん、美術部にするよ」

 

「そっかー、麻衣ちゃん、絵描くの好きだもんね」

 

 

 

 えっ?

 

 クラスメイトが話しているのが耳に入って、思わず振り向く。

 

 私以外にも、絵が好きな子いたんだ。

 

 優しそうな子だし、話しかけてみようかな。イラストとかも好きかも。一緒にお絵かきとかしてみたい。

 

 

 

「ってか、この室内冒険部って、なんだろね?」

 

「なんか、わけ分かんなくない? 変なことやってそう」

 

 

 

 う……。

 

 変なこと……。 

 

 

 ううー。なんか、室内冒険する気分じゃなくなってきた……。

 

 っていうか、ゲームだし……。 

 

 やっぱり私、変なことに誘われちゃったのかも……。でも、一回もやらないで断るのは、あきらちゃんに悪いし……。

 

 とにかく、ここはきちんと見極めて、あんまり変な部活だったらちゃんと断らないと。あきらちゃんのことは好きだけど、他の部員さんとか、変な人多かったら嫌だし……。

 

 う~ん、これからどうなるんだろう……。

 

 高校初日から、何だか不安だ……。 

 

 

 

 

 今日は始業式だけで終了したので、そうそうに学校は終わり。挨拶して、そのまま下校という流れになった所で……、

 

「ひ~より~!」

 

 教室の外から、威勢のいい呼び声が……。

 

「あ、あきらちゃん……。早いね……」 

 

 3組の方も、私のクラスとほとんど同じ時間に終わったらしい。そのままの流れで、すっ飛んできたような感じだった。

 

「んじゃー、行こうぜ!」

 

「あ、うん……」

 

 手を引っ張られて、連れ出されていく。周りの生徒からの視線を感じて、やっぱり恥ずかしい……。

 

 

 

「ひよりのこと、ゆかり姉に話したらさ、喜んでたぞ。D&D知ってる奴って、あんまりいないから。よっしゃー、部員増えるぜ! って感じ?」

 

 廊下を歩きながら、あきらちゃんが嬉しそうに話す。

 

「ちょ、だから、まだ部活入るとは言ってないからね。試してみてからだよ」

 

 押し切られてしまう前に、自分の意志を伝える。あきらちゃんのこのグイグイ感にも、慣れていかないとな……。

 

「分かってるって。でも、ひよりも絶対気に入ると思うから。保障するよ。それと、あたしのことは、あきらでいいから!」

 

 あきらちゃんが私の方を向いて、ニッコリ笑う。その無邪気な笑顔を見ていたら、ちょっと心配も薄れてきた。

 

 あきら……、名前呼びかー。

 

 もっと仲良くもなりたいし、いいかな。

 

 

 

 

「……え? ここが部室?」

 

 案内されたのは、北校舎の1階の一番奥。「郷土資料室」という表札の掛かった部屋だった。周りには「○○準備室」だとか、似たような部屋がいくつかあって、そのどれもが、普段は全く使われていないような暗い感じの部屋。

 

 当然、廊下の雰囲気も暗い。反対方面の図書室へは生徒達の出入りもあったけど、対極のこっち側は全くもって人の気配すら無く、不気味な雰囲気を醸し出している……。何だか洞窟みたい……。

 

「な、なんか、暗いんだけど……。ほんとに大丈夫?」 

 

 ドアにはまったガラスからも、中の様子は窺い知れない。っていうか、ここ、ほんとに生徒が入っちゃっていいの? ちゃんと許可取ってるのかな……。

 

「大丈夫、大丈夫。中は居心地良いから」

 

 心配する私をよそに、あきらは意にも介さず、ドアをガラッと開ける。

 

「こんちわー! 来たよー!」

 

 そのまま、つかつかと部屋の中へ。私も後ろから、中を覗いてみる。 

 

