本日、ぼうけんびより!   作:ゼルダ・エルリッチ

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3 クエストとダンジョン

 

「あきらー、お茶取ってー」

 

「自分で取れよ」

 

 何だか成り行きで参加させられてしまった、この室内冒険部の部活体験。初めは全然乗り気じゃなかったけど、いざこうしてみると、気持ちが高ぶってくるのを感じる。

 

 目の前には、私の作ったキャラクター。色とりどりのさいころ。そして、3人の仲間たち。

 

 初めはボードゲームみたいな感じかと思っていたけれど、ゲーム盤も、コマも、カード類も、何にもない。使うのは、一枚の紙と、さいころと、そして想像力。それが、世界で初めてのRPGである、D&Dというゲームだった。

 

 

 

「それでは、始めたいと思います。よろしくお願いします」

 

 鹿島先輩が礼儀正しく言って、ぺこりと頭を下げる。D&Dは皆で一緒に楽しむゲームだから、挨拶とマナーは大事らしかった。あきらも部長も、そういう所はきちんとしているみたいで、やはりぺこりと頭を下げる。私も慌てて、頭を下げて挨拶した。

 

 ゲームの進行役であるダンジョンマスター、DMを努めるのは、鹿島先輩。あきらは、「新入生の歓迎なんだから、部長がDMやるべきだろ」と摂津部長を突っついたけど、部長の方は「シナリオ用意しとら~ん」と言って投げやりだった……。それで、鹿島先輩が簡単なシナリオを準備してくれて、ゲーム開始という運びになる。

 

「今回は、初心者の陽奈川さんにゲームに慣れてもらうのが目的ですから、シナリオは簡単なものにしたいと思います。それよりも、ゲームの雰囲気とか、おしゃべりとか、そっちを大切にしていきましょう」

 

「オッケーです!」

 

「うーい」

 

 雰囲気とおしゃべりが大切なゲームって、なんかいいかも。脱力できそう。

 

 

 

「さて、みなさんは、とある小さな町に集まった冒険者です。町の酒場で情報収集などをしている内に、何となく顔見知りになって仲間になりました」(DM)

 

「おー、定番の展開」(アキラ)

 

「オヤジー、取り敢えず、ビールとソーセージねー」(セッツ)

 

「すでに酒場モードになってる……。」(アキラ)

 

「冒険者も大変やし、まずは鋭気を養わんと」(セッツ)

 

「金無くなっても知らんぞ。まだレベル1なのに」(アキラ)

 

 なんか、すでにゲームが始まっているみたい……。う……、入り込めない。

 

「今日もみなさんは、酒場の張り紙に目を通します。冒険者向けの仕事の依頼が書かれた張り紙です」(DM)

 

「いわゆる、クエストってやつな。こういうのがあると、話もいろいろ作れるし、展開も早いし」(アキラ)

 

「な、なるほど……」

 

 いきなり魔王を倒しにいくとか、そういうストーリーでは無いみたい。D&Dは、基本的には1つのストーリーに沿って何回かのゲームを行うのが定番らしく、短いストーリーでは1回で終わることもあるらしかった。話の内容は毎回異なっていて、それを考えて作るのが、DMの役割ということらしい。言ってみれば、1話読み切りのお話を考える感じ。

 

「で、今回はどんなクエストがあるんですか?」(ヒヨリ)

 

 冒険者のヒヨリとして、初めての質問。っていうか、私が質問しているのと、ほとんど同じだけど……。

 

「おっ、ひより、早速ゲームに馴染んできたじゃん」

 

「そ、そうかな」

 

 ちょっと照れる。鹿島先輩も、にこっと笑ってくれた。

 

「うん。色々あるけど、酒場のオヤジさんが勧めてくれたのは、『ネコを探して!』っていうクエスト。話によると、町に住む男の子の飼っていたネコが、野原で消息を絶ってしまったらしい。どうやら、近くの遺跡の地下に迷い込んでしまったんじゃないか、って話なんだけど……」

 

「ネコ探しかよー。それって冒険者の仕事ー?」(セッツ)

