「そのシンボリルドルフから伝言だ。今日一日感謝祭の準備で生徒会室に籠もっているから意見があるなら待っている、だそうだ」
「……ねえ、本当に断れないの?」
答えなんか分かっていても聞かずにはいられない。
「ああ、以前の件で君が結局表に出なかったから君の言葉がないまま処罰が下った状態だ。結果学園にも批判が出始めている。それで君の考えを話す場が必要と考えた上と、君に不利のない発言の出来る場が必要と考えた学園で考えが一致したってことだ。諦めろ、なんて言いたくないが今回は君を思ってのことだ。よろしく頼む」
「ならなんであいつが出てくんのよ。せめて一人か、他の子なら良いけど何が楽しくてあいつと話さなきゃいけないのよ。それこそ私が好き勝手にやったら学園の品性とやらが落ちるわよ」
「君だけだとどうしても知名度が弱いからな。話題の中心であり、有名なシンボリルドルフが同席することで世間の注目度も上がる。それに知らなかったとはいえテレビで中指立てた君だ、今更だろう。俺としても今回の件は受けるべきだと思っているし、君に相談するとこじれるから学園には了承の返事をしている」
「あ……が……キレそうだわ……」
これはどうやら逃げ道なんて最初から無かったみたいだ。トレーナーも話し始めは心苦しそうにしてた割には事後承諾なんて。そりゃ考えればきっと私にデメリットはないし、それどころか自分のフィールドで弁明の場を貰ったようなものだ。強いて言うなら私の胃がねじ切れる危険性があるぐらいだ。
「ああもう、分かったわ。トークショーの件受けさせてもらうわ」
「済まないな。で、今日はどうする。予定通りなら軽いトレーニングだが?」
考える。このままあいつの所へ行くのも見透かされていたようで気に食わない。だけど何も言い返さないのもそれはそれで腹が立つ。それに
「死ぬほど嫌だけど多少の事前打ち合わせもいるだろうし、バカの所行ってくる。悪いけど今日はトレなしでお願い」
トレーナーから了解を貰って目的地に走り出すけど、最後笑ってたの見逃してないからね。今度しっかりとオハナシしないといけないようね。
「ここに来るのは二回目ね、次はあいつが関係ない平和的な理由でお願いしたいわ」
来たくもない生徒会室前までやって来た。季節も春になり軽く汗ばみそうな時期になっている。そろそろ半袖に衣替えすべきかな、なんて現実逃避もここまでだ。出来ることならストレス発散に蹴破ってやりたいけど、この扉どう考えても重すぎるやつでしょ。これまともに蹴ろうもんなら普通に怪我しそうだ。いつだって沈着冷静な私はそんな愚行をするわけもない。
今日であれば来ていいと言われたけど中に教師でも居て余計な小言を貰いたくないしまずはノック一つ。あいつの声で入室を促されたので深呼吸一つして、気持ちを落ち着かせてから入室する。
「ねえ、どこぞの自分勝手なバカがなんの断りもなしに厄介事持ってきたの。どうにかしてくんない?」
「そろそろ来る頃だと思っていたよ。かけると良い。さて皆も一度休憩にしよう。彼女がいる内は仕事にならないだろう」
こんちくしょうは……! 嫌々ながら部屋に入れば思ったより大人数で作業をしていたようだ。随分と前に睨まれた副会長二人に来年から寮長をするって挨拶があった日焼け? した長髪の子と短髪で女の子にモテそうな子の二人もいた。名前なんだっけ? まあいい、それは本題じゃないし。
腰を下ろして待ってるとあいつが飲み物を入れていた。短髪の方の副会長が自分がやると言っているがあいつは譲らない。偉そうな肩書なのに腰が軽いこって。なんて思ってたら目の前にコーヒーが置かれた。周りは氷の入ったアイスコーヒー、そうね。今日結構暑いもんね。で、再度自分の目の前を見返せば
「ねえ、なんで私だけホットコーヒー、しかもこんな熱々なやつなの? 嫌がらせにしては陰湿過ぎない?」
「申し訳ないが君の好みを知らないのでな。私の好きな淹れ方にさせてもらった。それにどうも今の君に冷たい飲み物を渡すと気がつけば私が頭からかぶる事になりそうでな」
