皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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どうしてもここまで書きたくて連投です
今日これの前にもう一本上げているので未読の人はそちらから


叩かれてこそ強くなる。

「ああーくそ、やっぱりこうなるんだ」

 

 なんとか勝負服も準備ができて挑んだエキシビションレース。私とあいつ以外に名だたるウマ娘が何人もいて結局18人フルゲートになった。芝2000、私の一番得意な距離だ。レース展開も予定よりもうまくいったぐらいだ。先行して出来る限りあいつとの距離を取ってなんとか先にゴールする。練習よりもうまくいったぐらいだ。

 その結果があいつが一着でそこから一バ身あいて先輩三冠ウマ娘、そこからさらに二バ身差で私。確かに皐月の頃よりは近づけた、近づけたんだけど……

 

「もう届かないって思っちゃった……」

 

 あいつとの三バ身も、先輩との二バ身もどうやっても届かないとそう思ってしまった。無理だと思ってしまった。

 

 やっと立ち上がれた私をよそにあいつと先輩はすでにインタビューを受けている。私が立ったのに気づいたんだろう、インタビュアーを連れてこちらに近づいてくる。近づいてきてしまう。

 

「いい勝負……」

 

 あいつが声をかけようとしてくるけどそれを手で止める。

 

「ごめん……、今は無理……。多分ひどいこといっちゃうから。大丈夫……ライブまでには戻るから」

 

 感謝祭のエキシビションレースであっても負けは負け。本当はさっきみたいに適当に話すぐらいがいいんだろう。あいつも先輩も息の戻り方からして本気であっても全力じゃなかったんでしょう。それに比べて私は力尽きる一歩手前どころか踏み込んだような状態だ。

 突きつけられた実力の差に何も言うことも出来ずに一言謝って地下バ道に戻っていく。そこにはトレーナーが待っていてくれた。まったく、こんな時ばっかり気がきくんだから……

 

「やっぱり勝てなかったよ」

 

「そうだな」

 

「いやー、いけると思ったんだけどね、でも結構成長したんじゃない?」

 

「いいんだ、もう我慢しなくて良いんだ……」

 

「何言ってるのよ、私は……私はがんばった……。頑張ったのに! 勝てないって思っちゃった!」

 

 ひどい、今優しくされちゃったらもうダメだ。

 

「浮かれてたんだ、勝負服なんて着て、あいつと同じステージに立って、近づいたと思ってた、強くなったと思ってた。

でも現実は違った。追いつけない、もう届かない。どうすればいいの! 私は! 何をすればいいの!」

 

 涙も言葉も止めどなく流れ続ける。こんなことになるならステージであんなこと言わなけりゃ良かった。井の中の蛙ですらない、横にいるあいつのことを何も分かっていなかった。もう嫌だ、やめてしまいたい。あんな偉そうなことを言っておいて自分が負けたらこれだ、情けなくて情けなくて辛くて悲しくなる。

 きっと今日のせいで注目されてしまうだろう。こんな惨めな私を見られてしまうだろう。もう嫌だ嫌だ走りたくない。

 

「まずは部屋に戻ろう……」

 

 何も言わず手を引いてくれるトレーナーに連れられて控室に戻る。さっきまではここで勝つために作戦を練っていたのに、あんなに熱が有ったのに、今はただ寒々しいだけだ。

 

「ごめん、一人にして……」

 

「ライブまでまだ時間がある。近くなったら来る」

 

 そう言ってトレーナーが出ていき、私一人になる。自分で頼んで一人になったのに、次の瞬間に寂しくてまた泣きそうになる。そうして何も出来ず、何も考えられない時間が過ぎていく。そのうち扉がノックされる。時計を見ればまだ時間はそんなに経っていないのに何か有ったのだろうか? 思ったよりも小さな声しか出なかったけどトレーナーには聞こえたようでドアが開く、ドアが開いたんだけど……

 

「先程の君がらしく無くてな。心配で見に来たぞ」

 

 今一番会いたくないあいつがそこにいた。どうしてそんな人の心を逆なでするようなことをするの? ああ、言ってたわね、実力を見せつけるって。流石は皇帝様、有言実行して念入りに心を折りに来たわけ?