 

「何言ってんだよ、立派な仕事じゃん。ネコ、心配だろー」(アキラ)

 

「うむ、私としても、困っている少年を放ってはおけんからな」(カシマ)

 

 鹿島先輩、一人二役だ……。なんか大変そう……。

 

 ちなみに、鹿島先輩のキャラクターであるカシマは、金髪の女性で、背の高い騎士みたいなイメージらしかった。先輩曰く、宝塚っぽい感じとのこと。分かるような分からないような……。

 

「んで、報酬は? 報酬」(セッツ)

 

「また、カネの話かよ!」(アキラ) 

 

「やかまし。仕事は仕事やっからね」(セッツ)

 

「張り紙によると、依頼人の家族が、一人当たり10GPまで出すと言っているらしいね」(DM)

 

「10GPというと? いくらですか?」(ヒヨリ)

 

 つい質問してしまった。別に私のキャラクターは、部長みたいにカネに汚いわけじゃないけれど……。

 

「GPっていうのは、金貨のこと。10GPだから、金貨10枚ってことね。金貨1枚が、まあ、5千円くらいって所だから、一人当たり5万円の報酬」(アキラ)

 

「おー、ネコちゃん探して5万円」(ヒヨリ)

 

 ちょっと目がキラキラ。

 

「まあー、現実なら割りがいいのかもしれんけどね。でも、冒険者の世界じゃ、10GPなんてゴミみたいなもーん」(セッツ)

 

「カネの問題ではない。困っている少年を見捨てては……」(カシマ)

 

「それは、さっき聞いたー」(セッツ)

 

「とにかく、そのクエスト、やってみようぜ。ヒヨリはどう?」(アキラ)

 

「私も、いいと思う。なんか、楽しそうだし」(ヒヨリ) 

 

「よっしゃ、決まり!」(アキラ) 

 

 

 

 というわけで、私の初めてのD&Dは、ネコ探しの冒険ということになった。ちょっとイメージが違ったけど、かえってこのゲームに親近感が湧いてくる。迷いネコを探しに行くゲームなんて、そうそうあるもんじゃない。それが、D&Dなら普通にできる。やっぱりこのゲームって、色々凄い。

 

「んじゃー、行くか」(セッツ)

 

 部長がそう言うと、

 

「あ、ちょっと」(DM)

 

 鹿島先輩が割って入る。

 

 何だろうと思っていると……、

 

「席を立とうとするセッツに、酒場のオヤジさんが言ってきます。『ちょっと、エルフさん。飲み食いの勘定、ちゃんと払ってって下さいよ。銀貨で15枚です』」(DM) 

 

「んげ!」(セッツ)

 

 リ、リアルだ……。

 

「ちゃんと払えよ。飲み食いしたのは部長だろ」(アキラ)

 

 部長が泣く泣く、キャラクターシートから銀貨15枚を削除した。ちなみに、銀貨の価値は金貨の10分の1ということなので、合計7500円くらいの金額ということになる。どれだけ飲み食いしたの……?

 

 

 

 

 それから、皆で旅支度を整えて、いざ出発。目指すのは町から少し離れた小高い丘の向こうで、その先に、大昔の遺跡がポツンと建っているとのことだった。

 

 ちなみに、出発に当たって酒場のオヤジさんやお客さんに聞き込みをして、情報収集は済ませていた。鹿島先輩曰く、私達4人はまだこの町に来て日が浅いという設定だったので、町の周囲のことは詳しくないとのことだった。っていうか、そういう設定って、勝手に作っていいんだ……。やっぱりこのゲームって、自由。

 

 

 さておき、聞き込みの結果として、私達は以下の情報を入手することができた。ちなみに、真偽のほどは不明とのこと……。えぇー……。

 

 

・遺跡の地下はダンジョンになっていて、ゴブリン達が棲みついているらしい。

 

・遺跡の中で、巨大なイモムシを見たという噂がある。

 

・黒づくめのマントを着た謎の男が、遺跡の中へ入っていくのを見た者がいるらしい。

 

