本日、ぼうけんびより!   作:ゼルダ・エルリッチ

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4 ひとつの冒険の終わり。新しい旅の始まり。

 

 突如立ちふさがった巨大イモムシと対戦中! どうやらかなり危険な相手らしい。

 

 

 私の初D&D、初ピンチ!

 

 

 

「ここはイニシアチブばっちり取らないと、かなりヤバいぞ。コイツの攻撃は、油断したら即死もんだからな」(アキラ)

 

「取りあえず、物理攻撃、頼むー。あとは呪文でカタつけっから」(セッツ)

 

「任せておけ。援護を頼むぞ」(カシマ)

 

 そして運命のイニシアチブ判定。ここで相手に先手を取られるようなことになると、味方に死者が出かねないとのこと。よ、よろしくお願いします! 

 

 そして判定の結果……、

 

「マージかー!」(アキラ)

 

「ありゃ。これは運を天に任せるしかないな」(セッツ)

 

 イモムシが16で一番早かった……。続いて鹿島先輩、あきら、部長、そして……私の順。なんで二回連続で3が出るの! もうー、くやしい!

 

「イモムシは先頭のカシマに向かって突進してきます。距離が近いので、そのまま攻撃です」(DM)

 

「自分のキャラやし、ちょっとは手加減してやれよー」(セッツ) 

 

 またしても、自分で自分を攻撃するという図式に……。でも、戦闘のさいころは皆に見えるように振るので、ごまかしはできない。ここは本当に、運を天に任せるしかなかった。

 

「15。+4で19……。攻撃はカシマに命中……」(DM)

 

「マージかー! 確かグリックって、二回攻撃だよな」(アキラ)

 

「二回喰らったら死亡やな」(セッツ)

 

 正確にはすぐに死んでしまうのではなくて「死亡判定」というものを行うらしいのだけど、それでも早く手当をしないと危ないらしい。それに、死亡判定中のキャラクターが攻撃されるという危険もあった。つまりは、やっぱり相当ヤバいということ。

 

「カシマに9ダメージ。イモムシはそのまま、カシマを牙で攻撃します。……13。+4で17。カシマのアーマークラスは16なので命中……。5ダメージ入って、ヒットポイントゼロで気絶……」(DM)

 

「最悪のパターンだー!」(アキラ)

 

「あちゃー」(セッツ)

 

「やられちゃったんですか!?」(ヒヨリ)

 

 ちょっと、あっさりすぎないですか!?

 

「だからヤバいって言ったじゃん。これがダイス運の怖い所だよ」(アキラ)

 

 

 

 主力の戦士がやられてしまったので、後は三人で何とかするしかない。しかも、私はカシマの治療に当たらないといけないので、戦いに専念するのは実質二人ということになる。あきらと部長の二人……、これ、大丈夫ですかー!? 

 

 

「まあ、戦略立てていけば何とかなるやろ。まずはアキラ、弓でヒットポイント削れ。そのあと、あたしが『スリープ』使う」(セッツ)

 

「おー、なるほど。たまにはいいこと言うじゃん」(アキラ)

 

「やかまし」(セッツ)

 

『スリープ』というのは、文字通り相手を眠らせる呪文。ヒットポイントが高い相手だと成功しにくいけど、ダメージを負わせた後なら効きやすくなるということだった。とにかく、それで何とかして!

 

 

「よし、ここは何が何でも当ててやる! 弓で攻撃! おりゃ! よっしゃ! 16!」(アキラ)

 

「弓はイモムシに命中!」(DM)

 

「オッケー! ダメージは、9点!」(アキラ)

 

「よくやった。これなら『スリープ』も効くやろ。というわけで、『スリープ』使いまーす」(セッツ)

 

 判定の結果、結構ギリギリだったけどイモムシは眠ってしまった! やったー!