 天井まで届くような、大きなステンレス製の資料棚が二つ、部屋の真ん中に据えられている。そこには、何かの資料のファイルとか地図とかが、ぎっしり詰まっていた。いかにも資料室って感じ。何となく、ホコリっぽい。

 

「あっれー、おかしいな。ゆかり姉、来てないのかな?」

 

 あきらが頭を掻きながら、部屋の奥へ進む。奥には木のテーブルがあって、周りに椅子が並んでいた。

 

「お、おじゃまします」

 

 私も遠慮がちに、恐る恐る中へ。すると……、

 

「あっ、いたいた! もー、また、だらけてやがる」 

 

 ひゃっ! 部屋の隅に置かれた二人掛けのソファに、制服姿の女子が一人寝そべっていた。開いた雑誌を顔に乗せて、本気で寝ていたらしい。誰もいないと思っていたので、びっくりして心臓が飛び出そうになる。

 

「こら、ゆかり姉! 部員連れてきたぞ。起きろって」

 

 あきらがゆさゆさと揺さぶって起こすと、その人がむっくり起き上がって、そのまま大きな欠伸をした。どうやらこの人が、ゆかり姉、って人らしいけど……。

 

 すごくだらしない……。制服のスカーフは外しちゃってるし、靴も靴下も脱いで、床に放り出してある。スカートもめくれあがっていて、太もも丸出しだし……。下着まで見えそう……。

 

「んー? ああ、あきらかー。部員ー?」

 

 寝ぼけまなこのまま、ゆかり姉という人が脇腹をポリポリと掻く。どうやらまだ、目が覚めていないらしい。っていうか、何だかオヤジっぽい……。

 

「寝ぼけんなって。昨日話しただろ。新入部員!」

 

 だからまだ、入るとは言ってないってば……。

 

「あー、うんうん。そっか。そだったなー」 

 

 そう言って、その人が私の方をジロッと見る。私は思わず、ビクッとしてしまう。

 

「ひより、この人が、ゆかり姉。ここの部長」

 

「あ……、は、初めまして。陽奈川、日和です」 

 

 恐る恐る自己紹介すると……、

 

 にいっ……!

 

 その人が、私を見てニヤリと笑った。ひええ! な、なに!? 凄く怖いんですけど……。

 

「よー来たね。私は三年の、摂津 縁。ここの部長やってまーす。よろしくー」

 

 えと……、せっつ、ゆかりさん。室内冒険部の部長……。それはいいんだけど……。

 

 

 見た目が、ギャルなんですけど……。

 

 

 なんか、日焼けしてるし、髪もちょっと染まってるし……。手にはブレスレットがはまっていて、首にも細い鎖のネックレスをしていた。ウチの学校、アクセサリーは禁止のはずなんですけど……。

 

「まあ、こんな見た目だけど、害は無いから安心してな。噛みついたりはしないから」

 

 あきらがそう言って、「にゃっはっは」と笑う。私の方は、「あはは……」と苦笑い。

 

「こら、ここでは先輩やぞ。ちゃんと敬え」

 

 摂津部長が、あきらの頭をポカッと小突く。「いだっ!」と、あきら。

 

 なんだか、凄く仲良さそう。やっぱり幼馴染って感じ。

 

「んでー、陽奈川ちゃんだっけー? またあきらに、変なこと言われて騙されたー?」

 

「あ……、は、はい。まあ……」

 

 また苦笑いしてごまかす。

 

「騙してないわ! ってか、ひよりも肯定すな!」

 

 今度は、あきらが私の頭を小突く。

 

「まあ、ええやんか。何事も経験やからねー。そんで陽奈川ちゃんはー、うちの部活のどんな所が気に入ったのかなー?」

 

 どんな所と言われましても……。あきらにちょっと話聞いただけで、まだ全然知識も無いし……。

 

「あ、あの……、私、まだD&Dっていうのは、やったことが無くて……。それで、あきら……ちゃん、に誘われて、1回だけでもやってみたら? っていうことになりまして……」