 

 ゴブリンっていうのは小さな鬼みたいな生き物で、群れを成して悪さをする、タチの悪い生き物らしい。そんなのが棲みついているなんて、始めに言ってよー、と言いたかったけど、今更予定は変更できなかった。しかも、イモムシとか、謎の男とか、何だか凄く物騒な感じなんですけど……。ネコちゃんが心配だ……。

 

「ネコちゃん、大丈夫かな……?」(ヒヨリ)

 

「大丈夫、大丈夫! 悪い奴らがいたら、あたしの弓でみんなやっつけてやるよ!」(アキラ)

 

「ネコをいじめる者は許さん」(カシマ)

 

 

 

 

「というわけで、皆さんは遺跡のある丘の上までやってきました。ちなみに、季節は春。空は上天気で、さわさわと心地いいそよ風が、草木を揺らしています。景色は平和そのもので、悪の気配は感じられません」(DM)

 

「まあ、町の近くだし、こんな所にとんでもない怪物は居ないだろ」(アキラ) 

 

「っていうか、もう目的地まで着いちゃったんですね……、なんか、早いというか……」(ヒヨリ)

 

「別に、移動の途中のことなんかは、飛ばしちゃってもいいんだよ。面白く無いだろ? 冒険の舞台になる所だけあれば充分! こういう融通が利く所も、D&Dのいい所な」(アキラ)

 

「な、なるほど……」(ヒヨリ)

 

 さすがというか、何というか……。

 

「んで、遺跡はー?」(セッツ)

 

「お、部長が動いた。珍し」(アキラ)

 

「やかまし」(セッツ)

 

「木々の向こう、30メートル位先に、崩れかけた石造りの建物が見えます。半分くらいが草に覆われていて、その真ん中部分に、黒い入り口がぽっかりと口を開けています」(DM)

 

「ザ・遺跡、って感じだな」(アキラ)

 

「よし、アキラ、先行って様子見てこい」(セッツ)

 

「ひでえ、捨て駒かよ!」(アキラ)

 

「レンジャーやろー。足跡でも探してこい」(アキラ)

 

「へいへい」(アキラ)

 

 こういう所も、何でも試すことができるというこのゲームならでは。コンピュータゲームとかなら、ただ単に「皆で遺跡の中に入る」とかいう流れになるんだろうけど、D&Dでは、その前に色々試すことが可能なわけだった。仲間が一人で偵察に行って、様子を見たり、足跡を探したり。リアルな実体験が可能なゲームっていうか……、芸が細かい感じ。

 

「遺跡の周りに、何かおかしな所とかないですか? 生き物とかは居ない感じ?」(アキラ)

 

 まずは、ざっくりとした質問から。

 

「生き物は小鳥くらいです。他には、特に目ぼしい物も無いし、何の問題も無いように見えます」(DM)

 

「んじゃあたしは、遺跡に近づいていって、周囲の地面を調べます。特に、入り口付近。足跡とか無いかどうか」(アキラ)

 

「それじゃ、『生存』判定でチェックしてみて」(DM)

 

「『生存』判定って何ですか?」(ヒヨリ)

 

 思わず尋ねる。

 

「キャラクターには色々な技能があって、好きな時に使うことができるんだよ。生存判定っていうのはその内の一つで、今回みたいに自然の中で何かを探したり、敵を追跡したり、なんていう時に使うやつ」(アキラ)

 

「技能は人それぞれで得意不得意があるから、慣れた奴にやってもらうのが一番。今回は、自然に慣れてるレンジャーのアキラにやってもらうってわけなー。ヒヨリやったら、クレリックやから、『宗教』判定とかが得意。そういう時には、ヒヨリに判定してもらう」(セッツ)

 

「な、なるほど、皆で協力って、そういうことだったんですね」(ヒヨリ)

 

 何だか変に感心してしまった。こういう風に、キャラクターの持っている技術をそれぞれの場面で使いながらゲームを進めていくのが、このゲームの基本的な流れらしい。それ以外の場面では、会話がメイン。会話しながらストーリーや展開を楽しんで、何かの判定が必要になった時には、キャラクターの持っている技術を使っていく。