 

 

 

「よーし、陽奈川、カシマ起こしてやれー」(セッツ)

 

「はい。じゃあ、『キュアウーンズ』使います」(ヒヨリ)

 

 クレリックの真骨頂を発揮。回復呪文で、カシマが復活! ヒットポイントも7点回復して、元気を取り戻す。でも、まだ全快ではないので注意は必要。次にまた攻撃を受ければ危ないことに違いはないし。

 

「やっぱクレリックいると便利やわー。じゃあ今度はカシマ、イモムシに、とどめさしたれ」(セッツ)

 

「え? 眠ってるんだし、もういいんじゃないんですか?」(ヒヨリ)

 

 もう戦闘終了だと思ったんだけど……。

 

「まだ寝てるだけ。起きないうちに、始末せんとねー」(セッツ)

 

「危険な怪物なんだから、しょうがない」(アキラ)

 

 なんだか可哀そうな気もするけど、やっぱりしょうがないのかな……。

 

 結局、復活したカシマが攻撃を命中させて、イモムシを倒してしまう。寝ている相手には攻撃が当たりやすいうえ、クリティカルヒットと言って、ダメージも増加するとのこと。

 

 とにかく、だいぶ苦戦はしたけれど、危機を乗り越えることができました。ネコちゃんまで、一歩前進。

 

 

 

 

「やれやれ。危なかったな」(アキラ)

 

「『スリープ』まで使っちまったー。もったいない」(セッツ)

 

「まあ、助かったから良かったじゃないですか」(ヒヨリ)

 

「このカシマ、不覚を取ってしまった。助けてもらって感謝する、ヒヨリ殿」(カシマ)

 

「あ、いえ、そんな」(ヒヨリ)

 

 演技への対応には慣れないけど……褒めてもらえたのは嬉しい。殿……?

 

 

 

 そして、探検再開。思った以上に危険な所だということが分かって、みんな気を引き締めて進む。まだゴブリンにも出会ってないし、「黒づくめの男」という怖そうな人までいるって噂だし……。このまま進んじゃって大丈夫なのかな……? でも、ネコちゃん……。

 

 

「しばらく進むと、また小さめの広間に出ます。さきほどの広間と同じく四本の柱が立っていて、天井を支えています。さきほどと違うのは、その天井に穴が開いていて、その下の床に土や石が散らばっていることです。それから、正面の壁に大きな木製の扉があります」(DM)

 

「穴? どんな穴ですか?」(ヒヨリ)

 

「うん。直径は60センチくらい。何かが無理やり穴を掘って通ったような、そんな感じの穴だね」(DM)

 

「多分、さっきのグリックが出てきた穴じゃないか? 一応判定してみます」(アキラ)

 

 調べた結果、さっきのイモムシが通った穴にほぼ間違いないということ。また出てきたら嫌だから塞ぎたいけど、手が届かないので無理だった。

 

 と、そんなことをやっていたら……、

 

「そうこうしている内に、扉の向こう側から声が聞こえてきます」(DM)

 

 

『おい、グリックが倒されてるぞ!』 

 

『あの冒険者達が倒してくれた!』

 

『やっほーい!』

 

 

「何じゃ? 一体」(セッツ)

 

「皆さんには、その声がどうやら普通のものではないということが分かります。恐らく、ゴブリン達の声でしょう」(DM) 

 

「ゴブリン来た! でも、何か様子がおかしいけど」(アキラ)

 

「ゴブリンって、怖い生き物なんだよね? でも、喜んでるみたいだよ」(ヒヨリ)

 

「なんか、さっきのグリックがらみの話みたいやな」(セッツ)

 

 相談の結果、ここはとにかく、話を聞いてみることにする。ちなみに、ゴブリンは人と同じく共通語を話せるので、会話に問題は無し。

 

 

 

 話によれば、この扉の向こうはゴブリンの居住区になっていて、15人くらいのゴブリンが住んでいるとのこと。一週間くらい前、この広間の天井からグリックというイモムシの怪物が飛び出してきたので、避難のためにゴブリンたちは扉を締めきってしまった。グリックはゴブリンにとっても、恐ろしい存在だったらしい。そんな中、私達がやってきてそのグリックを倒してくれたので、喜んでいたとのことだった。

 