 

 正直に応える。変に嘘とか付いて、話がややこしくなっても嫌だし……。

 

「そうなんや。でもまあー、やってみたら気に入るやろうし、入部は歓迎するよー」

 

 へらへら笑って、手をひらひらと振ってくる。ですから、まだ入部するとは……。

 

 っていうか……、

 

「あの……、他の部員さんって、今日は来ないんですか? 今日、皆さんとゲームやるって聞いたんですけど……」

 

 あきらの話では、今日、試しに皆でD&Dで遊んでみるということになっていた。D&Dで遊ぶには人数が必要ってことだったから、三人だけってことは無いはずなんだけど……。

 

「あー、今、生徒会の仕事に行ってるとこ。もうすぐ来るんやないかなー?」

 

 なんだ、ちゃんと部員いるんだ。

 

 そうだよね、まさか部長さん一人だけってことは無いだろうし。

 

「おー、噂をすれば、来た来たー」

 

 開きっぱなしの入り口ドアから、誰かが入ってくる。さらりと長い黒髪の、女子生徒だった。すごく綺麗な人。襟章から、二年生の先輩だと分かる。

 

「よー、鹿島ー。遅かったなー」

 

 摂津部長がソファにあぐらをかいたまま、ひらひら手を振って声を掛ける。やっぱりこの人、すごくだらしない……。大丈夫かな? この部活……。

 

「またそんな、はしたない格好で……。新入生に示しが付きませんよ」 

 

「まーまー、ええじゃん。固いこと言わんと」

 

 

 

 そのまま、鹿島さんと呼ばれた先輩が、私とあきらの二人にぺこりと頭を下げて、摂津部長の隣に座る。私とあきらは、テーブルの前に並んだ椅子にそれぞれ腰掛けた。

 

「んじゃまあー、部員も揃ったことやし、自己紹介と行こっかねー。私はさっき済んだから、鹿島よろしくー」

 

 ソファにどっかり座ったまま、部長が隣の鹿島先輩を示す。っていうか、さっきから思ってたんだけど、摂津部長って関西の人なのかな? ちょっと訛ってるけど。

 

「二年の、鹿島 長閑です。よろしくお願いします」

 

 かしま、のどか先輩か。いい人そうで良かった。すごく礼儀正しいし。声も綺麗。

 

「鹿島は生徒会の副会長もやっとるぞ。まあ、いい子ちゃんってことやねー」  

 

「余計なことは言わないでください」

 

 鹿島先輩が部長の脇腹を小突く。部長の方は、「わはは」と笑っていた。

 

 二人とも、仲が良さそう。見た目は対極だけど……。鹿島先輩の方は、服装もキッチリと整えられていて、清楚なお嬢様といった感じだった。なんでこの部長と仲良いのか分からないけど……。

 

「そんでこっちが、新入生の二人ー。二鳥と、陽奈川ー。二鳥は、鹿島、知っとるやろ?」

 

「はいっ! ゆかり姉の家で会ったことあります!」

 

「そうなの?」

 

 思わず尋ねる。

 

「ゆかり姉の家で良く一緒に遊んだからな、D&D。鹿島先輩、すっごいDM上手なんだぞ」

 

「へえー」

 

「こら、ここじゃ、あたしのことは部長と呼べと言ったろーが、小娘」  

 

 へらへら笑っているあきらに、摂津部長が拳を振り上げる。

 

「ひでえ。小娘はないだろ、ギャル娘!」

 

 な、なんか、私の出る幕が……。

 

 

 

「じゃあ、次は陽奈川さんよろしくね」

 

「あ……、は、はいっ」

 

 鹿島先輩に促されて、ようやく出番が来た。

 

「一年の、陽奈川 日和です。D&Dのことはまだ良く知らないんですけど……、ご指導、よろしくお願いします」

 

 取りあえず、当たり障りの無い言葉で。ここは様子を見ておかないと……。

 