はっはっは、なんて楽しそうに笑いながら自分はしっかりアイスコーヒーを飲んでいる。
「せ、先輩……、アタシが冷たいの淹れようか?」
後輩が冷や汗をかきながら言ってくるが手で止める。
「結構よ。どうせぶっかけるならせっかく用意してもらった熱いやつの方が良いでしょ」
そう言ったら固まってしまった。あいつは相変わらず楽しそうにしてやがる。本当にかけてやりましょうか……
「さて、早速だが本題に入ろうか。今回は感謝祭での私とのトークショーに参加要請への苦情というところかな」
「その件はもういいわよ」
私の回答が予想外だったようでまた面白そうな顔になる。
「確かにトークショーなんて出るガラじゃないし、しかもあんたとなんて死ぬほど嫌だけど身から出た錆だし、今からひっくり返して私のために動いてくれたあんた以外に迷惑をかけるほどガキじゃないわよ」
「ほう、ではなんのために来たんだい?」
「いくらなんでも事前打ち合わせぐらいいるでしょ。んでどこぞのバカが今日なら時間あるとかいうじゃない」
「私のためを思ってくれてか。嬉しいな」
「はっ、あんたのこと死ぬほど嫌いだけどそれとこれとは話が別でしょ」
ニコニコしてるこいつを見ると今からでもひっくり返してやりたくなるけど我慢、我慢だ私……。
それから他の子は話に入らず二人で当日の流れなどを確認していく。トークショーといってもメインは事前に募集したものや、当日の観客からの質問に答えていくものらしい。でその中で一つ例の件に関しても質問を紛れ込ませておくらしい。それを使って私の考えを話せばいいとのこと。
「随分と私なんかのために大げさね。まあ良いわ。流れは分かったわ。他に連絡は?」
「ああ、大事なことを忘れていた。当日は勝負服で、だそうだ」
「は? 私自分の勝負服持ってないわよ?」
そうなのだ。皐月賞の頃は出れるかどうかも怪しかったので準備する時間もなく、ダービーまでは目の前のこいつをボコるために必死だった。それからはとんと必要な機会から遠ざかっている。だからいま私が準備できるのは学園で共通の勝負服だけだ。見るからに立派なこいつの横に並べて見世物にでもする気か?
「安心して欲しい。特例として君の分を優先して制作してもらう。だがこの時期はG1を目指して準備する子も多い。できれば今日明日中に案を提出してくれ」
こんのバカは……! そういう事は先に言いなさいよ! しかしレースに出るわけでもないのに勝負服準備、それも特例でなんてなんかちょっとあれよね。だけど今更文句言うわけにいかないし、さっさと帰って準備しましょう。
「あっそ、それだけ?」
「感謝祭に関してはもう一つ。今年からの催しで何人かのウマ娘に声をかけてエキシビションレースを行う予定だが、君も参加するかい? ああ、もちろん私も参加予定だ」
「会長!?」
「済まないエアグルーヴ。これは決めていたことでね」
なんか向こうで勝手に揉めてるがそっちは知ったこっちゃない。問題なのはレースが有って、それにこいつが出るということだ。であれば答えは一つしかない。
「迷惑料にしといてあげる。枠一個準備しておきなさい」
「そういうと思って手配済みさ」
こいつと走る機会なんてそうそうない。偶然重なった日経賞も身から出た錆で棒に振ってしまった。正式なレースでなくとも見逃すわけにはいかない。
「会長! 今の会長のスケジュールで更にレースなど無茶です!」
短髪の方の副会長が叫ぶ、なるほど私と話せる時間が今日しかないような忙しさなのだろう。その状態でエキシビションとはいえレースに向けての調整となれば物理的に無理な部分ばかりだろう。このバカのことだどうせ、そも全てのウマ娘の幸福のために必要なことだー、なんてほざくんでしょうね。虫酸が走る。
「あー、そのことなんだがね? エアグルーヴ、非常に申し訳ないんだが私の代理としてある程度仕事を任せてもいいだろうか」