「なんか怪しいな。嘘なんじゃないのかー? 騙して、金品奪おうっていう」(セッツ)

 

「勘繰りすぎだろ。嘘だったら、わざわざ喜んで叫んだりしないよ」(アキラ)

 

「うむ、それにゴブリン達が、ネコのことを何か知っているかもしれん」(カシマ)

 

「そうですよ。ネコのこと聞いてみましょう」(ヒヨリ)

 

 今度はこっちが1対3。というわけで、ゴブリンに話を聞いてみることにする。

 

 

 

「ゴブリンは、『今、扉を開けますから』といって扉を開けてくれました。中を見ると、大きな広間になっていて、たくさんのゴブリンが生活している様子が見えます。部屋の隅には祭壇があって、ここはどうやら、昔の礼拝堂の跡みたいです」(DM) 

 

「礼拝堂に住んでるのか。罰当たりだな」(アキラ)

 

「まあ、ゴブリンに言ってもしょうがないやろ」(セッツ)

 

 墓泥棒は罰当たりじゃないんだろうか……、とは思ったけど黙っておく。

 

「お墓や礼拝堂があるってことは、ここは昔の寺院だったんですかね?」(ヒヨリ)

 

「お、鋭い指摘」(アキラ)

 

 

 

 それから、ゴブリンの長老という人がやってきて、私達に感謝の言葉を述べてくれた。あのイモムシのせいで、遺跡の入り口に向かう道が通れなくて困っていたとのこと。今は、やむなく、狭くて不便な裏口みたいなところから、むりやり出入りしていたらしい。

 

 ゴブリンというのは本来、私が話に聞いた通り悪い生き物だったのだけど、こんな風に感謝されたらもう手出しもできなかった。これはかなりのレアケースらしいけど、まあ私としては、戦わずに済めばそれに越したことはないし。

 

「それで、ゴブリンはネコのことを何か知ってますか?」(アキラ)

 

「まさか、もう食べちゃったとか?」(セッツ)

 

「縁起でもないですよ!」(ヒヨリ)

 

 

「長老が言うには、そのネコなら、黒の魔法使いが抱いている所を見たと言っています。多分、魔法使いが連れていったんじゃないか? とのことです」(DM)

 

「黒の魔法使い? それって、黒づくめの男のことじゃん」(アキラ)

 

「おいおい、黒づくめまでちゃんと居るんかい。噂、正確やなー」(セッツ)

 

「怖い人ですかね? ネコちゃんが心配……」(ヒヨリ)

 

 

 話を進めると、その黒の魔法使いという人物は、ネコを抱いたまま、私達が通ってきた通路の最初の広間の辺りで、壁の向こうに姿を消したとのこと。魔法使いについての情報はほとんどなくて、ゴブリン達にとっても謎の存在だということだった。ゴブリン達も、ほとんど接点を持っていなかったらしい。

 

「壁の向こうに消えたってことは、隠し扉かな?」(アキラ)

 

「『ディメンジョンドア』かもしれんぞ」(セッツ)

 

「それって4レベル呪文だったよな。そんな強力な魔法使いか?」(アキラ)

 

「まあ、とにかく調べに行ってみるか」(セッツ)

 

 

 

 ゴブリンの居住区は礼拝堂の跡で行き止まりになっていて、調べるようなものもなかった。なので、私達は通路を戻って、魔法使いが消えたという広間に向かうことにする。

 

「その前に、グリック倒したお礼に、ゴブリン達から、いくらか貰おうかねー」(セッツ)

 

「えげつな! ゴブリンなんて、大した宝持ってないだろ」(アキラ)

 

「礼拝堂の宝を隠してるかもしれんぞ」(セッツ)

 

 

 結局、ゴブリン達が銀貨をいくらか、謝礼に渡してくれた。ゴブリン達は質素な暮らしをしていたので、これで精一杯とのこと。私はダメだと言ったけど、例によって部長がお金を受け取ってしまう……。

 

「これっぽっちか。苦労の割には報われんな」(セッツ)

 