 

 ゲームっていうから、もっと常に戦略とか考えながら他の人と競争するようなイメージだったけど、D&Dは全然違った。競争とかそういうものは一切なくて、本当に皆とわいわいおしゃべりしながら冒険を楽しむといった感じ。それで時々、さいころを使って判定をする。結果によって話の流れが変わってくるので、それに合わせて、また皆でわいわいとおしゃべり。例え状況が不利になったとしても、気にすることはない。不利な状況でも、その状況を冒険として楽しめばいい。なんだか懐が深いというか、本当に、私が知っているゲームとは全然違う。こんなゲームがあったのかと、今更ながらに驚いてしまった。

 

「あ、その前に、ちょっといいですか? あたしのキャラなんですけど……」(アキラ)

 

 あきらがそう言って、鹿島先輩に自分のキャラクターシートを見せる。 

 

「あたしのキャラ、レンジャーの特典として、『森林』に詳しいっていう特技があるんですけど。ここって森林ですか?」(アキラ)

 

 あきらのキャラクターのレンジャーは、ある特定の自然の地形の場所においては、普通よりも特別な能力を発揮することができるらしかった。その特定の地形として、あきらは『森林』を選択したらしい。他にも、『山岳』とか『海岸』とか、色々あるそう。

 

「ええっと……、森林ではなくて『草原』って感じなんだけど……、でも、結構、鬱蒼とした木々も生えてるし、ここは特別に、『森林』の扱いにしてあげましょう」(DM)

 

「やりい! これでボーナスが2倍になるぜ」(アキラ) 

 

「そ、そんな感じでいいんだ……」(ヒヨリ)

 

 結構、ルールがアバウト……。

 

「まあー、ルールなんてもんは、そんなに厳密にしなくてもええんよ。ルールなんて、ゲームを楽しむためのオマケみたいなもんー。ルールに縛られてゲームがつまらなくなったら、元も子もないやろー」(セッツ)

 

「そ、そうなんですか……」(ヒヨリ)

 

 うーん、まだ始めたばっかりなのに、色々このゲームの真髄を見た気がする……。

 

 

 

 それから、あきらが色々調べた結果……、遺跡の入り口に複数の足跡があることが判明。人間サイズの靴の足跡が4、5人分くらいあったけど、それが例の黒づくめの男の物なのか、それとも物見遊山で遺跡に入った誰かの物なのかは、分かりようもなかった。

 

 そして、一番重要な手がかりが。

 

 遺跡の入り口の隅っこの方に、遺跡の中に向かって、小さな獣の足跡が続いているのを見つける! 大きさや特徴から言って、ネコのものに間違いないとのことだった。

 

「実はイタチでしたー、とかいうオチじゃなかろうな」(セッツ) 

 

「んなわけあるか! あたしがネコの足跡を見間違えるはずがない!」(アキラ)

 

「とにかく、ネコの安否が心配だ。ゴブリンに骨まで食われないうちに、早く見つけよう」(カシマ)

 

「今、さりげなく怖い発言が……」(ヒヨリ) 

 

 

 

 いよいよ、ダンジョンに潜入!

 

 入り口から階段が下っていて、ほどなくして、地下の通路に出る。空気はひんやりとしていて、しっとりとした湿度があり、まるで洞窟の中にいるみたいな感じだった。カビ臭さもあって、どこか不気味な雰囲気を醸し出している……とのこと(鹿島先輩の説明によると)。

 

 このゲームのタイトルにもあるように、ダンジョンというのはこのゲームにおいては非常にポピュラーな舞台らしい。自由に動き回れる屋外と比べて、プレイヤーの行動はある程度制限されてくる。加えて、通路の先や部屋の中に何が待ち構えているか分からないぶん、ゲームとしての緊張感は増す。まさに探検といった感じで、D&D初めての私でも、やっぱりドキドキとするものがあった。

 