何だ面白くない。ふざけたこと言うようならぶちまけてやろうとコーヒーカップを持って待っていたのに。仕方がないからやっと少し冷めてきたコーヒーでも飲んでおこう。
「そ、それはもちろん、こちらから言うべきことですが……何か有ったのですか、失礼ですが今までの会長でしたら仕事を他人に任せるなどしないように思えるのですが……」
「いやはや、私の無計画故に迷惑をかけて申し訳ない。ただね、たまには不躾な態度を取るものに私の実力というものをしっかり見せておかないとなんて思ってね」
言葉こそ後輩に話しているがその視線は私を捉えて逃さない。ふーん、良いじゃない。
「良いわね、私も最近大嫌いなバカに痛い目見せないといけないと思ってたのよ。丁度いいわ」
トレーナーには悪いけどまたトレーニング計画の変更ね。せっかくの降って湧いた機会だ、全力で使わせて貰いましょう。流石にこれ以上なにもないだろうと席を立つ。後はもう帰るだけ、そのはずだったんだけど
「最後にもう一つ。君を来年度からの生徒会のメンバーとして名簿に載せてもらう」
ふざけたことが耳に入ってくる。取り敢えず立ったまま相対し、机の裏に足をかけいつでも蹴り飛ばせるようにする。
「一回だけ弁明させてあげる。ふざけたことを言うのなら分かってるわよね?」
他の奴らが騒ぎ出すが無視する。立ち上がろうとした後輩を手で制しながらあいつは話し出す。
「今君は一人部屋になっているだろう? だが我が学園も意味もなくいつまでも空きを用意できるほどの余裕もなくてね、人数の関係で私達と違う学年になりそうだが、君の同室をつくる話が出ている」
「……それがなに?」
それはそうだ。今だって私が部屋を一人で使えるのは空きが出た後メンタルケアなどの理由で直ぐには次の入居者を入れないルールと、色々厄介事を引き起こしたせいだ。
「生徒会のメンバーになるとね普通の生徒では見れない書類を扱うことも、時間の関係で自室で作業することもある。そのため申請すれば一人で部屋を使用することが出来る。実際私はその制度を使って一人で部屋を使わせてもらっている」
なるほど……、なるほど? 確かにこいつの言うことは理にかなっているのだろう。この話を飲めば私にはデメリットよりメリットが大きい。だけど
「生徒会長様のあんたがそんなえこひいきしていいの?」
「なら、君を下の学年と同室にするわけには教育上良くないだろうし、仕方ない、私が同室になろう」
「幽霊以外やる気はないからね」
こいつと同室なぞ天秤にかけるまでもない。そんなことになったら、私は二週間持たない自信がある。してやったりみたいなこいつの顔をこれ以上見る気もないので何も言わずに部屋を出る。ああ、トレーニング計画より先に勝負服を考えないといけないのか……
そんな陰鬱な気持ちで廊下を歩いていると後ろから呼び止められる。振り返ればさっきもあいつと軽く揉めていたアイシャドウの後輩だ。
「なに?」
「質問があるのですが……」
何やら言いにくそうに聞いてくる。なんでも良いけどさっさとしてくれる? と先を促せば少し驚きながら聞いてくる。
「会長にどうすれば対等に見てもらえるのでしょうか? 以前もまるで我々は幼子のように扱われ、会長一人で物事を進められることが多くありました。それが最近では少なくなり、今日に至っては一度自分でやるとおっしゃられたことを覆して私に頼まれました。お願いです、どうすれば会長と対等に、もっと頼られるようになるのでしょうか」
ああ、めんどくさい質問だこと。だけどあいつのことであったとしても私を頼ってきた後輩をないがしろにするのも後味が悪い。アドバイスの一つでもしてあげましょうか。
「そうね、取り敢えず、本人が居ないのにそんな言葉遣いで扱ってる間は無理でしょうね」
意味がわからないなんて顔をされたけどこれ以上優しくする気もないしさっさと帰りましょう。
「申し訳ありません、先輩に聞きたいことがあるので失礼します」
エアグルーヴがそんなことを言いながら彼女を追いかけていく。きっと彼女からいい影響を貰えるだろう。