「相変わらず、カネに汚ねえ……」(アキラ)

 

 

 

 それから私達は、最初の広間に戻った。それから皆で、辺りを捜索。

 

 最初は何も無いと思っていた壁を調べたら……、

 

「捜索の結果、突き当りの壁に隠し扉があることが判明しました。壁の継ぎ目に、上手く隠してあったみたいです」(DM)

 

「やりい! やっぱ隠し扉だったか」(アキラ)

 

「うーむ、壁の方やったか。あたしは柱しか調べとらんかった」(セッツ)

 

 そして扉は開かれる。

 

 

 

「扉を開けると、そこから暗くて狭い階段が下っています。階段は途中で右に折れていて、先の様子は見通せません」(DM) 

 

「これは、黒幕のアジトって感じだな」(アキラ)

 

「いざとなったら、魔法合戦と行こうかね」(セッツ)

 

「1レベルで勝てる相手だといいんだけどな」(アキラ)

 

「ネコちゃんを巻き込まないでくださいよ。できれば話し合いで……」(ヒヨリ)

 

 

 

 それから意を決して、慎重に階段を降りていく。階段を曲がった先は小さなホールになっていて、突き当りに木の扉が一つ付いていた。

 

「おお、いよいよ最終決戦か」(アキラ)

 

「だから、戦うって決めつけないでよ!」(ヒヨリ)

 

「まあ、相手の出方しだいだな。すんなりネコを返してくれればいいが」(カシマ)

 

 

 

「扉には木で作られた手製の看板が取り付けられています。それには、『魔法使いルーファスの研究室。ノックしてください』と書いてあります」(DM)

 

「『ノックしてください』って、フレンドリーかよ」(アキラ)

 

「やっぱり、悪い人じゃないみたいだけど……」(ヒヨリ)

 

「待て待て、相手を油断させる手口かも」(セッツ)

 

「どこまで疑うんだよ」(アキラ)

 

 

 

 取り敢えず、あきらが扉の向こうの物音を探る判定を行う。その結果……、

 

「……にゃーん」

 

 かすかに、ネコの鳴き声を聞き取れた! 

 

「やっぱり、この先にネコがいるみたいだ」(アキラ)

 

「よーし、取り敢えず、『マジックミサイル』の準備やな」(セッツ)

 

「だから、戦わないで下さいよ!」(ヒヨリ)

 

 

 

 そうこうしていたら、事態は思わぬ展開に。

 

 扉の向こうでバタバタと音がして……、

 

 バンッ! 扉が勢いよく開かれた!

 

「扉の向こうから、黒いローブに身を包んだ人物が現われます。それから開口一番、叫びました。『うるっさいなー! 研究の邪魔だよ! 何やってんの、さっきから!』」(DM)

 

「黒づくめ来たー!」(アキラ)

 

「そっちからやってくるとはいい度胸やな。イニシアチブ判定行くぞ」(セッツ)

 

「待って下さいよ、全然敵っぽくないじゃないですか!」(ヒヨリ)

 

 

 

 というわけで、(私の説得で)まずは話し合いから。何か事情がありそうな感じだし。

 

「その人物は名前をルーファスと言って、驚いたことに、若い女の子でした。黒づくめの男、というのは、フードを被っていたから良く見えなかったので、そう呼ばれていたみたいです」(DM) 

 

「女の子!? これは意外だ」(アキラ)

 

「てっきり、ワードナみたいな奴が出てくると思ってたんやが。営業時間は15時まで、とかな」(セッツ)

 

「古っ! 今の若者は知らんぞ」(アキラ)

 

「何でお前は知ってるんだよ」(セッツ)

 

「えと……、何の話?」(ヒヨリ)

 

 

 

 とにかく、話を聞いた結果、このルーファスという魔法使いの女の子は、魔法の研究のためにこの地下室を研究室として使っていたということだった。ここは誰も来ないし、静かでうってつけの環境だったらしい。そして……、

 

「部屋のソファの上に、探していたネコを発見しました! 気持ちよさそうに寝そべっていて、すっかりリラックスしている感じです」(DM)

