皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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日常回なので短め
評価が1000超えてお礼言わなきゃ……て思ってる間にどんどん伸びて改めてありがとうございます。

いつも書き上がった後軽く見直して上げてるので誤字多くてすみません……。いつも誤字修正ありがとうございます


踏まれども、踏まれども

 新学期が始まった、始まったとはいえ学園的には連休が有った程度の感覚だ。レースもなんだかんだいつもどおりあるし、人によってはダービーが大みそかだ、なんて言う人までいるぐらいだ。

 それでもやはり新年ということで心機一転新しいことを始めたり、決意を新たにするのにはちょうどいいタイミングだ。そんな中私といえば

 

「だあああ! これ考えたやついつか殴る!」

 

 代わり映えのしない学園のコースでバカみたいにでかいタイヤをひたすら引いていた。

 

「勝負の時は夏以降。それまではパワーを中心に基礎能力から徹底的に鍛え直す」

 

 そんなトレーナーの宣言から始まった基礎トレ地獄。昨日は坂路、今日はタイヤ引き、明日はひたすら走ってフォーム維持の特訓。

 こんなことをしてはいるけど能力を上げるだけではあいつに勝つことはほぼ不可能らしい。実際競った私の感覚としても認めたくはないが同感だ。あいつは奇をてらうなんてことをしない。ずば抜けた身体能力でお手本とされるレースをして面白みもなく勝っていく。相手にすればこれほど嫌な相手はいない。なにせ付け入る隙がない。きれいなスタートからいい位置で先行し、スタミナをしっかり残して周りより速い速度でのスパートをかける。こんなのにどうやって勝てばいいのか。で、トレーナー曰くタイムアタックではなく多人数でのレースを活用するしかないとのこと。そこだけ切り取ればまぐれを待つような消極的なものに聞こえるが多人数で走るということはある意味でレースの本質であるというのが持論らしい。確かに速さだけを、タイムだけを求めるのであれば陸上競技の短距離のようにレーンを決めて走るべきだ。そうでないならば紛れによる勝利もまた正しい勝利なのかもしれない。

 

「そもそも紛れが起きないような走りをするあいつに対してもそうなの?」

 

「もちろんだ、シンボリルドルフのレースは確かに順当な結果になりやすい。彼女がレース全体をコントロール出来ている部分もあるのだろう。だが、レースに絶対はない。それだけは確実に言える」

 

「なら神頼みでもしに行く? ウマ娘の巫女がいるって噂の場所知ってるわよ」

 

「神頼みもいいがその前に今のままではラッキーが起きても君の走りでは勝つことは厳しい。まずはそれを取りこぼさないように能力の底上げからだな」

 

 私の現状ではあいつが転けるでもしないと勝てないらしい。泣きそうだ。いや、あいつのことだ、転けたのが序盤とかなら巻き返してきそうで恐ろしい。

 それはともかく当面はひたすら基礎トレ地獄で1~2ヶ月に一回ぐらいの頻度でレース勘忘れないためと大事なレースで除外されないために出走するってスケジュールになるみたい。基本はOP戦、場合によっては重賞も、みたいな予定だ。これ聞いて思ったのは重賞もほぼ出ない状態の私の専属でい続けてくれるトレーナーには頭が上がらないなと。普通であればもう一人ぐらい担当持つもんじゃない? 芽が出なかったらトレーナーの評価がやばいんじゃない? て聞けば

 

「安心しろ、そのうち皇帝を打ち倒したウマ娘のトレーナーになって評価も上がる予定だ」

 

 そう真顔で返されてしまった。あれは冗談でも私のモチベのためのおべっかでもない、本気の顔だ。多分私なら出来る! じゃなくて無理矢理にでもそこまで持っていくつもりなんでしょうね。ああ、さらば私の青春よ……、愛すべきは坂路とタイヤの乙女になってしまうのね……

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングも終わりなんとかちょっとだけ回復した私は遅めの晩ごはんを食べるために食堂に来ている、来ていたんだけど

 

「無理……、これは無理……」

 

 指示されたメニューを眺めながらご飯を食べるための覚悟が出来るのを待っている。きっついトレーニングの後でガッツリ食べようものなら乙女の尊厳が無くなってしまう。けれども食べることもトレーニングだと、それなりの量を食べないといけない。今目の前に料理が出てくるだけでもヤバそうなので水の入ったコップを前にして何も出来ないでいる。よく食べられることもまた才能なんて聞いたことがあるけどいま実感できたわ。