「はいはいっ! 一年の二鳥 明良ですっ! 趣味はD&Dとアウトドア! 好きな食べ物は……」

 

「お前のことは知っとるからいい」

 

 摂津部長が制止する。

 

「ひでえ! このギャル!」

 

「うっさいわ」

 

 えーと……。やっぱりまだ、この雰囲気に入っていくのは厳しい感じ……。

 

 

 

「じゃー、新入生も来たし、早速、始めよっかねー。あきら、キャラシート取ってー」

 

「自分で取れよ。目の前じゃん」

 

 ぶつぶつ言いながらも、あきらが棚から紙を取って部長に渡す。

 

 っていうか……。

 

「あの……、部員って、他には? ……これで全員ですか?」

 

 結局、鹿島先輩が一人増えただけ……。D&Dって、人数が必要なゲームってことだったんだけど……。私とあきらが来なかったら、二人しか居なかったってこと?

 

「こんだけー。以前はもうちょっと居たんやけど、みんな卒業しちゃって。お前らが入部してくれてホント助かったわー」

 

「このままだと、部の存続も危うかった……。四人以上じゃないと、部活動として認められないし」

 

 鹿島先輩も、ちょっと嬉しそうに話す。

 

 って、そんなこと言われても……。私もまだ、入部するって決めたわけじゃないんだけど……。

 

 

 

「それより、早く、やろーぜ! ひより、教えてやるよ!」

 

 あきらがそう言って、私に紙を渡してくる。なんだか色々なマス目が描かれた、変な紙だった。

 

「まずは、キャラクター作りからな。これはキャラクターシートって言って、自分の演じるキャラクターのデータを書いておくための紙。ゲーム中はずっと自分の前に置いておいて、必要になったら使う感じ」

 

「な、なるほど」

 

 見てみると、筋力とか、ヒットポイントとか、色々書いてある。セーヴィング・スローとか、イニシアチブとか、よく分からない項目もあった。

 

「最初は、細かい所はあんまり気にしないでいいから。まずは、自分がどんなキャラクターになりたいかを考えるのが大事な」

 

 そう言って、あきらがルールブックをパラパラとめくる。この前あきらの家で見せてもらった、大きいオジサンの本だった。プレイヤーズ・ハンドブックだっけ? この部室にも、3冊のルールブックがちゃんと備えられていたみたい。

 

 ちなみに、キャラクターは初めから用意されているわけじゃなくて、本を見ながら自分で一から作るらしい。そのため、ルールブックにはキャラクター作りのための色々なデータが載っていた。これが、この本が分厚い、一番の理由になっているみたい。

 

「まずは、種族。人間の他にも、エルフとか、ドワーフとか。聞いたことあるだろ?」

 

「うん、結構有名だし」

 

 エルフに、ドワーフ。ファンタジー作品では定番って感じの名前だ。ゲームに疎い私でも知ってるくらいだから、相当有名と言ってもいい。

 

「他にも、ノームとか、ティーフリングとか、ドラゴンボーンとかもあるぞ。ハーフオークってのもある」

 

 ハーフオーク? ……って、絵が怖い! 鬼?

 

「そ、それはちょっと……」

 

 躊躇していたら、

 

「最初は、『人間』にしとくのが無難かもしれんぞー。陽奈川ちゃん、初めてやし、その方が取っ付きやすいやろ」

 

 摂津部長がフォローしてくれる。それは、確かに。

 

「キャラクターは、言ってみれば自分の分身みたいなものだから。人間のキャラクターなら、陽奈川さんにも馴染み易いよ」

 

 鹿島先輩もそう言ってくれた。まあ、初めてだし、よく分からないし、ここはやっぱり、『人間』ってことで。

 

「じゃあ、種族は『人間』にします」

 

「オッケー。じゃあ、ここんトコに書いといて」

 

 キャラクターシートの右上の欄に「種族」というのがあって、そこに「人間」と書いておく。

 