 

「全然、懐いてるじゃねーか」(アキラ)

 

「無事で良かったよー」(ヒヨリ)

 

「お宝発見」(セッツ)

 

「お前には、ネコがカネに見えんのかいっ」(アキラ)

 

 

 

 話によれば、少し前に隠し扉のある広間でこのネコがうずくまっているのを見つけて、それで保護していたらしい。その内にすっかり懐いてしまって、ペットとして飼っていたとのこと。ミミーちゃん、という名前まで付けていたらしい。ミミーちゃん……。

 

「とにかく、ネコを返してもらおうぜ。そのネコは賞金のかかった迷いネコなんでー、かくかく、しかじか」(アキラ)

 

「こら、賞金のことは話すな。返してもらえなくなるかもやろ」(セッツ)

 

「部長みたいにカネ汚ない奴なんて、そうそういないって」(アキラ)

 

 

 

「話を聞いて、ルーファスという女の子がネコを抱いて言ってきます。『この子は私が見つけたんだから、返すわけにはいかないな。でも、どうしても、っていうなら……50GPでどう?』」(DM)

 

「カネに汚ねえ!」(アキラ)

 

「何て野郎だ。やっぱ『マジックミサイル』撃ってやろか」(セッツ)

 

「人のことは言えないような気が……」(ヒヨリ)

 

 

 

 結局、同じ魔法使いであるセッツの呪文を1つ分けてあげるということで、なんとか話がまとまる。魔法使いは皆「呪文書」というものを持っていて、覚えている呪文はそれに書いてあるのだそう。それを見せ合えば、お互いに呪文を交換できるとのことだった。

 

「ルーファスが、セッツの呪文書を見て言います。『なんだ君、1レベルなの? ろくな呪文がないなー』」(DM)

 

「おい鹿島、こいつ殴っていいか?」(セッツ)

 

「ま、まあ、ここは穏やかに……」(ヒヨリ)

 

 

 

 なんとか、ルーファスさんの覚えていなかった呪文が1つあって、それを譲ると言うことで収まった。『テンサーズ、ディスク』とかなんとか。ルーファスさん曰く、「こんな呪文、よく覚える気になったね。役に立つの? これ」とのこと……。その後、部長が「やっぱ殴らせろ、こいつ」と鹿島先輩に食いついていたけど……。

 

 

 

 そして、皆でネコを連れて町に帰って、一件落着! ネコの飼い主の少年は大喜びして、私達は賞金として、約束通り一人当たり10GPずつもらうことができた。

 

「あたしは別の損害があったんで、別料金もらいたいんやけど」(セッツ)

 

「ダメです」(DM)

 

「けちー」(セッツ)

 

 

 

 とまあ、なんだかんだあったけれど……、

 

「皆さん、お疲れ様でした。これで、このシナリオは終了です」(DM)

 

「いえーい! 大団円!」(アキラ)

 

 私の初めてのD&D体験は、これにて終了! 気が付けば、もう二時間近くが経っていた。でも、そんなに時間が経ったようには感じなくて、なんだか、あっという間だった。それだけ、熱中していたということなんだろうか? 

 

「何か、後味悪かったけどな。結局、殴れんかったし」(セッツ)

 

「殴っちゃだめです!」(ヒヨリ)

 

 

  

 最後に、私達のキャラクターは皆、「経験点」というものを得る。これはキャラクターの成長を表す点数のことで、これが一定以上溜まるとレベルアップということになる。これはRPGの定番って感じだし、私でも理解できた。

 

 基本的な経験点はゲームの中で倒した敵によって決まるのだけれど、それ以外にも、クエスト完了時にボーナスとして経験点を貰えることもあるのだそう。この分も合わせて、私達は次のレベルにあともう少しという所までの経験点をもらうことができた。

 

「なんや、まだ1レベルのままかー」(セッツ)

 

「まあ、今回は体験版って感じだったから、これで上出来だろ」(アキラ)

 

「うむ。冒険者の道は厳しいのだ」(カシマ)