 無為な時間を過ごしていても何も改善しないと諦めてご飯を取りに行こうとする、これ以上時間が遅くなるとお風呂も寝るのも遅くなってしまう。

 結果なんとか乙女の尊厳は守られたけど、疲労による眠たさと、満腹からくる苦しさでベッドの中で延々と苦しめられてしまった。これも全部あいつのせいだ……。この恨みはらさでおくべきか……

 

 

 授業も本格的に始まって、授業の中でも本格的にそれぞれの路線に分かれての講座も増えてきた。しかし気になるのは

 

「中長距離の講座がこんなに少ないのも珍しい」

 

 担当の教官の言葉が気になった。確かにただでさえ少ないクラスがより寂しく感じてしまう。ざっくり分けて、レースコースに在籍している人数を中長距離、マイル短距離、ダート、障害と四等分だ。しかし聞いた話によると例年だいたいは中長距離が一番人数が多いらしい。しかし私達の世代は逆にここが一番少ない。それも見るからにだ。まあ、原因なんていくらでもあるだろう。決してあいつ一人のせいでこうなったなんて思いたくもない。

 講座といっても全員で受けるのは基本的なことや怪我への対処などが主で実際のトレーニングに関しては担当が付いているウマ娘はそれぞれで行うものが多い。ということで私もトレーナーのもとへと向かう。

 

「ん?」

 

 だけども指定の場所に着いても影も形もいやしない。この時間はトレーナーがつくと言っても正式な授業時間であり、あの人がいないと出席点が無くなってしまう。なにか用事があるなら連絡が入っているかもしれないけどあいにく私物は全部教室だ。教官に相談しても向こうは向こうで忙しいみたいで、とりあえず待機しておくように言われてしまった。流石に出席している授業中にフラフラするわけにもいかないし、そもそもどっかに行って入れ違いでトレーナーが来たら怒られ間違いなしだ。どうにも手詰まりで近くの木陰に腰を下ろして時間がすぎるか、待ち人が来るかを待つしかなさそうな感じ。

 少し時間が経っただろうか、体感的には結構経ったけど時計を見れば五分少々、こっちに近づいてくる足音が聞こえてやっと来たかと立ち上がってこっちにいるぞと手を振ったが

 

「君も待ちぼうけか、お互い大変だな」

 

 今日の私はマチビトキタラズなようだ、笑ってないせい? 最近、というか鍋つついてからやけに馴れ馴れしいこいつに手なんか振ってしまったことに後悔する。

 

「あんたはお呼びじゃないの、さっさとそっちのトレーナーんとこ行ったら?」

 

「つれないな、言ったじゃないか。私の方のトレーナーも不在でね。連絡を取る手段もないし目の届く範囲で探していたら君を見つけてね」

 

 どうやら謎の貧乏くじは二人分有ったらしい、いやこいつがいるせいで私のほうが大貧乏くじとでもいうのか。流石にここで無視するのも、踵を返して遠ざかるのもなんか嫌だ。こいつに罪悪感なんてかけらもないけど私の気持ち的にね? 仕方がないからこいつと二人並んで木陰で時間をつぶす時間の続行だ。さてはて話し相手が増えたと喜ぶべきか、ストレスマシーンが増えたと悲しむべきか。

 

「私のトレーナーもマメな性格でね。連絡もなくこんなことをするとは思えない。ましてや教官も把握していないそうだし、なにか大変なことが起きているのかもしれないな」

 

「大変なことって何よ。小説か漫画の読みすぎじゃないの? どうせなんか仕事か予定忘れてたとかそんなもんでしょ」

 

「君は自分のトレーナーがそのような人間だと思っているのか。無論私のトレーナーに関してもだが」

 

「う……」

 

 二人共そんな人ではないと知っている以上何も言い返せない。よく考えなくてもここにいない人を悪く言ったみたいで流石に良くない。

 

「悪かったわね。あんたのトレーナーをバカにしたような言い方になって。バカなのはあんただけだったわ」

 

「分かってもらえて何より。後君に小テストも含めて点数で負けたことはなかったと記憶しているが?」

 

「その発言がバカなのよ、おバカさん」

 

 こいつのトレーナーを意図せずであってもバカにしたような発言をしてしまったこともあってしかたなく会話を続ける。

 

「そう言えば、先程教官がおっしゃっていたが今年は中長距離路線の人数が少ないみたいだな」

 

「そんなこと言ってたわね。まあ、そりゃそうでしょって思うけど」

 

「理由がわかるのか? 良ければご教授頂きたいな。もし良くないことがあるのであればなんとかしないといけない」

 