「じゃあ次は、性格決めとくか。これも、自分の性格を参考にした方が馴染みやすいぞ。ひよりは、自分より誰かのために尽くしたいタイプ? それとも、『自分も人も』ってタイプ?」

 

 いきなり性格診断? なんか、占いみたい。っていうか、いきなりそんなこと聞かれても……。

 

「そんなこと聞かれても、よく分かんないよー。普通だと思うけど……」

 

「うーん、じゃあ、『中立』ってことにしとくか。あと、『秩序』とか『混沌』とかもあるけど、最初は分かりにくいだろうから、それは後でいいか」

 

 取りあえず、私のキャラクターは「中立」な性格らしい。ま、まあ、別に文句は無いけど。

 

 

 

「次は、クラスを決めよう。クラスってのは、キャラクターの職業のことな。いわゆる、戦士とか、魔法使いとか、僧侶とか、そういうやつだ」

 

 おー、何だか、本格的にファンタジーっぽくなってきた。

 

「ひよりは、何か、なりたいクラスある?」

 

 就職、ってことか。うーん、そう言われても、やっぱり何を選べばいいのか……。

 

「あんまり、戦いとかしたくないし、できれば優しそうな職業がいいんだけど……」

 

 ガチガチの戦士とかは、やめてほしい。

 

「それなら、クレリックとかどうかな? 聖なる力で仲間を癒す、回復系のクラス」

 

 鹿島先輩が説明してくれる。ゲームで良く見る、回復系のキャラってことかー。私はあんまり信心深いというわけではないけれど、回復系なら、いいかも。

 

「クレリック、ええな。鹿島もあきらも戦いばっかりしたがるし、回復系なら歓迎やぞ」

 

 部長もクレリックを勧めてきた。じゃあ、それにしようかな。

 

 っていうか、あきらなら分かるけど、鹿島先輩も戦いばっかりしたがるの? 全然イメージが違うけど……。

 

「じゃあ、クレリックにします」

 

 クレリックに決定。良かった。これなら、戦いとかしなくても良さそう。

 

 

 

「職業も決まったし、後は、ちゃちゃっと数値決めちゃおっか。ゆかり姉、ダイス取って」 

 

「自分で取れよー」

 

 ぶーたれながらも、部長が棚の箱を渡してくれる。宝箱みたいな木の箱の中に、カラフルなさいころが一杯入っていた。

 

「わー、何かキレイですね!」

 

 カラフルなさいころを眺めていると、何だか気分が高揚してくる。宝石みたいだし。それに、やっぱりかわいい。

 

「最初に使うのは6面体な。いわゆる、普通のさいころってやつだ」

 

 よく見ると、色々な形のさいころがある。この前あきらにもらった20面体の他にも、いくつか種類があるみたい。

 

「これ、一杯種類があるみたいだね?」

 

 尋ねたら、

 

「何だ、知らないのか。じゃあ、これも教えたるな」

 

 あきらがそう言って、箱の中からさいころを取って机に並べた。

 

「順に、4面体、6面体、8面体、10面体、12面体、それから、20面体。一番よく使うのが、この20面体。D&Dの定番って感じのダイスだな」

 

「へえー、ずいぶん種類があるんだね」

 

 っていうか……、

 

「何でこんなに種類があるの?」

 

 自然と疑問が湧く。

 

「例えば、小さい剣と大きい剣とじゃ、威力が違うやろー? そのダメージの大小を表したりだとか、必要に応じて、様々なダイスで振り幅を表現するってわけねー」

 

 あきらちゃんの代わりに、部長が応える。

 

「な、なるほど」

 

 何となく、感心。

 

「陽奈川ちゃん、自分のダイス持ってるー?」

 

 そのまま、部長が尋ねてくる。

 

「あ、いえ、あきらにもらった20面ダイスがあるだけで……」

 