 

 鹿島先輩、まだ演技してる……。

 

 ちなみに、クエスト完了のボーナス経験点というのは明確にはルールには無くて、DMが独自の判断で与えていいとのこと。やっぱり、アバウトな部分が多い……。

 

 

 

 

「どうやったー? 陽奈川ちゃん。初めてのD&Dは?」

 

 ゲームを終えて、部長が聞いてくる。

 

「……楽しかったです。なんか、思ってたのと全然違くて」

 

 正直な感想だった。なんか、「ゲーム」というよりは、本当に皆と一緒に楽しい時間を過ごしたといった感じ。皆で想像して、皆で考えて、皆で協力して。

 

 

 そして何より、皆でおしゃべりして、楽しんで。

 

 

 競争もなければ、勝ち負けもない。敢えて言うなら、皆で楽しむことができれば、それでゲームに勝ったと言えるような、そんなイメージ。

 

 

「そーか。それなら良かったー。ゲームは楽しむためにあるもんやからな。皆で楽しめれば、それが一番」

 

「おお、部長が珍しくまともなことを」

 

「やかまし」

 

 

 

 本当に、ほんの二時間、一緒にゲームをしただけなのに、もう皆と仲良くなれたような、そんな気がする。それは多分、同じ仲間として、一緒に冒険をしたから。

 

「それで、ですけど……」

 

 そんなことに思いを馳せつつ、自分の気持ちに問いかける。

 

 私の中で、何かが主張を始めていた。

 

 

 これで終わりにはしたくない、と。

 

 

 もっと、この世界を体験してみたい。

 

 もっと、色々なものを見てみたい。

 

 皆と一緒に、次の、新しい冒険の旅へ……!

 

 

 

 ……大袈裟かもしれないけれど。

 

 

「部活……、やってみてもいいかな、って。……いえ、何というか……、もっと体験してみたいです」

 

「おおー! ひよりー!」

 

 あきらが、ガバっと抱き着いてくる。

 

「わわ、ちょっと!」

 

 そんな私達を見て、部長と鹿島先輩が、にっこり笑って言ってくれた。

 

「もちろん、歓迎するぞー。改めてよろしくなー、陽奈川」

 

「また一緒にやろうね、陽奈川さん」

 

 

「は、はい。これからも、よろしくお願いします」

 

 

 自然と、私の顔が、ほころんでいた。

 

 

 

 

 こうして、私の高校生活の初日が終了。思っていたより大分違う感じになっちゃったけど、何だか今は、晴れやかな気持ちだった。

 

 

 室内冒険部かー、うふふ。

 

 なんかおかしな出会いだったけど、まあ、いいかな。

 

 

「まあ、なんにせよ、ひよりがD&Dに興味持ってくれて良かったよ。最初、なんか乗り気じゃなかったみたいだし」

 

 並んで歩きながら、あきらが言ってくる。家も近いし、私達はそのまま一緒に帰宅の運びとなった。

 

「まあ、説明だけじゃ、どんなものだか良く分からなかったし。でも、思ってたより全然楽しかったから」

 

 初めは色々不安要素が多かったけど、いざやってみたら、それもどこかへ吹き飛んでいた。私は人見知りする方だったけど、初めて会った人とでも、自然におしゃべりすることができたし。初めて会った人とでも自然に触れ合って、輪を繋げていくことができる。D&Dには、なんというか、そういう懐の深い要素も含んでいるような気がした。

 

「これからも、色々試していこうぜ。色んなキャラ作ったりすんのも楽しいし、慣れてきたら、自分でDMやるのもありだと思うぞ。あたしもちょっとだけやってみたことあるけど、DMって、プレイヤーともまた違った楽しさがあるし」

 

「へえー。でも、あきらがDMって、なんか想像できないな……」

 

 あきらが、かしこまって、敬語で皆をリード……。

 

「なんかトゲがあるような気がするけど?」

 

「いやっ、そんなことないよー。あはは……」

 

 笑ってごまかした。

 

 

 