 そんなことを聞いてついこいつの顔をじっと見つめててしまった。自覚がないのか? いやどうだろうあり得るかもしれない。

 

「……ほんとに聞きたい? 多分あんたが聞きたくない内容よ」

 

「もちろんだ。私が嫌だからと逃げるわけにいかないさ」

 

 仕方ない、いや、そもそもこいつのために私が嫌な気分になる必要なんてないのに。

 

「理由なんて簡単よ。あんたのせいよ、あんたの」

 

「わ、私か?」

 

 どうやら予想外だったらしく割と焦った返答が返ってきた。こいつのことだ、自分を基準に考えてたんだろう。こいつが落ち着くまで待つのもめんどくさいしさっさと終わらせてしまいましょう。

 

「同期に無敗の三冠ウマ娘、しかも上の世代にも真っ向から勝つと来た。これから先何年現役でいられるかわからないけど同年代である以上ずっと立ちふさがる可能性がある。自分が目標にした重賞も調整目的に出走したあんたにかっさらわれるかもしれない。いえ、多分そうなるでしょうね。少なくとも菊花賞を勝っているあんたはどのレースでも走れる適正がある。それにあんたが出なかったら次はあんたがいないから勝てたなんてことを言われる。そんな地獄に付き合おうと思えるウマ娘が少なかったてこと。だったら路線を変えてでも結果を残したいって方に流れるのも無理のない話ね」

 

「い、いや、だが、ウマ娘であるのなら勝ちたいという本能があるはずだ。それを曲げてまで適性外かもしれない路線に進むなど……」

 

「だからあんたをぶっ倒したいって残ってるやつも例年より少ないとは言えちゃんといるじゃない。そうじゃないのは……あんたが、いや、あんたの走りがそこまで入念に心を折っちゃったのよ……」

 

 この世の終わりのような絶望をした顔のまま動かないでやんの。全てのウマ娘に幸福を、なんて考えてるやつが自分が原因で他のウマ娘の道を閉ざしていたなんてそりゃ心に来るでしょうね。

 

「負けたのならば次は勝つと、そう奮い立つものではないのか……?」

 

「そりゃ次があるやつはね。あっちで教官と走ってる皆には次がない子もいる。次が有ったとしてもそんな簡単にリベンジに燃えれるほど皆強くはないし、あんたは強すぎたの」

 

 こいつが今の所唯一負けたジャパンカップも今となってはカツラギエース先輩が強かったのではなくこいつが無茶なスケジュールで調整に失敗したからって論調が強い。その後の有の結果も背中を押してるんだろう。

 

「私と走ることが不幸であるならば、いっそのこと……」

 

 また、気がつけば私の右手は振り抜かれていた。最近この流れ多くない?

 

「血迷ったこと言ったらぶつからね」

 

「すでに殴った後じゃないか……」

 

「あんたはあの子のことをよくあることと言い切った。そんなあんたが自分が原因だからって落ち込むなんて、悩むなんて絶対に許さない。そんな権利なんてあんたにはない」

 

「君は……、いつも厳しいんだな」

 

「私は優しいわよ。あんた相手だといつだって売り切れてるだけ。いい? もっと偉そうに、もっと不遜にふんぞり返っておきなさい。そうしないと私があんたを倒した時に楽しめないじゃない」

 

「ああ……そうだな……、そう在るしかないんだな」

 

「勝手に人の意見に相乗りしないでくれる? それにあんたが情けない結果を出すとそんなバカにすら勝てなかった私達までバカにされるの。いい? 認めたくないし、嫌だし、考えたくもないけどあんたは私達の世代の顔なの。ならその責任を果たさないと許さない」

 

「ああ、ああ。約束しよう。私は強くあろう。皆の模範で目標であり続けよう」

 

「G1勝利すら手段だなんて、皆の夢にドロ引っ掛けるようなこと言ったんだから根性いれなさい」

 

 鐘の音が聞こえる。結局私達のトレーナーは来ずじまいだ。最後の点呼で集まった時あいつの頬が赤くなってるのを教官に言われあいつがこっちを見ながらどう答えようか悩んでいたから優しい私はサボって寝た跡です、て言ったら二人まとめて後片付けを言い渡されてしまった。理不尽。

 

 そうそう、トレーナーが遅れた理由だけどどうやら緊急の会議が有ったみたいだ。流石になんの会議かは教えてくれなかったけど授業ほっぽりだすほど重要なことってなんだろうね?

 




ネタが切れてきた……
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