「当然だろうけど、灯りは無いやろ?」(セッツ)

 

「はい。遺跡の地下は真っ暗で、何も見えません」(DM)

 

「あ、それなら……」(ヒヨリ)

 

 自分のキャラクターシートを見ながら、思い立って発言。

 

「私が『ライト』の呪文を使います」(ヒヨリ)

 

 私のキャラクターのクレリックは、作成時に「光の領域」というものを選択していたので、周囲に灯りを灯す『ライト』という呪文を使うことができた。これはボーナスとしてもらえたもので、その他にも、味方に助言する呪文とか、敵を聖なる光で攻撃する呪文とかも使える。こういう色々な呪文が使える所が、クレリックの便利かつ楽しい所なんだそう。

 

「お、いいね。やっぱクレリックがいると助かるな」(アキラ)

 

「そ、そうかな? えへへ」(ヒヨリ)

 

 ちょっと嬉しい。なんか、仲間と一緒に冒険してるって感じで。

 

「ってか、部長は『ライト』使えんの?」(アキラ)

 

「あたしは『メイジハンド』以外、全部攻撃呪文だけでーす。便利系はヒヨリに任せるー」(セッツ)

 

「なんて陰険なウィザードだよ」(アキラ)

 

「やかまし。敵が出たら起こしてくれー」(セッツ)

 

「冒険中に寝るな!」(アキラ)

 

 な、なんか、大丈夫かな? この冒険者メンバー……。

 

 

 

 光を灯したので、ダンジョンの中も良く見えるようになった。灯りがあると、敵の方からも目立ってしまうことにはなっちゃうけど、こればかりは仕方がない。ちなみに、この遺跡に住みついているというゴブリンという怪物は、暗闇でも目が見えるとのこと。やっぱり、怖い生き物って感じだ……。あと、ネコも当然、闇の中でも目が見えるので、こっちの心配はしなくても大丈夫。

 

「通路をしばらくいくと、左側の壁にドアの無いアーチが開いていて、中は部屋になっているみたいです。小さめの部屋で、壁に何か色々並んでいるのが見えます」(DM)

 

「怪しいな。入って調べてみたいけど……。その前に、ネコの足跡は追跡できますか?」(アキラ)

 

 また『生存』判定。今回は完全に地下なので、『森林』による特典は得られない。なので、あきらは、ここは気合だけでさいころを振る。

 

「うりゃ! おっしゃ! 18だ!」(アキラ)

 

 良い目が出たみたいだ。さっきも判定をしたけれど、判定にはDMの設定した「難易度」というものがあって、それを目標にしてさいころを振るのだそう。能力が高ければ、さいころの目にプラスすることもできるので、場面に一番適した能力を持っているキャラクターが判定するのがセオリーというわけだった。ちなみに、目標の難易度はプレイヤーには秘密。

 

 結果を踏まえて、鹿島先輩の説明。

 

「猫は、あちこち走り回っていたみたいです。左の部屋の中にも続いていますが、また足跡が通路に出てきています。そのまま足跡は、通路の先の方へ消えていきます」(DM)

 

「部屋の中に入ってまた出てきたってことは、この部屋に危険は無さそうだな」(アキラ)

 

「いや待て待て。単に、危険だから逃げ出したってことかもしれん。油断は禁物やぞ」(セッツ)

 

「寝てたんじゃなかったのかよ」(アキラ)

 

「寝言」(セッツ)

 

「とにかく、何か手がかりがあるかもしれないな。ここは一つずつ調べていった方が賢明だろう」(カシマ) 

 

「わ、私も、カシマさんの意見に賛成かな……」(ヒヨリ)

 

 あきらと部長の二人に任せておくのは、何か心配だし……。

 

 

 

 部屋の中を照らして見渡してみると、周りを石の壁に囲まれた陰気な部屋だった。壁にはたくさんの棚が作りつけられていて、その上に、壺のようなものが一杯並んでいる。床には、ボロボロの木製の棺桶が一つ、無造作に置かれていた……って、棺桶!?