「そーだ。ひより、ちょっと、寄り道してかない? 見せたい場所があるんだよ」

 

 しばらく歩いてたら、あきらが不意に言ってくる。

 

「見せたい場所?」

 

「すぐ近くなんだけど、山の上。まあ、行ってみれば分かるから」

 

 結局そのまま、あきらに促されてその後をついていく。案内されたのは、山道の途中に伸びた細い土の道だった。その道が、木や岩をかき分けるようにして、上の方に伸びている。

 

「この上だよ」

 

「ちょ、ちょっと、こんなトコ通るの?」

 

「すぐ着くから。さっ、歩け歩けー」

 

 

 すぐと言った割には、そのあと10分くらい登って、ようやく目的地に到着。

私の方は……完全にグロッキー……。日頃の運動不足を容赦なく痛感する。

 

 

「も、もう、ダメ……」

 

 膝に手をついて、ハアハアと息を吐く。

 

「やれやれ、ホント、ひよりは軟弱だなー」

 

 あきらが手を上げて、呆れたように言ってくる。

 

「あ、あきらと一緒にしないでよー!」

 

 運動はホント、ダメなんだってばー。

 

「んで、なんなの? 見せたい所って」

 

 周りを見ても、鬱蒼としたススキがびっしり生えているだけ。特に目を引くようなものもない。

 

「こっちこっち」

 

 あきらがそう言って、ススキをかき分けて進む。私も仕方なく、後についていくと……、

 

「ほら、ここだよ」

 

 

「うわー!」

 

 

 目の前に、目を見張るほどの眺望が広がっていた。

 

 

 麓の町も、遠くの山も、川の流れも、みんな一望できる。まるで、自分が空の上から町を眺めているかのような、そんな錯覚さえ覚えるほどだった。

 

 

「なっ、すごいだろ? あたしの秘密の場所」

 

「凄ーい。家の近くに、こんな所があったんだ」

 

 登りの山道はキツかったけど、それに見合うだけのことはあった。

 

「実はここ、昔、ひよりと一緒に来たことあるんだぞ。覚えてない?」

 

「えっ? 私が? ごめん、全然覚えてないや」

 

「まあ、小さい頃のことだしな。無理もないけど」

 

 

  

 この場所には大きな木が立っていて、あきらと一緒にその木の下へ。

 

「小さい頃、この木に登って遊んだよ。ひよりも誘ったんだけど、ひよりは、登れなくって」

 

「こんな大きな木、登るの無理だよー」 

 

「今でも登れるかな? よっ、と」

 

「ちょ、危ないよ!」

 

 制止も聞かずに、あきらが枝に手をかけて登っていってしまう。そのまま、太い枝に腰掛けて、足をブラブラ。

 

 

 

「昔はさー、ここじゃない、色んな所へ行ってみたいって思ってたよ。自分の知らない町や、山や、海。そんなこと想像して、胸をわくわくさせてたな」

 

 遠くの景色を眺めながら、あきらが話し始める。

 

 

「だからあたしって、D&Dが好きなんだよな。D&Dなら、どんな遠くにでも、どんな所にでも行ける。どんなキャラにもなれるし、どんな冒険でもできる。まあ、たかがゲーム、って言われちゃったら、それまでなんだけどな」

 

 

 そういって、あきらは「にゃははは」と大きく笑った。

 

 その笑顔に、私の気持ちが、ほっこりと癒される。

 

「なんか、分かるような気がするよ。いかにも、あきらっぽいし」

 

「なんか、トゲがあるような気がするけど?」

 

「あははは」

 

 そのまま、二人で一緒に笑いあった。

 

 

 

 

「そーだ、ひより。ひよりって、イラスト好きなんだろ? んじゃさ、キャラクターのイラスト描いてみたら? 楽しいと思うぞ」

 

 秘密の展望台を後にして、再び家路についたところで、あきらが言ってくる。

 

「えっ? キャラクターの?」

 

「そうそう。キャラクターシートって、実は2枚あって、2枚目の方にはキャラクターの外見を描く所があるんだよ。あたしなんか、絵ヘタだし、めんどいし、ほとんど描いたこと無かったんだけど」

 

 キャラクターのイラスト! そんなのあるなら最初に言ってよ! 