「しっかし、あの先輩、なんというかこう、すごい人ですね」
フジキセキの言葉に私以外が同意を示す。確かに彼女までの気性難は中々居ないレベルだろう。見慣れている私でも驚かされることも少なくない。
「確かにこう言うとあれだけど、あの先輩を新入生と同室にするのはちょっとはねえ……。予定通り一人部屋ってことにするけど、わざわざ生徒会に入れなくても良かったんじゃ?」
ヒシアマゾンの言う通り、実際は生徒会に入らずとも彼女が一人部屋を継続することはほぼ決まっていた。あの性格で問題を起こした直後だ。同学年ならまだいいかもしれないが、一人部屋のウマ娘がいない。強いて言うなら私になるが彼女は絶対に良しとしないであろう。
「なに、首輪の一つでもつけておいたほうが良さそうだったのでな」
「随分とあいつを気に入っているな、それに今日みたいなあんたは初めてだ」
ブライアンに言われて見回すが、どうやらここにいるメンバーだけでも全員そう思っているようだ。確かに生徒会のときと違ってクラスでいる時の様に少しはしゃいでしまったが、そこまで違うだろうか。ふむ……
「彼女の向こう
我ながらいい出来だと思ったのだが、返ってきたのは苦笑い二つと、頭を抱える一人であった。もっと精進しないといけないな。
『はーい! じゃあ、今一番ナウでイケてる二人に登場してもらいましょう!』
司会の紹介であいつと二人ステージに出る。しかし、流石にあいつが出るトークショーだけあって司会も有名ウマ娘が担当してるけど、その、先輩だけどその言葉のチョイスはどうなの?
そんなことよりちょっと観客の数多すぎない? まああいつは今をときめく有名ウマ娘だし、それはわかる。わかるけどちらほら私の名前を書いたグッズを持ってる人もいるってどういうこと? 去年の春以降重賞では全くいいとこなしなのに。
そんな疑問を考える間もなく、二人横並びに座らされる。今回ステージの上には私達二人と、司会が一人の三人だけだ。袖にはそれぞれのトレーナーが何かあった時のために控えているけど、出番が来るような厄介事なんて起きるわけがないだろう。
「君の勝負服を初めて見たが雅なものだな」
「どうせならレース場で見せたかったけどね」
今日が初お披露目になる私の勝負服。着物をベースに走りやすいように下半身をパンツルックにしている。いかにもな洋装のこいつと並ぶと比較されるようでなんか腹が立つ。
「君のその長いぬばたまの黒髪と艶やかな柄がよく似合っているとも」
褒められるのは嬉しいけど、こいつにってのが気に入らないから適当に無視して始まるのを待つ。しかし、座って正面を見ればやっぱり人が多い。まあどうせ殆どがこいつ目当てのファンで私なんて添え物ぐらいなもんでしょうけど。
『はいはーい、では二人の紹介も終わったところでまずは一つ目の質問、お二人はそれぞれ相手のことをどう思っているのですか? 皐月賞の時はなにか因縁めいたものがあるように見えました。ですって! じゃあ、まずはルドルフから!』
いつの間にか私達二人の紹介も終わっていたようで、早速一つ目の質問が司会からパスされる。てか、質問内容おかしくない? なんで二人組へ、みたいなのが来るのよ。
「彼女は私のことを一人のウマ娘として見てくれるかけがえのない友人であり、ライバルです。恥ずかしい話ですがジャパンカップの頃私が意地になっていたり落ち込んでいたときも彼女だけは私をただのウマ娘として叱咤激励をしてくれました。それ以外も私に足りない部分を教えてくれる得難い存在です。皐月賞の時も私の至らなさを身を張って教えてくれました」
「え、き……」
危ない、つい脊髄反射で気持ち悪いって言いそうになった。流石にこの場でそんなことを言っちゃいけないなんてぐらいはわかる。しかし、こいつやっぱり頭のネジ何本も飛んでるでしょ。それかなにか幻覚でも見てんじゃないの。で、観客も歓声を上げないで欲しい。こんな作り話を真実だと勘違いされては困る。
そんなことを考えていたら私の番らしい。皐月賞を含めたこいつとの関係ねえ?