 鞄から、このあいだの青い20面体ダイスを取り出す。

 

「おっ。それ、持って来たんだな」

 

「あ、うん。せっかくもらったやつだし」

 

 それほど嬉しくは無かったけど……。

 

「じゃあ陽奈川ちゃん、よかったら、これあげるー。自分の好きな色、選んでー」

 

 部長が、そう言ってダイスの箱を渡してくる。1種類ずつ、1個ずつくれるってことらしい。

 

「おっ、ゆかり姉、珍しく太っ腹じゃん」

 

 あきらが手を叩いて言ってくる。でも……。

 

 やっぱり、さいころもらっても、あんまり嬉しくは……。かえって、恩とか着せられちゃう感じにならないだろうか……。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 取りあえず、断るのも悪いし、ここは素直に受け取ることにする。もしなんだったら、帰る時に返そう。そう思っていたら……、

 

「受け取ったねー」

 

 部長が、にやりと笑う。ひいっ!

 

「そのダイス、部費で買ったやつなんよね~。だから陽奈川ちゃん、室内冒険部、よろしくね~」

 

 悪い予感が的中……。

 

「部長、新入生をおどかさないでください」

 

 鹿島先輩が注意してくれたけど、

 

「冗談やって、冗談。あはははー」

 

 な、なんか、冗談に聞こえないんですけど……。

 

 

 なんか私、逃げられない感じになっちゃった……?

 

 

 

 

 それから、ダイスを振ってキャラクターの能力値とかを記入。私はクレリックなので、「判断力」というのが一番大事な能力らしい。でも、

 

「別に、能力値とかは自分の好きな感じで決めちゃってもいいぞ。頭のいいキャラクターにしたいなら『知力』高めにしたり、自由にしてOK!」

 

 あきらがニコニコしながら言ってくる。

 

「そうなの?」

 

「まあ、適正能力が高いに越したことはないけど、それはただ、数値的に強くなるっていうだけのことだから。D&Dで一番大事なのは、数値じゃないんだよ。いかに楽しむか、ってこと!」 

 

 そう言ってピースサインを見せるあきらは、本当に楽しそうだった。

 

「だから、本人が楽しければ、別に弱いキャラを演じたって構わないわけ。まあ、あんまり弱すぎても、他のキャラに迷惑かかるから、ほどほどにしといた方がいいけどな。要は、皆で協力して、皆で楽しむ! これが一番!」

 

 なんか、D&Dっていうゲームが分かってきた気がする。普通のゲームだったら、キャラクターは強いのが一番ってことになるんだろうけど、D&Dではそんな所まで自由にしていいらしい。 

 

 皆で楽しむ、か……。

 

 なんか、D&Dって、思ってたより深いゲームなのかもしれないな。

 

 

 

「出来た……」 

 

 それからしばらくして、ついに私のキャラクターが完成! 本格的に作ろうと思ったら結構時間が掛かるらしいけど、今日はお試しということなので、十五分くらいで作ることができた。

 

 改めて、自分のキャラクターシートを眺める。数値ばっかりで良く分からない部分は多いけど、自分で作ったキャラクターっていうのは、やっぱり感慨深いものがあった。

 

 キャラクターの名前は、「ヒヨリ・ヒナカワ」。まずは感情移入がしやすいように自分の名前を付けちゃうのが手っ取り早いとのことだったので、私もそうした。よく、ゲームの主人公に自分の名前を付けるケースがあるけど、それと同じ。

 

 ちなみに、年齢も性別も私と同じ。つまりは、ほとんど私自身ってことだった。まあ、分かり易くていいけど。

 

 他のみんなも、自分のキャラクターが出来上がったみたい。みんな自分のキャラクターをすでに持っているらしかったけど、新たにゲームをスタートするにあたって、私と同じ1レベルのキャラクターを作ってくれたらしい。

 

 ちょっと安心する。他の仲間がいきなりレベル100とか言ったら、私の立場が……。頼もしくはあるけれど……。

 