 

「それは是非描いてみたいよ。そうだ、あきらと部長と、鹿島先輩のキャラクターも描いてみていいかな?」

 

 思わぬ所に、D&Dの別の楽しみを見い出してしまった感じ。

 

「おお、いいね! ゆかり姉と鹿島先輩も、あんまり絵得意じゃないみたいだし、喜ぶと思うぞ。そうそう、それなら、そのままその絵をキャラのコマにしちゃおうぜ!」

 

「コマ?」

 

「戦闘の時とかに使うやつ。ひよりのイラストで、オリジナルのコマが作れるじゃん」

 

 私のイラストで、オリジナルの……。

 

「おー、それいい! じゃあ、描いてみるよ」

 

「なんだか、もっとD&Dが好きになりそうだな」

 

「そうかも♪」

 

 

 

「折角だし、このままウチ来ない? ウチでイラスト描こうよ。D&Dの本もあるし」 

 

 そのまま、あきらに誘われる。

 

「おー、そうだね。じゃあ、ご飯食べてから……」

 

 もうお昼過ぎ。道理でお腹もすくわけで。

 

「いいって。ウチでごちそうするよ! ウチ、軽食もやってるから、色々あるぞ」

 

「えっ、いいの?」

 

「遠慮すんなー」

 

 

 

 そのまま、あきらの家のカフェでご飯をごちそうになる。お手製のスモークハムとチーズをはさんだバゲットのサンドイッチに、ケーキにコーヒー。

 

「えっ! なにこれ美味しい!」

 

「だろー? にゃははは」

 

 

 

 食後は、あきらの部屋でD&Dのイラスト制作。

 

 私のキャラクターに、あきらのキャラクター。

 

 摂津部長と鹿島先輩のキャラクターも。

 

 

 かわいくデフォルメして、コスチュームも考えて……。 

 

 やっぱ、楽しい~♪

 

 

「おおー、上手いなー、ひより。さすが」

 

「そ、そうかな? えへへ」 

 

 よーし、次の冒険では、このイラストのコマを使うぞー。

 

 D&Dに、イラスト。

 

 なんだか、2倍の楽しさだ。

 

 いいなあ、D&D♪

 

 

「ひよりひより、じゃあさ、次はこれのイラスト描いてよ」

 

「えっ、なになに?」

 

 イラストなら任せて! そう思ってたら、あきらが一冊の本を取り出して、表紙を私に見せてくる。本のタイトルは、『モンスター・マニュアル』。

 

「じゃーん! ビホルダー!」

 

 ひええ! 目玉のお化けー!

 

「だからー! それ怖いから見せないでよー!」

 

「ありゃ? まだダメだった? もう慣れたと思ってたのに」

 

「もうー! 折角楽しい気分になってたのにー! あきらのバカー!」 

 

「やれやれ、困った奴だなー」

 

 

 

 D&Dのことを少しずつ分かり始めて。でもやっぱり、まだまだ馴染めない部分はあるみたいで……。

 

 でも、それも含めて。私は、このゲームのことが好きになってきていた。

 

 

 D&Dなら、どんな遠くにでも、どんな所にでも行ける。どんなキャラにもなれるし、どんな冒険でもできる……。

 

 

 この先、私はいったい、どんな冒険をすることになるんだろう。

 

 

 このゲームが、私の高校生活に彩りを添えることになるのは間違いなかった。

 

 期待を胸に、私の高校生活は始まったばかりだ。 

 

 

 

 今日も、明日も、ワクワクに思いを馳せて、 

 

 そう、

 

 

 本日、ぼうけんびより!

 

 

 

 

 

 




まだまだ続ける予定でしたが、力及ばず。

D&Dの楽しさを伝える一助になれましたら幸いでございます。


興味のある方は、スターターボックス辺りから始めてみてはいかがでしょうか?


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