「生徒会長にはいつもご迷惑ばかりおかけしていますね。皐月賞の時も私の身勝手な八つ当たりで迷惑をかけてしまいました。私からすれば友人などと呼んで良い人ではないと思っています」
おーおー、会場ヒッエヒエ。あんな回答したらそうもなるでしょうけど、ここで余計なこと言うと記録も残されそうだから気が抜けない。
あ? なによ、そんな顔で横から見てきたってあんたを友だちなんて言うわけないじゃない。
『え、えーじゃあ次の質問に行くわね!』
ほらー、司会も困ってるじゃないの。あんたが変なこと言うからよ。
それから質問に二つほど答えたけどあいつの答えで盛り上がって私の回答で微妙な空気になる。だから言ったじゃない。私なんかを出しても面白くないって。
「すまない、少し良いだろうか」
微妙な空気に行こうとした時にいきなりこんなことを言い出した。なにする気? と横目に見れば用意されていた水が入ったグラスを持っていた。何だ喉が乾いただけか。それぐらい勝手に飲みなさいよ。なんて視線を前に戻した瞬間ザワッ、と観客に驚きが広がったと思えばいきなり頭の上から冷たいものが振ってきた。横を見ればグラスを私の頭の上で逆さにしたままのあいつがいる。
「い、一応聞いてあげましょうか? なんのつもり?」
「いや、今日は天気もいいだろう? そんなに分厚い猫をかぶっていれば暑いだろうとおもっ」
あいつが言い終わるより先に自分のグラスの中身をあいつの顔にぶちまける。
「あっそ、じゃあお返しにその茹で上がった脳みそ冷やしてあげたわよ、感謝しなさい」
やった後に気づいた。会場全体がすごい空気になっている。そりゃそうだ。表面上は普通に回答していた二人がいきなりお互いに水を掛け合ったんだから。司会を見ればすごい顔のまま固まっているし、袖を見ればトレーナー二人大爆笑してるし。てかさっさと止めに来なさいよ。どう考えてもトラブルでしょうよ。
「うん、それでこそだ。私が好きな君は今の君なんだ。それに外聞を良くしようとしても今更だろう。さあ、マルゼン次の質問を頼む」
私が唖然としている間に血迷ったことを言って進めやがった。え? この空気で進めんの?
『えー、いや、ほんとにいいの? 予定ならここから会場からの質問を受けるんだけど、質問する人いる……?』
司会の先輩も困ってるじゃない。てか、こんな空気で質問する人なんかいないでしょ。なんて思ってた前の方で一つ手が上がった。驚きながら見ればその人はウマ娘で、学園の制服を着ている、ってクラスのやつじゃない!