 

「なんか、いかにも過ぎる感じだな」(アキラ)

 

「アンデッドフラグ満載やねーか。棚のは骨壺やろ?」(セッツ)

 

「お、お化け出るってことですか? 私、お化けダメなんです!」(ヒヨリ)

 

「お化けダメって……、クレリックっていったら、お化け退治が専門だろ」(アキラ)

 

「そ、そこまで考えてなかったよ!」(ヒヨリ)

 

 私のキャラクターのクレリックは、聖職者ということもあって、やっぱりお化け退治が専門らしかった。レベルが上がると、お化けを追い払ったり、破壊したりすることもできるようになるらしい。でも、1レベルではまだそういうことはできないそうなので、ゲームを始める前にも聞いていなかった。そういうことは最初に言ってよー!

 

「まあ、まだ『出る』って決まったわけじゃないし。調べてみようぜ」(アキラ)

 

「いやいや、もう部屋出ようよ!」(ヒヨリ)

 

「お宝あるかもしれんぞ。一応見ておこっかねー」(セッツ)

 

「何かの手がかりがあるかもしれんし、ここは調べてみるべきだろう」(カシマ)

 

 うー、1体3……。というわけで、部屋を調べることになりました。

 

 お願いだから、お化け出ないで!

 

 

 

「取りあえず、いかにもな棺桶から見てみようぜ。ここは、部長の『メイジハンド』だろ」(アキラ)

 

「へいへい」(セッツ)

 

『メイジハンド』というのは、透明な魔法の手を出現させて、離れた所にあるものを調べたり動かしたりできる呪文とのこと。あんまり重い物は動かせないけど、木製の棺桶のふたくらいなら、動かして開けられそうとのことだった。って、開けるの!? 

 

「そんじゃ、ふたを開けまーす」(セッツ)

 

「いよっ! 待ってました!」(アキラ)

 

「なんで盛り上がってるの!」(ヒヨリ)

 

 そしてふたは開かれた……。

 

 

「棺桶の中には、干からびた骸骨が一体、横たわっています。ボロボロのチェインメイルを着ていて、胸の上には剣が乗せられています。どうやら、戦士の遺体のようです」(DM)

 

「やっぱり死体入ってた! 怖いから早く閉めましょう!」(ヒヨリ)

 

「まあ、待て待て。副葬品とか、金目の物があるかもしれんぞ。剣も、いいやつかもしれんし」(セッツ)

 

「それって、墓泥棒じゃないですかー! 罰が当たりますよ!」(ヒヨリ)

 

「冒険者なんて、基本、墓泥棒みたいなもーん」(セッツ)

 

「ええー!?」(ヒヨリ)

 

「まあ、否定はしないな」(アキラ)

 

 な、なんか、楽しい冒険のイメージが崩れていく……。 

 

 

 

「取りあえず、剣から調べてみよう。『メイジハンド』でこっちに運びまーす」(セッツ)

 

 ああー、やっぱり取っちゃった……。

 

「剣を持ち上げて、運ぼうとします。しかし……骸骨の手が動いて、その剣をがっしりと掴みました! どうやら、剣を取られて怒ったみたいですね。骸骨はそのままむっくりと起き上がって、棺桶から這い出てきます」(DM)

 

「だから言ったじゃないですかー!」(ヒヨリ)

 

「まあまあ、こんなのはD&Dじゃ良くあることだ」(アキラ)

 

「骸骨が怖くて財宝漁りは出来んってことやね」(セッツ)

 

「私を巻き込まないでくださいよー!」(ヒヨリ)

 

 というわけで……、

 

 戦闘開始です! やっぱりこのメンバーでの冒険……、不安でいっぱいだ……。

 

 私はネコちゃん探しにきただけなのにー! 