 

「さっきも言ったけど今あんたの顔見たくないの。ライブまでにはどうにかするから出てって」

 

「だめだ、今君を放っておくと二度と共に走れないような気がする」

 

「良い勘してるわね、もう突っかかるのもやめてあげるわ。安心した?」

 

 もうこいつに突っかることも出来ない。たった一度の敗北でここまでダメになるなんて、しかもそれが自分が、なんて数時間前の私じゃ想像も出来ないでしょうね。

 

「……なにがあった? いつもの君らしくないぞ」

 

「何もなかったのよ、普通に走って普通に負けた。それだけの話。もう良いでしょ早く行って」

 

「何を言っている、今の君を見て……」

 

「いいから出ていけ! シンボリルドルフ!!」

 

 そこまで言ってやっと出ていってくれた。だからあいつは嫌なんだ。負けウマ娘の気持ちがわからない。何が次に向けてだ。そんな気持ち湧く訳もない。もう嫌だ惨めな私なんていなくなったほうが良いでしょ。

 

「ああ……、さっき言ったとおりあいつに八つ当たりしちゃったな。なんだ、結局私最低じゃん……」

 

 叫んだせいでのどが渇いて飲み物を取ろうと立てば奥にある姿見に写ったのは情けない私とそんな私にはもったいないような勝負服。嗚呼せっかく勝負服作ってもらったのに結局ちゃんとしたレースでは着ずじまいか……。残念だけどこんな立派なもの持って帰ろうにも手入れすら出来ない。せっかく作ってもらったから一度ぐらいこれでレースを走りたかったけど、今の私にそんな価値も権利もない。

 

「ああそう言えば、一度ぐらいあの子にも見せたかったな……」

 

 ルームメイトだったあの子は勝負服も似合っていた。私なんかとは違うG1も勝ってもっと活躍すべきウマ娘だった。なんであの子が走れなくなって私が走ろうとしていたんだろう。

 そんなことを思っていたら机の上に置いてある携帯が二、三度震えていた。いつもなら頼りなくて見逃すことも多いけど、この静かすぎる控室では何よりうるさく騒いでいた。今はなにも見たくない。見たくないけどもしトレーナーからの連絡なら、今日で最後にするんだし迷惑をかけるわけにもいかない。見るぐらいならなんとかなるだろう。いつもよりも何倍も緩慢な、それでも今できる精一杯で通知欄を開く。トレーナーじゃなければそれで終わりの話だ。そしてそれはトレーナーからじゃ無かった。

 

『見たよ、かっこよかった』

 

『レース惜しかったね』

 

『次はレース場で会おうね、見に行くから』

 

それは年末から私が何度メッセージを送ろうと一度も既読がつかなかった相手からのメッセージだった。

 

それはなんの変哲もない短いたった三つのメッセージだった。

 

それは私の心に火を入れるのに十分なメッセージだった。

 

 

「ああ……、あああああ……」

 

見てくれていたんだ。こんな私を。

 

かっこいいと言ってくれたんだ。こんな情けない私を。

 

次があると信じてくれているんだ、こんな弱い私を。

 

 ああ、弱音を吐いていたんだ。私が情けないのなんて、私が弱いのなんてずっと前からそうだったじゃないか。自分で言ったんじゃないか、こんな情けない私を、こんな弱い私を応援してくれる人がいるんだと。

 

「そうだ……、私には立ち止まるなんて許されないんだ……」

 

 あいつに落ち込むことを許さないと言ったのなら、私が折れたままなんて許されないんだ。そうだ、私は強くもない、有名でもない、なんでもないただのウマ娘だ。だから、ウマ娘なのだから負けようが心が折れようが止まる権利なんてない。走って走って走って走りきって、いつか来る終わりのために走り続けなきゃいけないんだ。惨めでも無様でも前に進まないといけないんだ。

 もう一度、今度は自分の意志で姿見を見る。そこにいたのは泣きはらしてブサイクな私がいる。でもさっきまでの情けない私じゃない。胸を張って誰にだって自慢できる勝負服を着ている私だ。今更気にする評判も外聞もないんだ。ちょっとステージであいつのおまけでチヤホヤされてスター気取りか? 反吐が出る。

 

「思い出せ、私の夢を。思い出せ、私の誇りを」

 

 涙はもう流れない。

 

「思い出せ、あの人からもらった熱さを。思い出せ、あの子からもらったあたたかさを」

 