『お、お二人は中々楽しそうな関係のようですが、ク、クラスではどんな感じなんですか?』
もうなんか突っ込むのも疲れたわ……。後せめて笑いそうになるのを隠しなさい。
「うむ、彼女はこの様に手が早くてな。覚えているだけでも二回は頬を打たれたよ。それ以外にも私に対してだけきつく当たることが多くてね、困っているんだ」
「そりゃ、あんたがバカみたいなことばっかりするからでしょ。人を暴力ウマ娘みたいに言わないでくれる? 後言葉遣いに気をつけなさい。手が早いだと私がやばいやつみたいじゃない」
「何、君がやばいのは周知の事実だ。安心しろ」
あんまりな言い方に殴りたくなるけどここで殴ってしまえばこいつの言うとおりになるので、ぐっと我慢するしかない。そんなことをしてたら観客の方からも笑い声が聞こえてくる。くそ、バカのせいで笑われちゃったじゃない。
『ふふ、こんなルドルフを見れるなんてね。さあ! 他に質問あるのは誰かな! 今ならご覧の通りいつもとは違うルドルフも見れるわよ!』
なんか司会も感慨深そうにしてると思ったら観客を煽りだすし、
『お二人の学生生活での失敗談教えて下さい!』
なんか質問内容もどんどん変な方向にいくしでやってらんない!
「彼女の失敗か、ああそうだ。少し前なんだがね。冬の寒い日だったことだ。彼女は寒いからと校則を無視してジャージの下を履いて登校してきたんだ。そして、ふふ、教室でコートを脱いだと思ったらスカートを履いて無くてね! あれは笑ったよ!」
「あ、あんた! こんな所でそれ言う!?」
「いや、あの時は君もあんな失敗をするんだと大いに笑わせてもらったよ」
「あんただって、この前前の日遅かったとか知らないけど寝ぼけて空っぽのかばんで来てたでしょ! あーさすがは皇帝様ね! 授業を受けるのに教科書すらいらないんだから!」
「な、それは秘密だと教室でお願いしただろう!」
「自業自得よ!」
気がつけば醜い暴露合戦が始まっていた。後日のアンケートではなぜか好評だったらしい。特に取り繕っていないあいつの学園生活が好評だったようで。私の乙女の尊厳は犠牲になったというのに。
そんなやんちゃが過ぎた頃、上がった手の方を見ればいつか見たクソがいた。
「いやいや、おふたりとも楽しく過ごしているようで。だけど一人は学園の品性を落とすような行動をして、一人は出る必要もない格下のレースに出て。他のウマ娘達が見ればなんて思うんでしょうねえ?」
どうにも私達から失言でも取りたいのかビデオカメラまで持ち込んできったない笑いを止めることも無く聞いてくる。横であいつが急に冷めたのがわかる。そのまま喋りだそうとマイクを取ろうとするけど、それより先にひったくって話し始める。
「どう思われようが知ったこっちゃないけど、少なくともあんたの性根よりはマシだから安心しな」
「へえ、それだけですかい?」
なおも続けてくるクソを無視して前を向いて話し続ける。
「確かにねこいつがG2のレースに出ようもんならまあ勝つでしょうね。見方によっては弱いものいじめにも見えるかもしれないわね。で、それがどうしたの。そんなのこいつが強いから当たり前じゃない。こいつはバカでマヌケだけどねこいつの走りは本物よ。後ろ指さされるとしたらこのバカに勝てない私達でしょうね。だけどね、私達だって蹂躙されるためにレースに出るわけじゃない。このバカに、他の誰にも勝つために走っているの。誰であろうと勝者の安らぎを邪魔することを許さない。誰であろうと敗者のプライドを踏みにじることを許さない。今ここにいる私達は走ることに全てをかけてるの。きっと社会に出れば足の早いだけの誰かになってしまうのでしょうね。でも、それでも、将来を天秤にかけてでも私達は走らずにはいられない。競わずにはいられない。それが私達の誇り。勝利も敗北も全てを愛して血を吐きながら、迫りくる誰かに怯えながら、それでも走り続けるしかない。それが私達の生き様。誰であろうとそれを汚すものがいれば私は絶対に容赦はしない」