「んじゃー、キャラ同士の自己紹介といこうかねー。ほんじゃまず、あきらから」 

 

 部長が手をヒラヒラさせて促す。キャラクター同士の自己紹介っていうのも、ちょっと面白い感じ。

 

「はいっ! あたしのキャラは『アキラ・ニトリ』。クラスは、レンジャー! ネコと弓矢が大好きな女の子ですっ!」

 

 なにその設定……。 

 

「またレンジャーかい。たまには他のクラスにしとけよー」

 

 部長が突っ込む。レンジャーっていうのは、弓とかで戦うことの多い、狩人みたいなものらしい。野山を駆け回ったり、動物の相手をしたりするのが得意。うーん、あきらにピッタリって感じ……。

 

「いいじゃん。好きなキャラで楽しむのが一番なんだから」

 

 あきらが主張すると、部長が「ほいほい」といって、諦めたように手を上げる。どうやら、いつものことみたい。

 

 次は鹿島先輩。

 

「私は、ファイターの『カシマ』。ここらじゃ、『大剣のカシマ』で名が通っている。よろしくな!」

 

 え……、急に演技が入った……。

 

 私があっけに取られていると、

 

「まあー、キャラを扱う時には、こんな風にキャラになり切って演技すんのもOKな。でも、恥ずかしがる人も多いから、プレイヤーが口で説明するだけでも充分やぞー」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 良かった。こんな演技とか、毎回しなくちゃいけないのかと思った……。

 

 っていうか、鹿島先輩って、結構入り込む感じの人なのかな……? なんか、ちょっと意外だ……。

 

「ひよりも演技してみたら? はまるかもよ」

 

 あきらが笑って言ってきたけど、

 

「いや、私は……、遠慮しとくよ」

 

 

 

 次は私の番。

 

「あ……、クレリックの、『ヒヨリ・ヒナカワ』です……。よろしくお願いします」

 

「それ、ひよりの自己紹介と同じじゃん」

 

「だって私のキャラクターって、ほとんど私自身って感じだし……」

 

 特に捻るような所も無いし……。

 

「こら、あきら。本人の好きなようにやらせたれ」

 

「へーい」

 

 

 

 最後に、部長。

 

「ほんであたしが、ウィザードの『セッツ』ね。テキトーによろしくー」 

 

 終わり。本当にテキトーだ……。 

 

「もっとちゃんと紹介せーよ!」

 

 あきらが突っ込んだけど、

 

「いーのいーの。あたしは皆の見守り役やから」

 

 やっぱテキトーだ……。

 

 

 

 紹介も済んで、とにかく、これで皆のキャラクターが揃ったことになる。机の上には、私の分も含めて、4枚のキャラクターシートが並んでいた。ちょっと壮観。そこに、カラフルなさいころが彩りを添えている。

 

 

 

 何か楽しいことが始まるような―― そんな空気が生まれていた。

 

 

 

 改めて、4人のキャラクターを眺めてみる。

 

 私のキャラクター、クレリックの「ヒヨリ」。人間。

 

 あきらのキャラクター、レンジャーの「アキラ」。人間。

 

 鹿島先輩のキャラクター、ファイターの「カシマ」。人間。

 

 摂津部長のキャラクター、ウィザードの「セッツ」。エルフ。

 

 

 これから、この4人での冒険が始まるってわけなんだけど……。

 

 何だろう……、あんまり興味も無かったはずなのに……、

 

 

 

 なんか、わくわくしてきた♪

 

 

 

「んじゃー、ゲームスタートってことで。始まり始まり~」

 

「おー!」

 

 摂津部長の掛け声に、ぱちぱちぱち! 皆で拍手。

 

 

 色々、不安な要素も多かったけれど、とにかく……、

 

 

 

 私のD&D、ここに開幕です!

 

 

 

                   TO BE CONTINUED……

 

 

 

 

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