 レースも終わって時間も経ったというの私の体は心に呼応するように熱を持つ。

 

「あー、そろそろ時間なんだが……」

 

 トレーナーが入ってきて私を見て止まる。そりゃそうだろう。さっきまでいかにももうだめです。みたいな顔してたやつがさっきの今でメラメラ燃えてるんだから。

 

「ありがと、行ってくるわ」

 

「あ、ああ」

 

「あ、それと」

 

 すれ違った後振り返ってトレーナーを見る。私の違いに驚いていた彼もすぐに真面目な表情になる。

 

「明日からまたあのバカに勝つためのメニューよろしく」

 

「ははっ、また徹夜しろってか? しかし、何が有ったんだ? さっきまでは完全に折れたと思ったんだが」

 

「ふふ、折れてるのは今だって一緒よ。だけどね私は縁だけには恵まれてるのよ。だから折れていようが走るだけよ」

 

「……若いってのはいいねえ、そら行って来い。飯が食えなくなるようなメニュー用意しておいてやるよ」

 

 いつかみたいに優しく、でも力強く背中を押される。

 

「ええ、行ってくるわ」

 

 

 

 

 

 

 なんてカッコつけたは良いけど、あいつと会うの気まずい……。そんなことを考えていてもあっと言う間に到着してしまい、あいつと先輩となぜかさっき司会をしてくれてた先輩ウマ娘までいる。嫌々近づいていくけど願い虚しくあっという間に見つかって囲まれてしまう。

 

「あ、あのだな、先程は済まなかった。なにが君を傷つけてしまったのかわからないんだが、私が悪いんだろう……」

 

 そうやって頭を下げてくる。あいも変わらず人の心がわからないこって、だけどこのままにしておくわけにもいかないし無駄に高いあいつの鼻をつまんで私の顔に向けさせる。

 

「い、いふぁいぞ! わふぁしは真面目な……」

 

「ねえ、私の顔一発叩かせてあげる」

 

「な、何を言っているんだ? 私にそんな趣味はないぞ!?」

 

 解放してあげた途端騒ぎ出す。まったく、こいつにはおしとやかさってもんがないのかしら。

 

「いいからさっさとして。私の顔を叩かせてあげるなんてもうないわよ」

 

「うーん、なんだかわからないがいつもの君に戻ったようだし……。後で文句を言わないでくれよ?」

 

 バチンという音と共に頬に痛みが走る。こいつ……手加減てもんを知らないの!?

 

「君が言うからやったんだが、これに……」

 

 言い切る前に、私もあいつの頬をいつもより気持ち軽めに、でも今感じる痛みを載せてはたいてやる。

 

「な、なんのつもりだ! いつにもまして変だぞ!」

 

「気にしないでいいわよ。これでおあいこ。貸し借りなしにしてあげるわ」

 

 えー……、なんていつものこいつから絶対でないよう情けない声を聞いて少しは溜飲が下がる。まあ、ほとんど八つ当たりみたいなもんだけど、水を頭からかけられた恨みにでもしておこう。

 

「悔しかったらレースでやり返してみなさい」

 

「今日勝ったのは私のはずなんだが……。それにもう一度走ってくれるのか?」

 

 胸を張り誇り高い敗者として言ってやる。

 

「あんた、もう忘れたの? 私の目標はバカみたいな夢みたバカに勝つことなの。レース以外で勝っても意味ないじゃない」

 

「ああ……、そうか。なら私はバカみたいな夢を実現させて何度でも返り討ちにしてやろう」

 

 

 

 

 ここで終わってくれたらまあ、あいつとなんて嫌だけど綺麗な話として終わったんだけど何を思ったか、この後ライブで一緒に踊るはずの先輩が

 

「アタシを仲間はずれなんて許さないよ!」

 

 なんて言いながら私とあいつをはたいた後自分も叩くように言ってくるし、あいつはあいつで普通に叩くし。私は断ろうとしたけど圧が強くて、根負けして軽く叩いたらそれじゃダメ! とか言われて、結局三人とも頬を真っ赤にして感謝祭の締めのライブに出てまた変な憶測をされてしまうこととなった。

 あいつの周りってまともなの私だけじゃない?

 

 

 




これどうせならつなげたほうが良かったかな?

本筋と関係ない幕間のような話は

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