言い切った後喉が乾いたと思えば、トレーナーが水を持っていてくれた。ありがたいんだけど、もっと前に止めるとこ有ったんじゃないの。グラスを一気に空にして視線を向ければ何も言えずにクソが悔しそうに立っていた。
「まだ居たの。目障りだからさっさとどっか行ってくれない? それとも優しいお姉さんでもいないと無理なのかなー?」
煽りながら私が指差した先にはウマ娘の警備員がこちらに向かってきている。それを見たクソどもは慌てて逃げるが、逃げ切れるわけもない。
「……改めて紹介しよう。私のライバルであり、誇るべき友人である彼女のことを」
なんか急にあいつがクッサイこと言ったと思ったら今日一番の歓声が飛んできた。意味分かんないけどもういいや。
それから時間も過ぎ最後の質問になった。
『お二人のこれからの目標はなんですか?』
なんか最後にやっとまともな質問がきた気がするわ。今まで通りお先にどうぞと促せば
「では、私から。今トレセン学園に語られている一つの目標がある。”シンザンを超えろ”。単純に考えるのであればかの五冠ウマ娘を超えろということでだろう。だがしかしそれだけで本当にシンザンを超えたことになるのだろうか。だから私は宣言する。これから天皇賞春を皮切りに王道路線の全てのG1を勝利しよう。そして最後にはロンシャンレース場で勝鬨をあげよう。日本のウマ娘は世界に届くと、私に勝利したあるウマ娘は証明してくれた。であれば、それを受け継いだ私は日本は世界を超えられると証明してみせよう!」
耳が痛くなるほどの歓声が飛ぶ。それも中々やまずに私は耳を押さえっぱなしだ。てか、もうこれで終わりで良くない? あんな夢語られた後に話すの嫌なんだけど。このままフェードアウト出来ないか、なんて画策していたらマイクを渡された。はぁ、逃げることも許されないのか……
「あー、なんかすごい目標の後にちっぽけな感じで申し訳ないんだけど、私の目標はG1を勝ちたいなってだけ。当面は夏の札幌記念を目標にして秋からG1参戦したいと考えています」
そこで一旦言葉を切る。拍手は来るけどなんとなく満足してないのはわかる。だから
「後、個人的な話なんだけど死ぬほど大嫌いなやつがいるんだけどそいつをボッコボコにしたいと思ってる。なんかそのバカは世界一になってくれるらしいし、それに勝っておけば世界一に勝ったウマ娘って言えるのでそんな感じで」
「私はそうそう甘くないぞ」
熱を孕んだ目で睨まれる。
「あんただけがカツラギエース先輩に夢を見たわけじゃないのよ。精々首洗って待ってなさい」
にらみ合う私達に拍手と歓声が飛ぶ。
『はい! 途中色々有ったけど最後はバッチグーに終わってくれてお姉さん一安心! この後のエキシビションレースにも二人共出るのよね?』
「ああ」
「もちろん」
『それでは皆さん! 本日のトークショーはこれにて終了です! 二人のレース結果と二人の勝負服はレースまでに乾くのか!? どっちも目が離せないわよー!」
あ、そうじゃん、この後走るんだよ。流石にこんなビッチャビチャで走りたくない。どうしようかと下手人の方をみれば
「あー、済まない私は勝負服の予備もあるんだが、もしかして君は……」
取り敢えず無計画な愉快犯の頬を思いっきりはたいた後観客に一礼して急いでトレーナーと乾燥機を借りられるか聞くために走り出した。
あのバカ! レース前に走らせるな!
今回すごく悪い評価付きそうで怖い
こんなのルドルフじゃない!てお叱りを貰っちゃいそう…
本筋と関係ない幕間のような話は
-
いる
-
本編を進めて