 

 

 

「というわけで、骸骨が襲いかかってきます。その手には、さきほど盗ろうとした剣が握られています。どうやら、やる気まんまんみたいですね」(DM) 

 

「そっちがその気なら、こっちも手加減しないぜ!」(アキラ)

 

「っていうか、こっちの方が先に手を出したんじゃ……」(ヒヨリ)

 

「まあまあ、骸骨にそんなこと言ってもしょうがないやろー」(セッツ)

 

「降りかかる火の粉は払わねばならん」(カシマ)

 

 

 

 まずは、イニシアチブ判定。キャラクター作りの時にも気になったけど、これは戦闘などでの行動の順番を決めるための判定だそう。素早く動ける人から順番に行動できるってことらしい。イニシアチブって、そういう意味だったんだ。 

 

「よっしゃ! 19! これは1番乗りだろ」(アキラ)

 

「私は3……」(ヒヨリ)

 

 判定の結果、あきらが一番。それから、鹿島先輩、部長、骸骨、そして……私の順。

 

 うう……ビリだ……。現実でも足が遅いのに、ゲームでも遅いとか……。

 

「まあ気にすんな。ダイス運が悪かっただけだよ」(アキラ)

 

 あきらがフォローしてくれたけど、やっぱりさいころの目が悪いと、くやしいな。

 

 

 次は良い目出してやるぞ!

 

 

「ダイス振るのって、気合い入るやろ? それもD&Dの面白い所なー。結果しだいで展開変わるとか、冒険してるって感じやし」(セッツ)

 

「は、はい。なんか……つい、力入っちゃいますね」(ヒヨリ)

 

「お。ひよりも段々、D&Dの面白さが分かってきたみたいだな」(アキラ)

 

「ま、まあ、なんとなく」(ヒヨリ)

 

「そのうち病み付きになるって。まずは、ちょっとずつ体験な」(アキラ)

 

 

 

 まずはあきらの行動から。まあ、聞かなくても分かるような気がするけど……。

 

「あたしは、骸骨を弓で攻撃します!」(アキラ)

 

 やっぱり……。

 

「おりゃ! あっと、低いな。8プラス5で、13。ギリギリかな?」(アキラ)

 

 敵を攻撃する時にはまず「命中判定」というのを行う。20面さいころを振って能力などを足し、結果が敵の防御力より高ければ命中。下回ったら外れ。とってもシンプル……。

 

「矢は骸骨に命中したよ。ダメージ決めて」(DM)

 

「おっしゃ、当たったか。確か骸骨って、アーマークラス13だったっけ?」(アキラ)

 

「こら、キャラクターの知らない知識を披露すな」(セッツ)

 

「ごめんごめん」(アキラ)

 

 アーマークラスというのは、敵の防御力のこと。そのデータをプレイヤーは知ってるかもしれないけど、実際に冒険しているゲームの中のキャラクターが知っているわけがないので、メタ発言というわけだった。

 

「高い目出ろ! 5か。合計8ダメージ」(アキラ)

 

「大分効いたようで、骸骨がグラつきます。でも、まだ立ったまま戦闘態勢を取っています」(DM)

 

「骸骨のヒットポイントなんて低いからなー。次の一撃で片付くやろ。カシマ、自分でとどめさしちゃってー。仲間割れー」(セッツ)

 

「自分もメタ発言してるじゃん!」(アキラ)

 

 骸骨はDMである鹿島先輩が操っているわけなので、それを自分の操るキャラクターで攻撃するという、わけの分からない構図に……。ま、まあ、人数少ないから仕方ないけど……。

 

「うむ、剣のサビにしてやろう。覚悟」(カシマ)

 

 セリフを言って、自分でさいころを振る。やっぱり大変そう……。

 

 

 結果、攻撃はすんなり当たって、骸骨はバラバラになってしまった。骸骨に罪は無かったはずなんだけど……、ホントに罰が当たりそう……。

 

 

 

「よーし、お宝お宝♪」(セッツ)

 

「棺桶の中も調べようぜ」(アキラ)

 

「だから、泥棒だよ! 鹿島先輩~、いいんですか?」(ヒヨリ)

 

「うーん、敵を倒して宝を探すっていうのは、冒険の基本だし……、しょうがないかな」(DM)

 

「ええー……」(ヒヨリ)

 

 もはや、慣れるしかなさそうだ……。

 

「働いたら報酬を得るのが基本やぞ、陽奈川」(セッツ)

 

「そういう問題じゃないような気がしますけど……」(ヒヨリ)

 

 

 

 結局、骸骨の持っていた宝を回収。宝石の付いたネックレスと、ブレスレット。それと、剣が一本。あきらと部長は、棚に並んだ骨壺まで開けて調べていた……。結果としては骨しか入っていなかったけど、罰当たりすぎでしょ!

 

 剣はただの普通の剣で、ボロボロで再利用は不可とのこと。なので、部長があっさり捨ててしまった。なんて現金な……。

 

 装飾品の方は、あとで町で売却するらしい。ちなみに、これだけでネコ探しの報酬よりも多いだろうとのこと。そんなんでいいの……?

 

「もうここに用は無さそうやな。さっさと次の宝を探しに行こか」(セッツ)

 

「宝じゃなくて、ネコちゃんですよー!」(ヒヨリ)

 

「まあ、ネコもお宝みたいなもんやからなー」(セッツ)

 

 

 

 

 そして一行は、再びダンジョンの中を進んでいく。通路をしばらく行くと、小さめの広間に出た。石の柱が四本立っていて、天井を支えている。広間にはそれ以外、めぼしいものは何も無いようだった。通路はそのまま右に伸びていて、その先は見えない。

 

「何も無しか。さっさと右の通路に向かうか」(アキラ)

 

「待て待て。柱の中に隠し金庫とかあるかもしれんぞ」(セッツ)

 

「どこまで、がめついんだよ」(アキラ)

 

「それより、ネコちゃんの足跡とか調べた方が……」(ヒヨリ)

 

「おお、いいこと言った。そうだな」(アキラ)

 

 というわけで、また足跡判定。しかし……、

 

 

「おりゃ! あちゃー、2かよ! こりゃダメだな」(アキラ)

 

 そうそう良い目が続くはずもなく。

 

「残念ながら、足跡は砂に呑まれていて、辿れませんでした」(DM)

 

「やっぱダメか。ここは通路を進んでいくしかないな」(アキラ)

 

 というわけで、私達は右の通路へ進む。その前に部長は柱を調べてたけど、結局何も無し……。

 

 と、その時……、

 

 

「通路を進む一行の前に、何か動くものが立ちふさがります。それはウネウネと動く、巨大なイモムシでした!」(DM) 

 

「ホントにイモムシ出た!」(ヒヨリ)

 

「うーん、フェイクニュースだと思ってたんだけど、ホントだったか」(アキラ)

 

「それより……、これヤバくないか? あたし達、レベル1やぞ」(セッツ)

 

「あっ、言われてみれば。これ、ヤバいやつだ!」(アキラ)

 

 またまたメタ発言だけど、つまり、レベル1の私達にとってこのイモムシは強敵だということらしかった。ヘタをすれば、死人が出るクラスの強さだということで……って、そんなに強いの!?

 

「まさか、キャリオンクローラーじゃないですよね? グリックの方でしょ?」(アキラ)

 

 あきらが鹿島先輩に尋ねる。私にはさっぱり分からないけど、キャリオンなんとかいう奴だったら、相当ヤバいらしい。

 

「口から触手は出てないので、多分グリックだと思うよ」(DM)

 

「キャリオンだったら全滅してたかもな。でも、グリックでも相当強いぞ。誰か死ぬかも」(アキラ)

 

 死……、ひええ!

 

「しかし、ここでひき返すわけにはいかん。ここは、受けて立つのみ!」(カシマ)

 

「取りあえず陽奈川ー、回復呪文の用意しとけー」(セッツ)

 

「は、はい」(ヒヨリ)

 

 

 

 というわけで……、ピンチです!

 

 でも、ここで逃げたら冒険にならないし……、皆に頑張ってもらうしかなさそう。

 

 

 ネコちゃんへの道のりは険しい……。

 

 

                    TO BE CONTINUED……

 

 

 

 

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